告白の夜 「だいぶ前の話になるけどさ」 隣の布団に腹這いになっている赤木が煙草に火を点けるのを、俺は黙って眺めていた。 灰が枕に落ちるから起きて吸えよ、と何度言っても無視をする。どうやら口うるさい指摘は耳に入れない主義のようだ。 もし火事になっても冷静に笑っていそうなので恐ろしい。あららっ、とか言いながら。 「俺のことどう思ってる、ってあんたに聞いたよね」 「……ああ」 「今でも答えは、あの時と同じなの?」 聞くまでもなく、お前はもう分かっているくせに。 再会した直後はひたすら拒み続けていたのが夢だったかのように、今では何度も身体を重ねている。 お互い、好きだのどうだのと言い合ったことはない。 弱みになるのが嫌だから俺は意地でも言わないし、赤木もそんなことを簡単に口に出すほど甘い奴じゃない。 相手が油断して口を滑らせるのを待つか、もしくは巧みに引き出すか。この調子だと後者に流れが傾くかもしれない。 昔の赤木に言った通り、腹が立つくらい生意気なクソガキでいてくれたほうが良かった、と悔いる時がある。 遠慮なく軽口を交わすだけの仲を続けていたら、こんな泥沼にはまることはなかった。 しかもまだ赤木が未成年だと思い出すたびに頭が痛くなる。もしかして俺って犯罪者じゃないのか? ヤクザに雇われて違法賭博で金を稼いできた身で何を今更、という気もするが。 赤木は煙草を灰皿に押し付けて身を起こし、俺の布団へ潜り込んできた。 数十分前の名残で、俺も赤木も服どころか下着すら付けていない。 狭い布団の中で肌が触れ合い、だいぶ落ち着いていた熱さがよみがえってくる。赤木の身体からはすでに汗は引いていた。 息を感じるほど顔が近いので目を逸らそうとしても、何故かできなかった。 「あんたは、女みたいに喘ぐのは嫌だって言ってたけど」 「当たり前だろ、冗談じゃねえよ」 「それじゃ、俺を喘がせるのは構わないってこと?」 最中にどんなことをしても赤木は声を上げないのを知っている。 ポルノ映画の女優みたいにわざとらしく喘がれても困るが、普段は冷めている赤木が感じている時にはどういう声を出すのか興味があった。 少なくとも、気持ち良くて我を忘れる状態にはならないだろうとは思いながらも。 「そうだ……って言ったら、どうする?」 俺の答えに薄い笑みを浮かべた赤木は、股間に手を伸ばしてきた。 布団の中でやわらかく触れられ、やがてゆるやかに擦られる。思わず息を詰めた。 「今日はもうできねえって……やめろよ」 「あんたが、喘がせてくれるんじゃないの?」 「いや、別に今すぐとは言ってねえだろ」 「そう言う割に、ここはやる気になってるみたいだね」 動き続ける赤木の手の中で、行為から時間が経って萎えていたものが再び硬さを取り戻していくのが分かる。 このままだと絶対に眠れない。 至近距離で向かい合った体勢で、赤木は俺のものに腰を落としていく。 しばらく無言のまま抱き合うと、俺は一呼吸置いて口を開いた。 「赤木、さっきお前が聞いてたこと」 「ん……」 「いいか、1回しか言わねえぞ」 好きだ、と早口気味に囁いて赤木の耳に舌を這わせる。わざと濡れた音を立てながら。 本当は永遠に胸の中へ留めていくつもりだった。なのに言わずにはいられなかった。 目を伏せる赤木の息が震え、更に熱く締めつけられる感覚に気が遠くなる。 動きにくかったので赤木を布団の上に押し倒すと、ほとんど肩につくまで両膝を押し上げた。 深く繋がった部分が、生々しく露わになった。赤木の性器も昂ぶっていて、先端に滴が浮かんでいる。今にもあふれてきそうだ。 「お前は俺のこと、どんなふうに……」 ぎりぎりまで引き抜き、勢いをつけて最奥まで突き入れる。赤木は小さく声を上げると、俺の腰に両足を絡めてきた。 強く背中に立てられた爪の痛みにすら興奮を煽られて、抗うことができない。 望んでいた赤木の答えを待たずに、達してしまう予感がした。 「矢木さん……もっと」 「え?」 「もっとひどくしてくれたら、答える」 優しくされるより、壊れるくらい攻められるほうがいい。 こちらを真っ直ぐに見つめながらそう言った赤木の口調や声は限りなく甘かった。 これまでも今も意識して優しくした覚えはなかったが、赤木は物足りなく感じているのか。 「卑怯だな、お前は」 「なんで?」 「俺の要求をうまくかわして、自分だけ欲しいものを手にいれるつもりだろ」 「別に……あんたの考えすぎだって」 悪気のなさそうな軽い態度に、俺はため息をついた。 こういう奴だと知ってはいたものの、逆に従順すぎるのも気持ちが悪いので諦めるしかなさそうだ。 こいつには一生敵わない。とっくの昔……6年前の夜に、全ての決着は付いたのだから。 |