まちぶせ



「ちょっとお邪魔するわよ」

いつも通り図書館裏でぼんやりしていると、ニナが現れた。
その手には小さな模様が散りばめられた紙袋が大事そうに抱えられている。誰に渡すつもりなのかはもう分かっているので、 あえて聞かない。よく考えなくても1人しかいないだろう。
クライブが何も言わないのを肯定と受け取ったのか隣に腰を下ろしたニナは、しばらくの間遠くを見つめたまま動かない。 ため息をついたかと思えば、こちらに目線を向けてくる。そしてすぐに俯いて、再び重く息を吐き出した。

「ねえ」
「何だ」
「年の差って、やっぱり重要な問題……よね?」

あまりにも唐突な質問に、何と答えてやればいいか分からない。ニナがどういう答えを望んでいるのかも。

「さっきね、メグとレストランでお喋りしてた時にその話が出たんだけど。例えばあんたが誰かと付き合うとしたら、 そういうのって気になるほう? 2つとか3つとかならまだしも、10年くらい離れてたらさすがにキツイと思う?」

先程よりは具体的になったが、別の意味で答えにくい展開になった。
質問の隅々から「私とフリックさんって年齢的にどうなの?」という匂いを感じる。多分これは考えすぎではない。
釣り合うも釣り合わないも、別にまだ付き合っているわけではないのだから、ニナがいらない心配をする必要は無いと思うが、 一応は真剣に悩んでいるようなので無視はできない。

「そういえば、あんたは何歳だっけ?」

自分なりの答えを組み立てていると、ニナが思い出したかのような口調で問いかけてくる。 ついでのような扱いに、多少の不満を感じた。

「27」
「あらっ、フリックさんと1つ違いなのね!」
「……何が言いたい?」
「ち、ちょっと! 何怒ってんのよ!?」

思わず眉根を寄せると、非難の声を浴びせてきた。
真面目に答えてやろうという気が失せてしまった。重ねて質問してきたかと思えばこの有様だ。 この鈍感さはどうにかならないものか。フリック関連の質問ならビクトールのほうが答えられるだろうし、 わざわざこちらに話を振る理由は一体何だ。
自分は神でも仏でもない。他の男についての熱心な想いを聞かされて、良い気分でいられるわけがない。
ニナにとって、自分はどういう存在なのだろうか。フリックに差し入れする菓子の試食をさせられ (結局言うとおりにしているのも良くないと思うが)、こうしてフリックに関する相談まで持ちかけられている。
こんな事になるなら、最初から関わらないほうが楽だったのかもしれない。
もしニナにフリックと話す機会があったとして、そんな時にオデッサの話ばかりされたらどういう気持ちになるか、 訊ねてみたいものだ。興味など全く無いのに、ニナのせいでフリックが昔付き合っていた女の情報まで得てしまっている。
もう何年も前から、自分にはやらなければいけない事がある。なのにこんな、11も歳の離れた娘に調子を狂わされて。

「本当に好きなら歳が離れていても、俺は構わない」
「……そうなの?」
「ただし、これは俺の考えだ。まだ気になるなら、他の奴らにも聞いてこい」

クライブは何気無く空を見上げる。空が、厚い雲に覆われていく。
対するニナは憮然とした表情で、こちらを睨んでいた。

「興味の持てない男の人に声かけるほど私、暇じゃないのよね」

ニナはそう言うと、急に立ち上がった。何事かと思ったが、道場の出入り口にフリックの姿が見えたので納得した。 ここでフリックを待ち伏せしていたのだ。
それ以上語らずにフリックの元へ駆けて行くその背中を見送りながら、クライブはニナが最後に残した言葉を思い返す。

「……無駄な期待をさせるな」

雨の予感がする。それでも、ここから少しも動けずにいた。




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