真夏の夜のご褒美





朝の9時を過ぎても窓の近くで寝転がっている赤木を見て、矢木はため息をついた。
確か今日は木曜日で、祝日でもないので学校に行かなければならないはずだ。
赤木が学校へ行こうと行かなかろうと、責められるのは矢木ではないので深刻になる必要はどこにもない。親のように口うるさく説教を しても素直に聞き入れるような子供でもないのだ。しかし、そう思っていても今の状況は非常に気になる。

「なあ赤木、学校での嫌がらせってまだ続いてんのか」
「どうしたの急に……されてたとしても、勝手にやらせておけばいいんじゃないの」
「いや、それが原因で学校行きたくないんじゃないのか。もう3日目だぞ」

そう言うと、今までこちらに背を向けて寝転んでいた赤木が振り返った。真顔で目線を合わせたかと思うと急に吹きだして笑う。 何がどうなっているのか分からずに矢木が黙っていると、赤木はゆっくりと起き上がった。口元にはまだ笑いが浮かんでいる。

「あんた、俺のことそんなに心配してたんだ」
「お前がずっと学校行かねえ理由は何なのか、気になっただけだ……」
「言ってなかったっけ? 俺の学校、今週から夏休みなんだよね」

それを聞いて呆然とした。よく考えると最近では暑さも本格的になってきて、学校ではその時期を迎える頃だ。 自分自身はもう学生時代からは遠ざかり、子供も居ないので全然意識していなかった。

「休みの時にまで制服着るなよ、紛らわしい」
「俺が何を着ていようが勝手だろ、それともあんたの好きな体操服のほうがいい?」

赤木の顔が近くまで迫ってきて、みっともないほど動揺した。体操服を着た赤木との、汗と精液にまみれた卑猥な行為を思い出して朝から身体が疼いてしまう。 制服の時よりも更に興奮していたのを、多分赤木は気付いている。そろそろまた見たい、と思う頃を見計らって着てくるので憎たらしい。

「それにしても蒸し暑いね、そこの団扇で扇いでくれる?」
「俺が扇いでもらいたいくらいだ、自分でやれ」
「言うとおりにしたら、今夜はすごいことしてやるよ」

すごいこと、と聞いてとても口に出せないような妄想が頭を駆け巡った。具体的な内容は何も言われていないのに、いかがわしい方向へ 考えが行ってしまう。今まで以上に過激で淫らな行為を期待して、それを早く赤木の口から明かしてほしくてたまらない。
そういえば野外で性交したことはなかったはずだ。夜に人目につかない場所でなら……そう思い無意識に赤木に手を伸ばすと、それを遮るように 団扇を押し付けられた。

「あんたが今やるべきことは、これだろ」
「し、仕方ねえな……その代わりさっき言ったこと、忘れるなよ?」
「ふふっ……分かってるさ」

矢木は団扇を受け取ると、赤木の顔や胸元に向けて念入りに風を送ってやる。
涼しそうに表情を緩める赤木を見て、今夜は我を忘れるくらい乱れさせてやろうと決意し、密かに低く笑った。


***


その日の夜、赤木を連れて銭湯へ行った。
珍しく他の客が見当たらないので、独占してるような気分になる。
いつも通りに湯船に浸かった後で髪を洗い、次は身体を……と思いタオルを使って石鹸を泡立てていると、隣で同じことをしていた赤木が 立ち上がって矢木を背後へ突き飛ばした。矢木はバランスを崩して床に背中を打ち、あまりにも突然のことに混乱する。
赤木は薄く笑いを浮かべながら全身に泡を塗りつけ、矢木に跨った。重なってきた細い身体が、石鹸の力を借りてなめらかに動いていく。乳首が擦れ合って思わず小さく呻いた。
柔らかい内股に太腿を挟まれて、妙な気分になる。ぬるぬるとした感触がじれったい。

「ねえ矢木さん、気持ちいい?」
「こんなの、どこで覚えたんだよ」
「さあね」

次はこっち、と言って赤木は反対側の太腿に跨って前後に腰を動かした。射精するほどの強い刺激は感じないが、聞こえてくる濡れたような音と 赤木の動きを眺めているうちに、どうしようもなく興奮してきた。すでに勃ち上がっている矢木の性器に伸ばされた赤木の両手を掴んで、行為を遮る。

「お前の言ってたすごいことって、これか?」
「そうだよ……たまにはこういうのも新鮮でいいだろ」
「このまま続けろよ、お前の好きなようにして構わねえから」

そう言うと早速、赤木が性器に腰を落としてきた。他の客が居ないのをいいことに矢木は昂ぶった欲望に任せて、赤木を何度も強く突き上げて喘がせた。
この状況で誰かが入ってきたら言い逃れはできない。そんな緊張感が更に気分を煽る。
たっぷりと精を吐き出して行為を終えた後は、もう1度身体を洗う羽目になってしまった。
しばらくこの銭湯には気まずくて行けないという、苦い気分になりながら。




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2007/7/22