同情なんていらない 夕方過ぎに矢木が帰宅すると、赤木は半袖シャツに半ズボンという普段の制服姿とは全く違うものを着ていた。 胸のあたりに縫い付けられた布製の名札を見て、それが学校の体育の授業で着ている体操服だと分かった。 それにしても授業が終わってここに居る今でも、こんな格好をしているのは何故だろうか。 「体育が終わって教室に戻ったら、俺の制服が無くなってた」 「じゃあ残りの授業、その格好で受けたのか?」 「まあね、科目が変わる度に教師に事情を話すのは面倒だったけど」 心当たりはあるのか、と言いかけてやめた。学校では髪の色のことで口を出してくる奴が居るらしい。赤木本人は全く気にしていないと 言っていたが、年齢とは釣り合わない髪の色に加えてうまく周囲に合わせようとしないこの性格だ。無意識の内に敵を作っていて、 そんな連中が赤木の制服を隠したのかもしれない。いかにも子供がやりそうな、稚拙な嫌がらせだ。 学校からここまで、決して近くはない距離を体操服で歩いてくるのを想像してみて、一瞬だけ赤木が哀れに思えた。 制服姿の生徒達に紛れてひとりだけ体操服、というのは嫌でも目立つ。周囲からは好奇の視線に晒されてきたに違いない。 「別にあんたの同情なんていらないから」 「ど、同情なんてしてねえよ。何で俺がお前に……!」 そう言いながらも同情だけではなく動揺までしていた。 赤木は驚くほど簡単にこちらの思考を見破ってくる。こんな情けない大人からの同情は不要というわけだ。 まだ13歳なら、何か辛いことがあれば大人に相談したり甘えたりしても充分に許される。なのにそれをしようとしないのは、 大人達には少しの期待も抱かず頼りになるとも考えていないのかもしれない。 部下を従えたヤクザの幹部を真っ青にさせるくらいの赤木なら、そう考えていてもおかしくないような気がした。 「俺が今してる格好、そんなに好きなの?」 突拍子もないことを訊ねられて呆然としていると、赤木は愉快そうに目を細めた。 「さっきからずっと、熱心にこっち見てるからさ」 熱心に、とまではいかなくても実際に赤木を必要以上に見ていたのは本当だった。学校の教師や同級生なら見慣れているはずの体操服姿 は、初対面の時からの制服姿しか知らない矢木にとっては新鮮で、つい無意識に目が追ってしまう。 膝を抱えている体勢で見える白い太腿の裏側や、陰になっているその奥まで……ここまで来るとそういう趣味の変態のようで、どこか 後ろめたい。学校指定の服装で卑猥でも何でもないはずなのに、この背徳感。ある意味、裸のほうがまだ健全だと思えてきた。 学校で不愉快な目に遭ってきた赤木に、こんないかがわしい感情を持つのは間違っている。 被害者である赤木は落ち込むどころか平然としていて、慰めることもできないので困った。 「この格好だと脱がなくても寝られるから楽だよ」 「……お前って本当に変わってるよな、考え方とか」 「そうかな?」 笑みを浮かべた赤木が、膝立ちになって矢木の首に両腕をまわしてきた。唇を重ねて舌を絡めていると、いつもの調子で赤木を求めてしまう。 半ズボンの裾から指先を入れて、肉付きの薄い尻を撫でる。露出の多い体操服だからこそできるやり方だ。 「そんなふうに触るくらいなら、脱がせればいいのに」 「お前をじらしてるんだよ」 「面白いこと言うね……後ろだけじゃなくて、そろそろ前のほうも構ってよ」 赤木の股間は、いつの間にか半ズボンの前を押し上げていた。薄い色の生地なので、すぐに分かった。 このまま欲しいものを与えるのは面白くない。矢木は赤木を畳に四つん這いにさせると、ズボンの下で猛った性器を強く捻じ込むように赤木の尻に押し付けた。 「まだ入れてくれないんだ……?」 「せっかく珍しい格好してんのに、あっさり脱がしたら面白くねえだろ」 充分にじらした後でようやく股間に軽く触れてやると、赤木は息を乱して身体を震わせた。 翌日の夕方、矢木のアパートを訪ねてきた赤木はいつもの制服を着ていた。白いシャツやズボンはところどころ薄汚れていたが。 学校の動物小屋に放り込まれているのを見つけた、と何でもないような口調で言うと閉めきっていた部屋の窓を大きく開ける。 昔は仕事でヤクザと関わり、対戦相手を言葉巧みに脅したりもした自分は口下手なわけでもないのに、かけるべき言葉が見つからない。 外の新鮮な空気が流れ込んでくるのを感じながら、背を向けている赤木が再び振り向くのを待った。 |