子供っぽい悪戯



仲間の能力強化のためと称して訪れた、ティント市へ向かう山道。
ルックが呪文を唱えると竜巻が現れ、目の前の怪物達を切り裂いていく。 その威力は術者の能力に比例するためさすがに強力で、発生した竜巻の勢いがこちらにまで届いた。
パーティーの皆が強い風に煽られる中、クライブは黒いフードが脱げないように片手でそれを押さえながら立っている。 フードの下を晒すのがよほど嫌いらしい。そんな彼の様子を横目で見ながらニナは、獲物を狙う獣のように目を光らせた。
隠されているものほど見たくなるというのは、おそらく全ての人間共通の真理なのだった。




「やめたほうがいいと思うけどなあ……」

城の中のレストランで、アイスクリームをスプーンですくいながらメグが言う。

「だって気になるじゃない」

その向かいのニナは、グラスの中のアイスティーをストローでかき混ぜた。やはりアイスクリームも頼めば良かったと思いながら。

「メグはさ、前にもあいつと一緒の軍に居たんでしょ?見た事無いの? 謎に包まれたフードの下の素顔を」
「確かに一緒の軍には居たけどね、そんなに接点無かったもん。だいたい宿星持ってる仲間だけでも何人居たと思う? 108人だよ?  更に一般兵まで入れたら……」
「わ、分かってるわよもう!」
「あのね、言っとくけどあいつに興味本位で近づいてもいい事無いよ」
「うっ……」

メグの厳しい指摘にニナが言葉を無くした時、2人に接近してきたひとつの人影があった。

「2人共、そんなに真剣な顔して何話してんの?」

相変わらずの軽い調子で声をかけてきたシーナを見て、ニナは何かをひらめいたらしく手を打ち、椅子から立ち上がった。

「シーナ、ちょうどいいところに来てくれたわ!」
「……え?」

ニナの勢いに戸惑い気味のシーナ。それを見たメグがため息をついた。

「こうなったらもう、何言っても無駄かあ……」




「なんで俺がこんな事を……」

真夜中の風呂場、シーナは大理石の浴槽に浸かりながら不満げに呟いた。
時間が時間だけに、彼以外に風呂場に居る者はいない。
風呂はいつもなら夕食後に入ってしまうシーナだったが、この時間まで待って入ったのは理由があった。 ニナはクライブの黒いフードの下の様子がどうなっているか知りたいらしいが、 肝心のクライブのガードがやたらと固いためうまい方法が見つからない。 しかし風呂に入る時ならフードを脱いで無防備な状態になるはずだと。 ニナは男湯に入れないから、代わりにシーナにそれを見て来いと言うのだ。 ちなみにクライブがいつも真夜中に風呂へ行くという情報は、リッチモンドに調べてもらったらしい。 最近の探偵はそんな事まで調べてやるのかと、シーナは驚き半分、呆れ半分という割合でそう思った。
それにしても、ニナはどうしてそこまであの無愛想な男に拘るのだろう。 あんなに熱を上げていたはずのフリックはどうなったのだ。年頃の女の心は移ろいやすいと聞いたが、 ニナの場合もまさにそれかもしれない。 そんな事を延々と考えているうちに、風呂場の引き戸が開かれて誰かが入ってきた。 湯気で顔は良く見えないが、背の高い男だった。次第に浴槽のほうへ近づいてくる。

(えっ、あいつ、もしかして……)




翌朝、ニナは部屋を訪ねてきたシーナに事の詳細を聞き始めたが、返ってきたのは冴えない返事だった。 大して面白くもなんともなかったぜ、という。

「俺から見れば可も無く不可も無く、みたいな?」
「ふーん……」
「まあ、自分で直接見たけりゃ俺は止めないけどな。期待外れで拍子抜けするだろうけど」
「そっかぁ、わざわざありがとね」
「もう、野郎と2人きりで風呂に浸かるのは勘弁だよ。色気無さすぎ」

そう言って苦笑いしながら、シーナは去って行く。

「面白くもなんともない、か……」

シーナの背中を見送りながらニナは呟いた。




「それは残念だったね」

ニナの話を聞いたメグが、隣を歩きながら笑う。

「でもまだ、私が直接見たわけじゃないわ。本当に面白くないかどうかなんて分からないじゃない」
「まあまあ、いい加減諦めなさいって」

メグはニナの肩を2、3度軽く叩くと、1人で兵舎のほうへ向かった。
階段の手すりから下を見ると、約束の石版の前に生意気な魔法使いの少年が立っていた。 彼の目は常に冷めている。見なくても想像がつく。

「……おい」

背後から聞こえてきた、テンションの低い呼び声。振り向いたニナはその声の主の姿を見て、無意識に表情を緩ませた。

「あら、おはようクライブ」
「シーナの事なんだが」

クライブは挨拶も返さず、突然本題らしきものに入った。無駄な雑談を好まない彼らしいが、 なんでもかんでも切って捨てるような態度はどうかと思う。

「シーナがどうかしたの?」
「昨日の夜に風呂場で会ったんだが、あいつは何故か俺の顔をジロジロと見たまま何も言ってこない。 言いたい事があるならはっきり言えと伝えてくれ」
「えっ、あ……うん、分かったわ」

まさか自分の差し金とは言えず、ニナは苦笑いをしてやり過ごした。

「ところでクライブにお願いがあるんだけど」
「何だ」
「そのフード取って見せてよ」
「断る」
「ちょっとくらい減るもんじゃあるまいし、いいじゃない」

ニナの十八番である半ば強引な言動で押してみるが、クライブの警戒に満ちた表情は崩れない。

「目的は何だ、見てどうするつもりだ」
「ほんっとにガードが固いわねぇ……分かったわよ」

くるりと背を向けて、ニナはその場から立ち去る……振りをして。

「なんてね!」
「………っ!?」

一瞬ほど間を置いて再びクライブのほうへ向き直ったニナが、彼のフードを後方へ素早く叩き落す。 ばさっ、という音と共に目の前に現れた鮮やかな金色の髪。
それがクライブの背後から射してくる陽の光に透けた様がきれいで、ニナは思わず息を飲んだ。

「取るな」
「あんた、こんなにいい男なんだから。たまにはサービスしなさいよ」
「顔なんかどうでもいい。いらん世話だ」
「まーたそんな可愛くない事を言う」

面白くないわけがない。
もちろん期待外れでも無かった。
これはどう見ても、どう考えても。

……最高だ。




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