未知の快楽 面白いものを手に入れたんだ、と言って赤木が取り出たのは男の性器に似せて作られた玩具、バイブレーターだった。 一体どこで手に入れたのかは知らないが、40年近く生きてきた中でも俺には縁のない物だったので、実際に見るのは初めてだ。 まさかそれ、俺に使うんじゃないだろうな、冗談じゃねえぞ……と凄まじい悪寒に襲われた俺の前で服を全て脱ぎ捨て全裸になった赤木は、何故か俺に迫りながら自分の後ろを指でほぐしていく。 愉快そうに細めた目から、視線を逸らせない。 頼りない電灯の明かりを受けて無機質なツヤを見せるバイブレーターに舌を這わせて、滴るほどの唾液で濡らしたそれを赤木は自らの後ろに押し込んだ。 眉を寄せながらそのスイッチを動かすと、小さく喘ぎ声を上げる。 それを聞いた直後に、俺の身体の奥から熱い何かが込み上げてきた。 とうとう俺に覆い被さってきた赤木に唇を奪われる。舌が割り込んできて、濃密に絡み合った。 唇が離れると唾液が細い糸のようになって伸び、やがて途切れた。 わずかでも腰を動かすたびに敏感な部分を刺激されるのか、時折身体を竦ませて不自然に途切れる呼吸を繰り返す。 倒れこむように密着してくる赤木の背中に両腕をまわそうとして、思いとどまった。 正直言うと今の状況に不満があったからだ。だから、赤木の身体を押し返すとできるだけ固い口調で問いかける。 「俺のより、そっちのほうがいいのか?」 「さあね、どうかな……」 かすれた声でそう言って、赤木は薄い笑みを見せた。 俺は昂ぶっている赤木の性器を握ると、先走りの滴が浮かぶ先端を指で強くふさいだ。 いきそうな赤木は身体を揺らしてもどかしそうにするが、俺は指へ更に力を加える。 濡れた先端の割れ目をくすぐるように刺激すると、赤木は息を震わせ背を逸らす。 「こんなふざけた真似して、どういうつもりだよ……赤木」 赤木の内側を犯すくぐもった振動音は、未だに俺の耳に届いている。 聞きたくないのに、赤木が俺に覆い被さったまま動かないのでどうしても聞かされてしまう。 普段は澄ました顔の赤木が、控えめだがこうして乱れている。 そんな姿を間近で見せられて、冷静でいられるわけがなかった。 思春期の学生でもあるまいし、長年生きてきて経験を積んだおかげである程度の欲望なら抑えられるが、それは空しくも限界があった。 ただ身体を慰めたいなら、ひとりでそうしていればいい。 なのにわざわざ、こうやって他人に見せたがるのはおかしいんじゃないのか。 そんな道具まで使って。もしかして俺を馬鹿にしてるとか? 「あんたのこと、正直言うと少し甘く見ていた」 「やっぱりな」 「でも……今、気が変わった」 赤木はバイブレーターを引き抜くと、無造作に放り投げる。 振動を続けるその音は赤木の内側から離れ、更に生々しく部屋に響いた。 ズボンの前を開かれ、俺の性器が赤木の手で取り出された。 それはいやらしく乱れる赤木の姿や、重なった身体の温もりのせいですっかり固さを増していた。 そんな状態になったものを見られたくなかったが、もう遅い。 「いいよね……矢木さん」 答えを待たずに赤木は俺の性器に少しずつ腰を落としてきた。 予想以上に締め付けてくる熱い壁に包まれて動揺し、赤木の射精を遮っていた俺の指がそこから離れた。 赤木の腰を掴んで何度か強く突き上げると、早くも達した赤木は精を放って俺の服を汚した。 俺のほうも遅れて赤木の奥へと全てを注ぎ込んだ後、抱き合ったままいつの間にか眠りについていた。 「初めて使ったけど、あまり気持ちいいものじゃなかった」 「……何が」 「例の道具だよ」 翌朝、少し焦げた魚の骨を器用に取り除きながら返してきた赤木の言葉に、醤油の小瓶を持ち上げる俺の手が止まった。 昨夜の出来事は夢だったと無理矢理思い込んでいたので、現実を突きつけられて愕然としたのだ。 気持ちいいものじゃなかった、って、誰が信じるか。あんなに感じていたくせに。 そう言ってやりたかったが早く話を終わらせたかったので、俺は無言のまま小さな器に入った納豆を箸でかき混ぜる。 大体、そんなの飯食ってる時に出す話題じゃない。 ……終わらせたかったが、赤木も口を閉ざして俺を見ている。答えを待っているかのように。 「昨日も最中に聞いたが、どういうつもりだったんだ?」 「ただ、いつもと変わったことをしてみたかっただけ」 「お前なあ……だからって、俺まで巻き込むなよ」 「ひとりで試しても、つまらないからさ」 低く笑う赤木をよそに、俺は使い終わった食器をまとめて流しに運んだ。 もうあんな変態みたいなやり方はごめんだが、あの時の赤木に欲情してしまったのは事実だった。 最近、赤木のことを更に強く意識するようになった。この前は6年前の幼い赤木をあの雀荘で強姦するという、とんでもない悪夢を見た。 実際は、さすがに13歳に手を出す気にはなれない。夢とはいえ、麻雀で負けた腹いせにあんなことをするなんて……。 「でも、いつもより矢木さんが積極的だったのは面白かったな」 「何が積極的だ、あれはお前が強引に」 「あの道具……もしあんたが抜いてくれたら、何をされても構わないと思ってた」 背後から聞こえた赤木の呟きに朝から理性を崩されそうになり、目眩を覚えた。 |