零はめったに弱みを見せない。
年下なのにしっかりしているせいか、ミツルの前で泣いたり落ち込んだりしているのを見たことがない。 それでも部屋でひとりになると本当の気持ちを顔に出して、その胸に抱え込んでりするのだろうか。
たまには寄りかかって、甘えてほしい。日が経つにつれて、ミツルの中ではそんな願望が大きくなっていく。


***


放課後、いつも通り駅で待ち合わせた零と一緒にミツルの自宅で遊んだ。夕方までは家族が留守にしているので、気楽にくつろげる。
零を部屋に通した後、茶の間から飲み物と菓子を持って再び2階に戻る。部屋に入るとひとりで携帯をいじっていた零が、困った顔をしていることに気づいた。

「どうしたの、零」
「この携帯変えたばっかりなんだけど、使い方がまだ分かってなくてさ」
「み、見せて!」

これはチャンスとばかりに、ミツルは飲み物と菓子を畳の上に置くと向かい側に座っている零に身を乗り出す。 テレビでも宣伝中の新機種らしく操作に自信があるわけではないが、問題をうまく解決できれば零に頼れる男として見てもらえるチャンスだ。
尊敬の眼差しでミツルを見つめる零を想像して、思わず口元が緩む。頼れる男、という素晴らしい響きにすっかり酔ってしまった。まだ何もしていないのに。 しかしミツルが自分の世界に浸って酔っている間に、零は何かひらめいたような表情を浮かべて再び携帯を操作する。

「あ……そうか、なるほど。こうすればいいのか」
「えっ?」
「いや、根気よく試してたら何とかなった」

明るい調子でそう言うと零は携帯をポケットにしまい込んだ。結局ミツルはいいところを見せられないまま、零はひとりで問題を解決してしまったのだ。
やはり零が安心して甘えられるような男になるには、まだ足りないものが多すぎる。それは一生かかっても手に入れられないような気がして、気持ちが沈む。 それでも諦められない自分が居る。ミツルは凄いんだな、と言われてみたい。たまには安心して甘えてほしい。
俯くミツルに零が顔を寄せてきたのを感じた途端、急に我慢できなくなった。

「零! たまには俺に甘えてもいいんだからなっ!」

そう叫びながら大きく両手を広げたミツルを見る零は、目を丸くして明らかに呆然としていた。確かに突然こんなことを言われれば、誰でも驚くに決まっている。

「ミツル、急にどうしたんだ?」
「お、俺だって零より年上なんだからさ! その……あっ、兄貴だと思っていいんだぞ!」
「ありがとう、嬉しいけど……今は大丈夫だから、な?」

空回りしているという嫌な予感はしていたが、1度火がついてしまえば止まらずに暴走してしまう。目の前の零が引いているような気がして、ようやく我に返った。
ひとりで張り切っていた自分が恥ずかしい。自殺しようとしていたお前には頼れないし甘えたくない、と思われているかもしれない。 零の顔がまともに見られず、俯いて肩を落とした。

「俺って、やっぱり頼りないよな」
「そんなことねえよ、ミツルは義賊やってた時に俺を助けてくれただろ」
「でも、それ以外では零に頼られたことなんかないしさ」

零が急に言葉を無くしたことで、落ち込んだミツルの傷は更に深くなってしまった。自分から話を振っておいて勝手に沈んで、これほど馬鹿げた話はない。
沈黙するミツルの背中に、零の両手がまわされる。抱きしめられたのだと感じ、胸が熱くなった。 男のくせにこんなに女々しく構ってぶりを振りまいて迷惑をかけたのに、零は怒っていないのだろうか。

「俺は今のままのミツルが好きなんだから、無理に頑張らなくてもいいんだぜ」
「べ、別に無理なんかしてないよ……」

まるで零の全てで包みこまれているかのような、心地よくて甘い感覚。これでは今までと同じで何も変わらない。そんな情けなさを噛み締めながらも、 零にしがみついている手を離すことができない。先ほどまではあんなに零に頼って甘えてほしいと思っていたくせに。
ミツルの硬くて短い髪に触れて撫でる零に、顔を上げてくちづけをした。まだ慣れない不器用な行為にも、零は拒まずに応えてくれる。 舌を拙い動きで絡ませながら、零のシャツの裾から手を潜り込ませて肌をまさぐると零の身体がびくりと震えた。

「ぜろ、もっと甘えてもいいかな」
「もっと……って?」
「零の気持ち良くなってるところ、俺だけに見せて」
「そんなの、いつも見せてるじゃねえか……」

シャツを胸の上まで捲り上げ、小さな乳首を指先で優しく撫でる。息を乱す零を見て乳首への刺激を強くすると、零は唇を離して短く喘いだ。
更に乱れさせたくて、今度は舌先でねっとりと擦るように舐めてみる。震えながら喘ぐ零の胸から腹へと、舌と共に絡めた生ぬるい唾液が流れていった。


***


解した零の窄まりがミツルの亀頭の形に拡がり、じわじわと飲み込んでいく。
畳に押し倒した零を見下ろしながら勃起した性器で狭い腸壁を擦るように腰を動かす度に、零は苦しそうな顔をする。しかし出す声は甘いせいで気遣う余裕がなくなって しまう。
普段は聡明でしっかり者の零が、こうして男同士のセックスで乱れる様子が本当に好きでたまらない。 初めての告白もキスも童貞も全部零に捧げて、もう後戻りはできそうになかった。
最初は偽善者ぶっている胡散臭い奴だと思っていた。それなのに、いつの間にか好きになっていた。きっかけを思い出そうとすると、零が両手を伸ばしてミツルの身体に しがみついてきた。繋がったまま密着した途端、耳たぶに歯を立てられ不意打ちで痛みが走る。

「ミ、ツル……ちゃんと俺を見ろよ」
「俺はずっと、零しか見てないよ」
「本当だな? 信じていいんだな?」
「いいよ……」

偽りのない心からの返事を伝えると、こちらを射抜くような視線を送っていた零の表情が緩む。今もミツルを解放せずにしがみついてくる零が、珍しく甘えてきている ような気がして、性器を締め付けられる快感と共に甘く幸せな気分になった。






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