攻防戦 夜に突然かかってきた電話を終えて布団を捲ると、赤木が裸で寝ていた。 下着すら身につけていない姿で横向きになって、呆然としている矢木を見ている。 数秒後、矢木は我に返って布団を勢いよく赤木に被せた。 何だこれは。ただ寝るだけなら、わざわざ全裸になる必要はどこにもない。 被せられた布団から顔だけ出した赤木は小さく笑い声を上げた。 「どうしたの、そんなに慌てて」 「なっ、何でお前裸なんだよ!」 「何でって、あんたと寝ようかと思ってさ。この前、俺を抱きたいって言ってただろ」 そう言いながら赤木が身を起こす。痩せた上半身を晒して、意味深な笑みを浮かべている。 お前を抱きたいかもしれない、と赤木に言ってしまったことを思い出した。少し距離を置こうとして1度は離れたものの、 結局またこの家に連れてきてしまった。 夜の街で柄の悪い連中に絡まれていたのを偶然見かけて助けたのだ。 見過ごせなかったのは多分、心のどこかでは赤木のことが気になって仕方がなかったからだ。 離れている間、考えていたのは赤木のことばかりだった。忘れられればいいとすら思っていたが、逆効果になってしまった。 夜の街をうろついて危険な目に遭わせるくらいなら、この家に置いてもいい。好きな時に来て、帰りたくなったらそうしても構わない。 赤木に対してここまで甘くなるとは思わなかった。自分を破滅に追いやった、因縁の相手だということを忘れたわけではないのに。 身を乗り出してきた赤木の指が、矢木の手に触れた。そこから体温が伝わってくる。 こんな子供に誘われて、動揺しているのが情けない。もはや動揺を通り越し、組み敷いて思い通りにしたいという考えも生まれた。 目を閉じた赤木の唇が近づいてきたのを見て、もう欲望を抑えられなくなった。赤木を布団に押し倒し、上に覆い被さる。 こちらから唇を重ねると、赤木の両腕が縋るように背にまわされる。たまらなくなり、くちづけを更に深くした。 やがて唇を離し、矢木は赤木と目を合わせた。真っ直ぐに向けられる視線から、今度は少しも逸らさなかった。 「なあ……本当に、いいのか? 途中でやめろって言われても、聞かねえぞ」 なるべく冷静を装いながら言うと、赤木は矢木の股間に手を伸ばしてきた。布地の上からそこを探られて、息を乱した。 誘われた時から反応していた性器は、すでに固く勃起していた。密かに抱いていた欲望を引き出され、どこか気まずい。 「俺はそんなこと言わないし、あんたも多分やめられないよ」 赤木の下半身に視線を向けると、そこも明らかに大きくなっていた。反応していたのが自分だけではないことを知って、安心する。 小さな乳首に舌を這わせようとすると、それを拒むように肩を押された。 「あんたは脱がないの?」 「えっ、ああ、そうだな……」 服を着たままだったと気付き、矢木は赤木から離れると服を脱ぎ始めた。視線を感じながら最後の下着を取り、再び赤木に近づいた。 男を抱くのは初めてで、何もかも教えられるほどすごい技術は持っていない。 赤木の胸から下腹へと唇を押し当てていくと、柔らかく薄い毛で覆われた部分にたどり着いた。 髪の色から想像していた通り、やはりそこも白かった。優しく指先で撫でた後、短く息を吹きかけると赤木の身体が竦んだ。 「くすぐったいよ……そんなところより、もっと……」 甘い声で訴える赤木の両足を肩につくほど上げる。赤木が欲しがっているところは、まだ固く閉ざされていた。 早く期待に応えてやりたいが、これでは先に進めない。赤木の性器に触れて絡みついた先走りの滴を使い、慎重に指を奥に沈めていく。 矢木の固い指を締め付け、飲み込んで赤木は小さく声を上げた。必死で堪えるようなその表情が、愛しかった。 それを見下ろしながら、矢木はもう片方の手で昂ぶる自らの性器を扱く。赤木を弄ぶ指を何も言わずに増やしていき、抜き差しを繰り返す。 喘ぐ赤木の反応を見て充分に解れたのを確認してから、今度は指の代わりに性器を押し当てた。抵抗もなく受け入れた内側は狭く熱い。 その感覚に翻弄されて、夢中になる。 「赤木、痛くねえのか……?」 問いかけに笑みを浮かべて、赤木が両腕を伸ばしてくる。矢木は身体を倒すと赤木の白い首筋や胸元を舐め、何度も強く吸った。 そうしながらも激しく腰を動かし、もう何の遠慮もせずに赤木を攻めた。互いの肌がぶつかる音が、部屋中に生々しく響く。 「矢木さん」 「ん?」 「気持ちいい……」 そんな言葉ひとつで、頬が痺れるように熱くなる。俺も、と耳元に囁いて腰を引くと、勢いをつけて赤木の最奥を突いた。 やがて身体を震わせて達した赤木の性器から精液が何度も溢れ出し、その腹を汚した。 矢木は息を荒げて繋がったまま体位を変え、達したばかりの赤木を上に乗せる。肉付きの薄い尻に指を強く食い込ませて 揺さぶり、赤木がまだ子供だということも忘れて存分にその身体を貪り続けた。 布団を肩まで被って眠っている赤木を隣で眺めていると、少し無理をさせすぎたかもしれない、と後悔した。 ほとんど休まずに動かした身体は、事後しばらく経つと汗が引いて冷えていった。煙草を咥えて火を点け、深く吸い込む。 結局は赤木の思い通りに動いてしまった気がする。そう思うと悔しかったがそれ以上に、赤木への想いが更に強くなった。 これからはどんなことを言われても軽く受け流して、大人としての余裕を見せつけたい。 煙草が短くなった頃、目を覚ましたらしい赤木が背後から抱きついてきて後ろへ倒される。驚いて間抜けな声が出てしまった。 「いっ、いきなり何する……」 「このくらいで驚くなんて、あんたってやっぱり笑えるよね」 「お前って絶対性格悪いだろ!」 「そんなの今更じゃない?」 からかうような口調でそう言う赤木を押さえつけようとしたが、素早くかわされてうまくいかない。 狭い布団の中での攻防戦は、疲れた矢木が枕に突っ伏すまで続いた。 密かに固めた決意も、事後の気だるい雰囲気も台無しだ。大人の余裕が聞いて呆れる。 しかしこんな関係も悪くない。満たされた気分で、矢木は眠りについた。 |