愚かな独占欲 家に入ってくるなりシャツを脱ぎ出した赤木を見て、さすがに慌てた。 帰宅して制服を脱ぐのは珍しいことではないが、赤木の場合は寝る時と銭湯で風呂に入る時以外は常に制服のままなので、 普段とは違う行動に驚いたのだ。 まさか夕日も沈みきっていないこんな時間からその気に……と思っているうちに、とうとうズボンや下着まで下ろし始めた。 下着の陰から見えた、白く薄い体毛から思わず目を逸らす。行為の記憶がよみがえってしまうからだ。 「お、おい……何なんだよ突然」 「虫に刺されたみたいで痒いんだ。あんた、ちょっと見てくれる?」 淡々とした赤木の要求に応えるべく近づいた矢木は、全裸になった赤木の身体を念入りに見ていく。 手足や胸元、腹と順番に視線を 動かしていくと、太腿の裏に刺されたような小さな跡があった。しかもそれを強く引っ掻いたようで、周囲が痛々しいほど赤く染まっている。 今でも痒みが止まらないらしく刺された跡に伸びてきた赤木の手を制して、虫刺されの薬はないかと戸棚に向かった。 代打ち時代は頻繁に絡まれて怪我を負っていたせいで、薬箱の中身は充実している。そこを探っているうちに、妙な考えが浮かんだ。 制服を着て普通に生活しているのに、あんな場所に虫刺されができたりするだろうか。 露出している首や腕ならまだしも、太腿は服を脱がない限りは刺されないはずだ。 そうなると赤木は外で服を脱いだ、もしくは脱がされた。そこまで考えて我に返り、大げさに首を振った。 どちらにしろ相手が誰であっても、赤木自身が心を許した人間なら無理にでも納得するしかない。 血の繋がった家族でもなく、付き合っている恋人でもない、子供の赤木を束縛する権利はどこにもないのだから。 小さな虫刺されのひとつやふたつで考えがここまで飛躍してしまう思い込みの激しさを呪いながら、効果のありそうな薬を手にして振り向いた。 すると赤木は、少し目を離した隙に腕や膝のあたりまで掻いていた。見落としていた跡があったようだ。 「あまり掻くんじゃねえよ」 「我慢できないんだ」 「今、薬塗ってやるから……大人しくしてろ」 歴史ある会社から出ている薬なので大丈夫だろう。畳に膝をつくと赤木に背を向けさせ、赤くなった太腿の裏に軟膏を付けて広げた。 「多分、刺されたのって体育の授業中だと思う」 「えっ?」 「半ズボンの体操服で、ずっと外に居たからね」 それをもっと早く言って欲しい。無駄な想像を広げて無駄に苦悩したことは絶対に知られたくなかった。 やはり悔しさや嫉妬を全て押さえ込んで耐えるのは難しい。 いい歳をした大人として、せめて賭博以外のことでは優位に立っていたい。 そんな意地が邪魔をして素直になれない自分は、赤木が他の男に抱かれていたとしても何でもない振りを装うしかないというのに。 俺だけのものになってほしい、という本心を伝えれば楽になれるだろうか。突き放すような返事をされたとしても。 「なあ赤木、俺以外に抱かれたいって思う相手は居るのか?」 「どうしたの急に」 「気になっ……いや、聞いてみただけだ」 「あんたが心配するようなことは、何もないよ」 再び正面を向いた赤木が、そう言って得意気に鼻で笑った。まるで、こちらの考えていることを見透かしたかのように。 矢木は露わになっている赤木の乳首に触れ、軽く指で摘まんだ。びくっと身体を震わせる赤木を見上げながら、 淡い色をした小さな性器に生温かい息を吹きかける。反応したような短い声が、頭上から聞こえた。 安心すると妙な余裕が出てきて、それまで不安にさせていた赤木を動揺させてやりたいと思ったのだ。 「ずいぶん面白いことしてくれるね、矢木さん……」 「無防備に裸になるお前が悪いんだろ」 「俺のせいにするの?」 「薬も塗ったし、嫌ならさっさと服着ろよ。俺を煽りたいなら別だけどな」 何のためらいもなく赤木の性器にくちづけると、尻のほうへと手を伸ばして割れ目を探った。まだ固く、解れていない部分を指の腹で 円を描くように撫でる。赤木は矢木から離れて服を着るどころか、この場に留まって甘く息を乱した。 「最後までやるぞ、いいのか」 「こんな身体でも良かったら、いいよ」 掻きすぎて赤くなった跡は何箇所もある。きれいな肌とは言えないが、昂ぶった気持ちの前では少しの障害にもならなかった。 性器への愛撫で浮かんできた先走りを指に絡め、今度は丁寧に解しながら赤木の中へ沈めていく。 生意気で口の減らない赤木が、こういう時だけは子供らしく可愛い反応を見せる。 それを見ていると、赤木に恥をかかされた過去のせいで頑なだった心を開いてしまうのだ。 |