不機嫌な誘惑 「どうしたの、これ」 畳に敷いてあるものを見た赤木が、眉をひそめながら問いかけてきた。 そこには使い古した薄い布団と、柔らかく暖かい新品の布団が並んでいる。 新しいほうは赤木が数日ここに来なかった間に、矢木が買っておいたものだ。 「今夜からお前、そっちの布団使えよ」 新品の布団を指差して言う矢木に対し、赤木は立ったまま口を閉ざしている。 狭い布団にふたりで寝ていると、どちらかの身体が必ずはみ出してしまう。 赤木をしっかりと中に入れるようにしているので、矢木は毎回寒い思いをしながら朝を迎えていた。 それだけではなく、赤木と密着しているとどうしても落ち着かない。匂いや温もりを感じて身体が反応しているのを見抜いた赤木に、 あの手この手で誘われてしまうのだ。結局は断われずに流される自分が情けない。 赤木と肌を重ねるようになってから、歯止めがきかなくなっている。 1度でも解き放たれたものはもう元に戻らない。このまま子供との性交に溺れてしまうのが怖かった。 同じ部屋でも違う布団を使えば、理性も保たれる上に暖かく眠ることができる。予定外の出費は痛かったが、必ず報われるはずだ。 電気を消して、矢木は今までふたりで寝ていた古い布団に入った。やがて隣から赤木も布団に入る音が聞こえてきて、 とりあえず計画はうまくいったのだと思い安心した。 数十分も経たないうちに違和感を覚え、目を覚ました。 寝返りを打った先には何故か赤木の寝顔があり、反射的にそこから身を離す。どうやら赤木は新しい布団を出て、わざわざこちら に入ってきたようだった。 これでは全く意味がない。仕方がないのでもうひとつの布団で寝ようとして身体を起こすと、 いきなり腕を掴まれた。それは眠っているとは思えないほど強い力で、無意識に浮かべた苦い表情でため息をついた。 諦めて再び布団に入ると、すぐそばから小さな笑い声が聞こえてきた。 「お前、起きてたのか?」 「まあね」 「何でそっちの使わねえんだよ、せっかく買ってやったのに」 「買ってほしいなんて頼んでないよ」 刺々しく可愛げのない言い方だったが、さりげなく身を寄せられて動揺した。またいつもの展開になるのだろうか。 「あんな布団で寝たことないから、落ち着かなくてさ。何だか冷たいし」 「寝てるうちに温まるだろ、どんな布団でも同じだよ」 「全然分かってないね、あんた」 何を言いたいのか理解できないうちに、覆い被さってきた赤木に唇を奪われた。最初は重ねるだけのくちづけだったが、 唇に触れる濡れた舌の感触に堪えきれず、いつの間にか深いものへと変わっていった。 混じり合い、あふれた唾液が矢木の口元を伝って落ちる。赤木のくちづけは日増しに拙さが薄れていく。 いつかこちらが翻弄されてしまいそうだ。 やがて唇が離れても、赤木は矢木そのものを解放しようとはしない。 今度は耳に赤木の息遣いを感じる。深いくちづけを終えたばかりの呼吸は、少し乱れていた。 「俺と一緒に寝るのは、嫌なの?」 「赤木……」 「我慢できないなら、してもいいよ……矢木さん」 囁くような声と共に、布地の上から股間を触れられる。 布団をかぶっていたせいで気付きにくかったが、赤木は下着すら身に着けていなかった。 「なあ、今夜は一緒に寝てやるから。もうやめろよ」 「今夜だけ?」 「……これから、も」 敏感な部分を狙ったかのような指の動きに、言葉を詰まらせてしまう。 勃ち上がりかけている股間を撫でたり擦ったりと、赤木は絶え間なく悪戯を仕掛けてくる。 まるで玩具になった気分だった。 一方的に弄ばれるのは面白くないので、露わになっている赤木の胸に両腕を伸ばし、小さな乳首を摘まんで刺激した。 「もうひとりじゃ、寝られないよ……」 甘い声を聞きながら矢木は、実は自分も同じ考えだということを思い知らされてしまった。 |