未熟な遊戯





赤木は家のどこからか出してきた手拭いで矢木の視界を覆うと、頭の後ろで縛った。
これは目隠しプレイか。まさか赤木にここまでの趣味があったとは。

「こうしたほうが、恥ずかしくなくていいんじゃない」
「それより、見えないと余計に怖い気もするんだが……」
「まあ、あんたの好きにしなよ」

手拭いを外そうと思ったが、その考えはすぐに打ち消された。
どんな体勢を取らされるか分からず、最中に赤木の顔を見たらせっかく固めた決意が脆く崩れるかもしれない。
寝ていた時の温もりがまだ残る布団の上、互いに全裸で抱き合う。 男に生まれて、まさか他の誰かに抱かれる日が来るとは思わなかった。
赤木はどんな表情をしているだろうか。唇が軽く重なって離れた後、性器を握られた。

「もう勃ってるよ、あんなに緊張してたくせに」
「うるせえな、じゃあお前はどうなんだ」
「そんなに気になるなら触ってみれば?」

軽い調子でそう言われて、矢木は手探りで赤木の性器に触れてみる。するとそこは人のことをあれこれ言えないくらい熱く固くなっていた。
赤木は小さく声を出して笑いながら矢木の胸元に額を埋めてきた。揺れる髪が肌に柔らかく擦れてくすぐったい。
そんなことをしているうちに身も心も熱くなり、その感情を全てぶつけるように赤木の性器を扱く手を早めていく。 やがて少しずつ先走りの滴が矢木の手にこぼれてきて、手を動かすたびに濡れた音を立てた。射精の瞬間が迫っているようだ。
快楽に染まる赤木の表情を想像して、閉ざされた視界の中でたまらない気持ちになった。
赤木が離れていく気配を感じた後、両足を掴まれて肩につくくらい押し上げられた。驚いて言葉も出ない。 恥ずかしい部分を赤木に晒しているかと思うと、逃げ出したくなる。
まさかもう挿入されるのかと思い身構えたが、少しの間待ってみても何も起こらない。
やがて荒くなっていた赤木の呼吸が収まると、後ろの穴に何かを塗られた。
目隠しをされているのでよく分からないが、ぬるぬるとしていて生温かい。赤木が潤滑油のようなものを持っていたとは思えず、 塗られたものの正体に対して密かに疑問を覚えた。

「何だ、今の……」
「安心しなよ、身体に悪いものじゃないからさ」

そう言って赤木は固く閉ざされている部分を指先で円を描くように撫でると、少しずつ奥へと進めてきた。
気持ち良くなるどころか落ち着かない。赤木の指は内部を探るように動く。 指1本だけでも違和感があるのに、それ以上に大きなものを入れられたらどうなるのか。 しかし今更後には引けない。そう思うと身体中が緊張で固まり、赤木の指まで強く締め付けた。

「矢木さんの中、狭いよね。やっぱりこういう経験ないんだ?」
「あるわけねえだろ」
「じゃあ、俺が初めてってことか。こんな恥ずかしい姿を見せるのは」

そういう卑猥な言い方が気に食わない。屈辱に思わず顔を歪ませる。両足を大きく開かされている今の状態は、恥以外の何物でもなかった。
指が2本に増やされ、緩く強く動かされる。違和感はいつの間にか薄れていった。指の動きに反応して腰が揺れ、息が乱れる。

「気持ち良くなってきた?」

正直に答えるのが悔しかったので、矢木は黙っていた。深く息をついた赤木は指を抜くと、
更に太いものを押し当ててきた。それが再び勃起したらしい性器だと分かった途端、そこから無意識に腰を引いてしまった。

「矢木さん……何か今、逃げなかった?」
「にっ、逃げてねえよ」
「気のせいってことにしとくよ、今のだけは」

赤木の声がどこか冷ややかなものに感じた。また同じことをすればどうなるか分からないので、訪れた挿入の瞬間をシーツを掴んで耐えた。
指を使っていくらかは解されていたが、狭い内側を広げられる苦痛は指とは比べ物にならない。これがそのうち快感に繋がっていくのだろうか。
全部入ったよ、と優しい口調で告げられると急に力が抜けた。やっと終わったと思い安心していると、赤木がゆっくりと動き出した。
広げられた部分を行き来して、何度も奥に向かって突き入れられる。その度に赤木の腹が矢木の性器を擦り、断続的に刺激を与えた。

「……赤木」
「何?」
「お前の顔が見たい」
「外してもいいの?」

目隠しに使っていた手拭いが外され、久しぶりに視界が明るくなる。その先では赤木が真っ直ぐに矢木を見ていた。
矢木が両腕を伸ばすと赤木は上半身を倒し、繋がったまま抱き合う。隙間など作らないくらいに肌を重ねると、赤木の身体を濡らす汗を感じた。
20年ほどしか生きていない子供に奥まで深く貫かれ、揺さぶられる。少し前なら考えられなかったことが、現実になっていた。
赤木の動きが更に激しくなり、達した矢木は自らの腹を白く濁った体液で汚した。
遅れて赤木も最奥に向けて精を放った。出されるのが中でも外でも、矢木にとってはもう同じことだった。
後始末をする気力も出ず、そのまま布団に転がって時を過ごした。
赤木は脱いだ服の中から煙草を取り出し、火を点ける。事後の空気に広がり馴染んでいく匂いに、自分も1本吸いたくなってくる。

「なあ赤木、さっき何塗ったんだ」
「ああ、あれね。俺の精液だけど」
「げっ……!」
「塗ると塗らないのとじゃ、痛さが全然違ったと思うよ」

とんでもないことをあっさり言う赤木に呆れながらも、突き放す気にはならなかった。
考えてみれば、最中に赤木と交わした軽口にもかなり救われたと思う。
もし終始無言のままだったら、特に挿入された時は恐怖や緊張でどうにかなりそうだった。
まるで女のような思考になってしまうのが情けない。

「こういうことに、綺麗なものなんて求めるなよ。矢木さん」
「そんなの、お前に言われなくても分かってるさ」

何だかんだ言っても赤木より長く生きているのだ。誇れるものはそれくらいしかないけれど。
吸いたそうな顔してる、と言われて新しい煙草を唇に咥えさせられた。




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2007/2/26