不器用な愛情表現





股間を押さえて涙目でうずくまっていると、上から赤木の視線を感じた。

「大丈夫?」
「……に、見えるかよ!」

視線を上げた先の赤木は憎たらしいほど冷静な表情で、苦しむ矢木を見つめている。
男にとってこれ以上の痛みはないだろうと思う。これは落ち着くまでもう少し時間がかかりそうだ。 いい年をした男が、中学生の子供にこんな情けない姿を晒すという屈辱に耐えられそうもない。
夕食後に新聞を読んでいた時、やたらとちょっかいをかけてくる暇人の赤木を適当にあしらっていた。 しかし更に調子に乗ったらしい赤木に『もしかして不能になったの?』と囁かれた途端に黙っていられなくなり、逆上して立ち上がった。 こうして矢木と赤木の追いかけっこが始まり、狭い部屋中を器用に逃げ回る赤木を捕まえようとしてうっかり転倒した矢木は、卓袱台の端に股間を強く打ってしまったのだ。
しばらくは言葉ひとつ発することができず、魚のように口を開けたり閉めたりを繰り返すばかりだった。 こうなったきっかけを作ったのは赤木だったが、転んだのは完全に自己責任なので赤木を責めることはできない。
赤木に言われた不能という恐ろしい言葉が現実になりそうな気がする。もう一生誰ともセックスできないのかと思うと、あまりにも寂しすぎる。
そう考えて思い浮かんだのは今まで付き合った何人かの女達ではなく、赤木だった。

「まだ痛むかい、矢木さん」
「だ、だいぶ落ち着いたかも、な……」

大きく息を吐くと、ようやく股間から手を離す。それでもまだ動く気分ではないので畳に転がり仰向けになると、 赤木は何を思ったのか矢木の隣に寝転がる。そして胸元に頬を寄せてくるその仕草がまるで猫のようで、密かに愛しいと思った。
しばらく顔を見せなかった赤木が、今日の夕方頃久し振りにこの家を訪ねてきた。学生服の下に着ている白いシャツは半袖になっており、季節の移り変わりを感じさせた。
最後に過ごした日はまだ寒い日だった。炬燵もない部屋で厚手の上着を羽織りながら、温めた酒や焼きたての餅で寒さをしのいだ。
胸元で揺れる白い髪に触れると、優しい手つきでそれを撫でる。見た目よりも柔らかくて手触りがいい。顔を見せなかった間も、矢木の知らない誰かの家で過ごしていたのだろうか。

「今までどこ行ってたんだよ、お前」
「さあ、どこだろうね」
「ごまかすなよ」

更に問い詰めようとすると、赤木は唇の片端を上げて顔を近づけてきた。その流れに矢木が拒まなかったので互いの唇が触れ合い、重なる。
赤木の手が矢木の二の腕を掴み、離そうとしない。じわじわと気分が盛り上がり、赤木に覆い被さりながら強引に舌を押し込めた。
先ほどまで激痛に襲われていた股間は、赤木とのくちづけを交わしているうちに熱く、硬くなっていた。 赤木の手を取った矢木は、無言で訴えるかのように自らの股間に押し当てる。

「ほら見ろ、誰が不能だって?」
「何得意気になってんの、あんなの冗談なのに」
「お前のは冗談に聞こえねえからな」
「ガキの言うことなんて、さらっと流しなよ」

あんたはずっと変わらないよね、と笑う赤木のシャツの裾から手を入れると、乳首を指先で転がす。小さなそれは次第に尖り始め、感じていることを示していた。
ひたすら憎かった赤木を、こんなにも好きになったきっかけはもう覚えていない。息を乱す赤木を翻弄するために、尖った乳首を摘んで小刻みに擦った。
赤木はびくびくと身体を震わせ、矢木の背中に両腕をまわしてきた。縋るようにそんなことをされてしまっては、興奮を抑えられなくなる。

「もう我慢できなくなってんのか?」
「久し振りだから、ちょっと敏感になってるだけだよ……」
「俺とやるのが? それともセックスそのものが、か?」

意地の悪い矢木の質問には答えず、しつこく乳首を愛撫されている赤木は小さな声で喘ぎだす。シャツを捲り上げ、ズボンと下着を脱がせてみると相変わらず肌は白かった。
他の男に付けられた怪しい跡はどこにも見当たらず、会っていなかった時も赤木は矢木以外の男とは遊んでいないのかもしれない。
そう思い込んでどこか安心した。愛撫の痕跡など、いくら付けられても時間が経てば消えるものなのに。それを分かっていても、あえて知らない振りをした。

「ねえ、入れないの?」
「無粋な奴だな、もう少し楽しませろよ」
「趣味悪い……」

そう言って眉をひそめる赤木の両足を押し上げて広げると、尻の奥にある窄まりに触れた。そこはまだ慣らしていないので固く閉ざされている。 いつもは赤木の性器に浮かんだ先走りを使って慣らすのだが、今日は久し振りなので変わったやり方をしようと思う。
赤木の窄まりに顔を近づけ、ねっとりとした動きで皺の感触を確かめるように舐める。視線を動かすと、赤木の顔色が一瞬だけ変わったのが見えた。

「どうした、そんな顔して」
「昔のあんたなら、こんなこと絶対しなかったよね」
「そうだな」

低く呟くとぐりぐりと舌先を動かし、矢木は狭い内側に入り込もうとする。そこに熱い息を吹きかけているうちに赤木は勃起し、窄まりも淫らにひくついてきた。

「お前でも、恥ずかしくなったりするのか?」
「恥ずかしくなんかないよ」

赤木は声を震わせながら、矢木の頭に触れてくる。視線を上げてみると赤木は珍しく潤んだ目でこちらを見ていた。
めったに見せないそんな表情をされては、余裕がなくなってしまう。硬く反り返った性器を露わにすると、息を荒げながら赤木に覆い被さった。
唾液に濡れた窄まりに亀頭を押し当てると、内側へと誘い込むように赤木の細い足が矢木の腰に絡みついてくる。 そういえば奥までは慣らしていなかったことに気付いたが、言い出せる雰囲気ではなかった。
狭い腸壁を性器で拡げながら腰を進めていく。赤木は苦しそうな声を上げていても、矢木にしがみついて離れない。 久し振りの赤木の匂いやきつい締め付けを味わいながら、激しい動きで赤木を揺さぶり続けた。


***


「股間の具合はもういいの?」

終わった後、萎えた性器の後始末をしていると畳に転がったままの赤木が問いかけてきた。疲れているというより、単に動くのが億劫だという雰囲気だ。 挿入される側も疲れるものなのかどうかは、そういう立場の経験がないためよく分からなかった。

「いいも悪いも、さっきので分かったんじゃねえのか」
「あれだけ痛がってたのに、復活早いなって思ってさ」

寄り添ってくる赤木の仕草がたまらなくてその気になってしまったとは、口が裂けても言えない。過去の因縁から来ている、大人げない意地が未だにそうさせていた。
ゆっくり身を起こした赤木に手を伸ばし、正面から抱き締めた。苦しいと呟きながらもがく赤木に構わず、腕の力を更に強くする。 甘い言葉のひとつも言えず、素直に気持ちを伝えられない自分にできることは限られているのだから。




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2008/5/3