個人授業





「暇ならまた俺と遊んでよ、矢木さん」

畳の上に押し倒されて混乱した。この子供は、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのか。
一体どうやってこの家を見つけたのかは知らないが、外出先から帰ってくると自分以外の人間が部屋の中に居た。
数週間前、真夜中に呼び出された雀荘で勝負をした中学生だ。
少し脅せば怯むかと思えばこちらを逆に脅し、有り得ないミスに見せかけた罠にはまって矢木は自滅した。
その後は川田組からの信用を失い、代打ちを辞めさせられた。指を落とされることはなかったが多額の借金を背負う羽目になり、 今まで稼いだ金は全てその返済に当てた。今ではこの古いアパートで、地味な暮らしをしている。
因縁の存在である中学生は赤木しげるという名前で、もう2度と顔を合わせることはないと思っていた。 勝負の前に交わした約束通り、指を取りに来ない限りは。
しかし状況は予想外のものとなり、指を取るどころかいかがわしいことを要求してきている。
赤木は間違いなく狂っていると確信した。これ以上思い通りにさせるわけにはいかない。
笑いを浮かべながら覆い被さってくる赤木と取っ組み合いになる。
矢木の膝に赤木の股間が擦れた時、赤木は急に身体の動きを止めて小さく声を上げた。

「おい、どうしたんだよ」

変な声出すんじゃねえよ、と呆れた口調で言いながら見上げた赤木は、かすかに頬を赤く染めていた。

「なんか最近、変なんだよね……俺の身体」
「変?」
「たまに、妙に落ち着かないというか、もどかしい時があってさ」

押し倒された格好のまま、赤木の言葉の意味を考える。その結果、導き出された答えに戸惑った。

「お前、自分でしたことないのか?」
「何を」
「……こういうことだよ」

低く抑えた声で言うと、矢木は赤木のズボンの上から股間を撫で上げた。赤木の両肩が跳ね、息を乱す。
今までとは一転してどこか余裕のない反応に、思わず胸が熱くなった。まさか子供相手に興奮しているのだろうか。
何度か撫でているうちに、赤木は潤んだ目をこちらに向けてきた。そして自ら矢木の手に股間を押し付けてくる。

「今までは、こんなの考えたこともなかった……」
「本当か? お前くらいの歳なら、もう普通に知ってるだろ」
「ねえ……直接、触ってよ」

赤木は下着とズボンを膝のあたりまで下ろした。まだ育ちきっていない性器が、すでに勃ち上がりかけていた。
未経験だという自慰の仕方を教えて良いものか迷った。この状況だとそれを要求されているとしか思えないが。
仰向けになった体勢ではやりにくいので、赤木の肩を押して自分も起き上がった。黙ったままこちらを見つめる赤木の性器に触れると、 そこに指を絡めて扱き始める。あまり力を入れずに、ゆっくりと動かしていく。
矢木の大きく厚い手で触れられ、幼い性器は少しずつ昂ぶりを見せた。赤木は目を伏せ、弱々しく首を横に振る。
まるで縋るように、正面の矢木の肩へ額を乗せてきた。

「もう、だめかも」
「いきそうなのか?」
「よく分からないけど、我慢できそうにない」
「俺の手の中に、全部出しちまえよ」
「いいの……?」

頼りなく震える声で問われて、矢木は強い衝動のままに赤木の唇を奪った。濡れた音と共に舌を絡めると、拙い動きで応えてくる。
赤木と深いくちづけを続けながらも、手の動きも止めていない。先走りの滴をあふれさせた後、赤木は精を放った。
身体の力が抜けて倒れこんできた赤木を受け止めると、矢木は軽く息をついてその白い髪に触れた。


***


「さっきのって、どういう時にするの?」
「やりたくなった時でいいだろ」

自慰の後始末を終えた赤木に、冷たい麦茶を注いだコップを手渡す。
博打では大人顔負けの才能や度胸を見せるくせに、ああいうことには疎いのか。自分が負けた時のことを思い出した矢木は、苦い気分に なった。

「そういえば矢木さん、どうして俺にキスしたの?」

唐突にそう訊かれて、矢木は飲んでいた麦茶を吹き出しかける。
今になっていくら考えても、赤木にくちづけた理由を説明することはできなかった。
自分の感情を、何故かうまくまとめられない。
普段は手癖が悪く生意気な赤木が、あの時だけは年相応の子供に見えた。快感で熱を持った細い身体に縋られて、理性が崩れかけた。
少し間違えていたら、赤木を押し倒していたかもしれない。自慰すら知らなかった子供を欲しがるほど飢えてはいないはずだが、 実は本当に危なかった。
仕事の雇い主の前で恥をかかせた、憎いはずの相手。それなのに、そんな事実さえ忘れてしまいそうになった。




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2007/1/22