自分が信じられない!/後編





覚えたばかりの深いキスはどこか甘い。菓子のような人工的なものとは違う、愛しさと欲望が混じり合った不思議な甘さ。相手が他の誰かでも、同じ味がするのだろうか。 そんな疑問も、密着した細い身体を抱き締めていると脆く消え去る。今ここで感じているものだけが心をいっぱいに満たす。
とにかく欲しい気持ちを抱えながら、玄関から場所を変えた先は真雪の仕事場兼寝室だった。仕事で使うパソコンが置かれている机のそばに、ひとり用のベッドがある。
気持ちが通じ合った後も、ゆららは自分からこんなに激しく真雪を求めたことはなかった。何かきっかけでもなければ、踏み出せずにいた。まさかそれが親友への嫉妬という、 夢にも思わなかった展開に戸惑う。
以前、半裸を見せているので今更下着姿を晒しても抵抗はないと思っていたが、真雪が先に服を脱ぎ始めた途端に動揺してしまった。上下お揃いの、ピンクと茶色のストライプ 柄の可愛い下着。見えない部分にも気を抜かない主義なのだと改めて感じる。制服を脱ぐと色気のない、薄い水色の下着をつけている自分が急に恥ずかしくなった。
手を軽く握られて我に返る。見上げてきた真雪の、まっすぐな視線に心臓が落ち着かない。

「好きにしていいって、言ったのに」
「そう、ですけど……いざこうなると、緊張しちゃって」
「慣れてないなら、私が教えてあげようか?」
「えっ」
「なんて、冗談。たくさん経験してるわけじゃないし」

一度も、とは言わないところに引っかかったが、あまり考えたくなかった。20歳という真雪の年齢を考えると有り得なくはないが、ゆらら以外にその肌を見せている姿は想像できない。 その名の通り、雪のようにとまではいかなくても色白の肌には、余計な脂肪はついていない。むしろこの小柄な身体にはちょうど良いくらいなのか。

「寒い……早くベッドに入ろ」
「ん、あっ、はい」

囁くような声で言いながら、ゆららの肩に額を埋めてくる真雪の温もりに息を飲んだ。


***


タオルケットの下で抱き合って、肌を重ねているとそれだけで幸せな気分になる。そろそろ更に先に進むべきなのかもしれないが、そのタイミングが掴めない。
首筋や胸元、そして下腹に唇を押し当てていくたびに真雪は小さく声を漏らす。内腿に触れると、まるで誘うようにゆっくりと足が開かれる。その奥からにじみ出てきたもので、 下着には濃い色の染みができていた。ゆららの拙い愛撫に感じているのだ。まだ子供の自分には、生々しい光景だった。

「教えてください、気持ちいいところ」

真雪は自分から下着の端を摘んでそれを下ろしていく。隠されていた部分から現れた、薄い茂みとピンク色の尖り。そして視線をわずかにずらせば、透明な液体があふれてシーツを濡らしていた。 明らかに感じているくせに戸惑い気味な動きで、真雪が膣に中指を埋めた。
深いところまで沈めた指を動かしているうちに、声は追い詰められたようなものに変わる。
こんなに乱れた真雪の姿を、ゆららは初めて見た。近くで眺めていると、こちらまで身体の奥が熱く痺れてしまう。

「ゆららも、気持ち良くしてあげる」

快感に溺れながらも真雪はそう言うと、薄く笑みを浮かべてゆららを誘った。


***


全く抵抗がなかったと言えば嘘になる。真雪からこの体勢を要求された時は混乱した。そして実際にやってみると、恥ずかしくてどうにかなりそうだった。
真雪の太腿の奥に顔を埋め、硬く尖ったところに舌先を滑らせる。するとゆららの膣を指で拡げていた真雪が、高く喘いだ。濡れ始めた秘所に吐息の温かさを感じる。
動物みたいだと思った。一緒に気持ち良くなれる体勢といえば聞こえはいいが、お互いの性器に顔を寄せて貪り合うという卑猥な行為だ。
ちゅうっと音を立てて吸われると、強い刺激でゆららは身体を小刻みに震わせる。

「やだ、まゆきさん……そんなとこ」
「あんただって今、同じようなことしたでしょ」
「私はっ、違う」
「自分で見たことある? ゆららのここ、可愛い色してる」
「ほんとに、やだあ……もう、だめ」

吸われるだけでは済まず、膣内に舌まで潜り込んできた。完全に翻弄されっぱなしで、経験は少ないという真雪の言葉が疑わしくなる。負けたくない一心でゆららも再び舌を 使い、真雪を攻める。これまでの口喧嘩が形を変えて、今はどちらが先に相手を限界まで導くかを争っていた。

「やっ、あ!」

自分でも知らなかった弱い部分を探り当てられてしまえば、もう逃げられない。視界を涙でにじませて、ゆららは首を横に振る。そこから先は何もできないまま、あっけなく達した。


***


「もしかして後悔してる?」

駅に向かいながら黙っていると、隣を歩く真雪がゆららの手に触れてきた。そこから自然な流れで手を繋ぐ。
指や舌で愛撫されている時の真雪は、気が強くわがままな普段の様子からは想像できないほど淫らだった。快感を追う姿、なめらかな肌の手触りや甘い声が今でも忘れられない。

「いえ、何かすごいことしちゃったなって」
「家まで来て、がっついてきたのはあんたなのに」
「人を獣みたいに言わないでくださいよ」
「ん? 違うの?」

愉快そうに目を細めた真雪に顔を覗き込まれて、思わず目を逸らす。
強く否定できないのが悔しい。年の差もあるせいか、やはり真雪には勝てない。
とうとう一線を越えてしまい、これから真雪とはどうなるのかと考えた。今までのように一緒にいるだけでは満たされなくなり、会うたびに求め合ったりするのだろうか。
できれば真雪には、他の人と深い関係にならないでほしい。独占したいという気持ちが、更に強くなる。いつの間にこれほど貪欲になったのか、こんな自分が信じられない。




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2011/12/17