月明かりの下で



気が付くと、クライブの姿を探している自分が居る。
しつこく追いかければ逃げられるというのは今までの件で散々学習したはずなのに、 このままでは同じ間違いを繰り返してしまいそうだ。
歯止めのきかない自分がたまらなく嫌いで、腹が立つ。
シーナのように気軽に遊びに誘ってくれるわけでもなく、カミューのように細やかな気配りをしてくれるわけでもない。 黙っていれば自分を置いてさっさと先を行ってしまうような、誰がどう見ても素っ気無い男だ。 それなのに、どうして。
今まで違う男を熱心に追い回していた自分がどう言っても、きっと信じてはもらえないだろう。
一体どうすれば伝わる?




小さな池が見える、図書館の裏手。
真夜中のせいか、ニナ以外にこの付近に居る者は見当たらないと思っていたが。
まるで暗闇に身を潜めるかのように、彼はそこに腰を下ろしていた。いつもの黒いマントがその身を包んでいる。
図書館の壁に背を預け、愛用の銃を抱えたまま動かない。

「こんなところに居たのね」

起きているのか寝ているのか分からないが、とりあえず声をかけてみる。

「何の用だ」
「別に、これと言って用があるわけじゃないけど」
「だったら……」
「戻らないわよ」
「……好きにしろ」

クライブの言いそうな事を予想して先回りすると、彼は諦めたかのように黙り込んで視線を下に向けた。

「前から聞きたかったんだけど、あんたってもしかして人間嫌いとか?」
「は?」
「あんたは私より先にこの軍に参加してたらしいけど、なんだか皆に打ち解けていないっていうか、 いつも1歩引いてるような気がしたから」
「……俺が参加したのは、他に目的があったからだ。そのためにこの軍を利用した。それだけだ」
「誰かを追っているって話をどこかで聞いたけど」
「お前には関係の無い事だ……それに」

そう言ってクライブは銃を構えると、正面に立っているニナの額にその銃口を向けた。
ニナは一瞬動揺して目を見開く。

「俺が組織で教えられたのは、暗殺の技と欺瞞と詐術」

銃口がニナの額から、心臓の辺りへ移動した。
相手は地面に腰を下ろしているとはいえ、逃れられそうにない至近距離。 彼に撃たれるような心当たりは無いが、冷静ではいられない。

「そして、他人を信じない事」

クライブは銃を下ろし、再び抱え込んだ。
最初からニナを撃つつもりは無かったらしい。全身に張り詰めていたものが緩み、思わず地面に座り込む。 ニナはクライブと向かい合う形になった。

「……それって、ちょっと寂しいわね」

他人を寄せ付けない、刃物のように研ぎ澄まされたような雰囲気。
それを見ているだけで、彼の言う組織というものが生易しいところではないというのは、容易に想像できた。
クライブが誰かを追っているというのは、3年前に終結した戦争でも彼と共に戦ったメグから聞いた話だった。 それがどうやら女性であるという事も。
シンもフリックも、そしてクライブも。今まで自分が興味を持った男には、どうして他の女性の影がついてまわるのだろう。 誰が悪いわけではない。だからこそどうする事もできずにいる。

「でも、あんたは本当に他人を信じていないわけじゃない。そうよね?」
「どういう意味だ」
「だって、この軍のリーダー……あの子の事を信じたから参加したんでしょ? いくら目的のために利用したいからって、 まるっきり信じていない人の元に身を寄せて、力を貸すわけないもの」
「…………」

かちゃり、という小さな音と共にクライブが立ち上がる。彼の衣服には色々なベルトや金具がついているので、それらが擦れる音らしい。 その重そうな装備は、人を追うには不都合なのではとニナは思うが、あえて口には出さない。 野暮な事を言って睨まれるのは勘弁だ。

「どこ行くの?」
「部屋に戻る」
「それじゃ私も自分の部屋に行くわ。1人でここに居てもつまらないもの」
「勝手にしろ」

……あんたが居ないなら、私がここに居る意味は無いわ。
心の中でそう呟きながら、ニナは背を向けて歩き出したクライブの後を追う。
静けさに包まれた城を、白く淡い月明かりだけが照らしていた。




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