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血の気を引き抜く その肩に額を乗せると、矢木の大きな手が髪に触れてきた。 以前は指1本触れることすら拒まれていたとは思えないほど、すんなりと受け入れてくれるようになった。 相変わらず言葉ではひねくれたことばかり言っているが。 口よりも身体のほうが正直、という使い古されたフレーズはまさしくこの男を表すのにぴったりの表現ではないか。 からかうとすぐに反応して怒るのは承知しているが、それが面白いのでやめられない。 いい歳をした大人なのに、まるで幼い子供のようだ。 そして挑発に乗りやすいということも、初めて出会った夜に知った。 何もかもこちらの思い通りに動いてくれる……と言いたいところだが、実はそうでもない。 たったひとつだけ、まだ手に入れていないものがあるからだ。 赤木はもう片方の矢木の手を取り、身体の中心へと導いた。 脱いでいない状態でも触れればすぐ分かるほどの昂ぶりに驚いたのか、その手が凍りつく。 「まだ何もしてねえのに、もう変な気分になってんのかよ」 「あんたが俺を受け入れてくれてるのが嬉しくてさ」 「べ、別に……おかしな勘違いしやがって、そろそろ寝るぞ」 「またそうやって逃げるんだ?」 そう囁くと、立ち上がりかけた矢木を畳に押し倒した。 逃げられないように馬乗りになり、互いに重なった下半身を赤木はねじこむようにして強く押し付ける。 少しずつ気持ちは打ち解けてきているが、時間が経つにつれてそれだけでは満足できなくなってきたのだ。 表面だけでなく、もっと奥深くまで触れてみたい。 「何をしたいか、予想ついてるよね」 「お前っ……俺を女みてえに喘がせて面白いか?」 「面白いというか、今すぐ矢木さんが欲しい」 怯えと羞恥と怒りが複雑に混じった矢木の視線が、赤木を射抜いた。 そんな目を向けられても怖くない。この男を怖いと思ったことは1度もない。 矢木はきっと男に抱かれたことはないだろう。そういう目的で後ろを使った経験すらも。 「本気で、言ってるのか」 「当たり前だろ。それとも俺に抱かれるのは嫌?」 「勘弁してくれ……頼む」 持ち上げた片腕で顔を隠し、矢木は弱々しい声で懇願してくる。 普段のひねくれた態度はどこへ行ったのか。 「じゃあその代わり、あんたが違う方法で慰めてよ」 下がだめなら上で、と言いながら赤木は矢木の唇に指先を埋めた。 生温かく濡れた感触に、この男をどうにかしたいという気持ちがますます煽られていく。 思わず譲歩してしまったのを後悔させるほどに。 そんな時、指先に熱い痛みが走った。反射的に引き抜くと、噛まれたところから少しだけ血がにじんでいた。 「調子に乗るのもいい加減にしろよ、赤木」 鋭く険しい表情で、矢木は更に続ける。 散々わめいていた時とは全然違う。これは本当に怒っている顔だ、と思った。 「俺が何を言おうと、どうせお前は平気な顔して笑えるんだろ……」 震えるような声は最後のほうになると消えかけ、聞こえなくなった。 赤木は黙ったまま、噛まれた指先に視線を移した。 よく見なければそれほど目立たない小さな傷だが、痛みは未だに消えない。 傷口が大きく広がって絶え間なく血が溢れてくる、そんな光景が一瞬だけ浮かんだ。 こんな展開を望んだわけではなかった。 やっと赤木に心を開きかけた、この男の全てが欲しいと思った。それだけなのに。 矢木に対する笑いも、言葉も何ひとつ出てこなかった。 |