ごみ棄て場は何処



「わあ、今日も来てる」

その中にきちんと2つ折りにされた紙が入っているのを見て、ツバサは思わず表情を緩ませた。
本拠地の2階には、住人達からの意見や要望を聞くための目安箱が設置されている。 それをチェックするのは、軍主の肩書きを持つツバサの仕事だ。
普段は聞けない皆の本音を知る事が出来るので、なかなか楽しい。
中には他の誰かに宛てた手紙を間違って入れる者も居て、覚えの無い内容に驚いてしまう事もあったが。
早速手紙を開いてみると、見慣れない筆跡でこう書かれていた。

『最近、ニナがフリックへ差し入れするらしい菓子の試食を迫ってくる。
正直に「まずい」と言ったら怒って帰って行ったが、次の日にまた菓子を持ってきた。
何度食べても甘すぎて、とても食えたものじゃない。どうにかならないものか』

手紙の最後に添えられていた名前を見て、ツバサは思わず苦い顔をした。
怖そうな人、という印象が初対面の頃から拭えない、あの黒づくめのガンナー。
彼が普段はどこに居るか、ツバサは知らない。行動や思考がいまいち読みにくい人物だからだ。
この城の住人達の中で、あの男と親しく話せる者はどのくらい居るだろう。
ツバサ自身も、一体何を話せばいいのか分からない。軍主という立場でありながら、果たしてこれでいいものか。 悩んではいるが、一向に答えが出る気配は無い。

「……ニナも大胆だなあ。クライブさんにお菓子の試食をさせるなんて」

この手紙の内容が本当なら、クライブはニナの手作り菓子を繰り返し試食しているという意味で。 その度に酷評をしてニナを怒らせているというわけだ。
ツバサはますますクライブの事が分からなくなった。そんなに自分の口に合わないものなら、食べずに断ればいいのに。
ニナのほうも、まずいと言われるのが分かっているのに何度も試食させようとするなんて。 明らかに人選を間違っているとしか思えない。

「変な2人」

そう呟くとツバサは、手紙を懐にしまってその場を後にした。



数日後、目安箱には再びクライブからの手紙が入っていた。

『最近、あいつがフリックの話ばかりするのが気に入らない。
あの素晴らしい剣さばきがどうだの、あの笑顔が最高に素敵だのと、頼んでもいないのにそんな事を毎日聞かされている。
話を聞くだけなら、俺じゃなくても誰でもいいんじゃないのか?
お前のほうで面倒見てやってくれ』

無理です。
そう言いたかったが、あいにくクライブはここには居ない。どこに居るかも分からない。
フリック以外の男には関心が無いと思いきや、ニナにしては珍しい事もあるものだ。
ニナに捕まったら易々とは逃れられない事は、毎日必死で逃げ回るフリックの様子を見ていれば分かる。
関心の無い話題なら、適当に聞き流してしまえばいいのだ。
それともクライブにはそれが出来ない理由でもあるのだろうか。



更に1週間後、目安箱の中にはゴミが入っていた。
正確に言えば、ぐしゃぐしゃに丸められた紙屑だ。
ツバサは何事も無かったように処理しようとしたが、気になったのでそれを開いてみる。 するとあの、少し荒っぽいような筆跡で何かが書かれていた。

『最近、自分の心が分からなくなる。
あいつがフリックを追い回しているのも、フリックがあいつに追われているのも、全てが気に入らない。
明らかに見込みの無い男に執着しても、時間の無駄じゃないのか。
どうにかしたいが、多分どうにもならないだろう。
俺はきっと、あいつの事が』

文章はそこで途切れていた。
ここまで書いたはいいが急に恥ずかしくなって、ゴミのように丸めて……ここに捨てたのか。 けれど目安箱はゴミ箱ではない。
手紙になり損ねたクライブの心の日記を読んでしまったような気がして、ツバサは重いため息をついた。



翌日、目安箱付近の壁に紙が張られていた。

『目安箱への手紙は個人の日記帳ではありません。
独り言、恋愛相談、ついでにノロケ話も却下します。
また、書き損じた紙は下のゴミ箱へ捨ててください。目安箱には入れない事!』




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