無謀な提案 畳に広げた新聞を読んでいると、首に2本の腕がまわされた。 背中に覆い被さってきた赤木の、かすかな呼吸音が耳元で生々しく繰り返される。 「重いぞ」 「わざと体重かけてるんだから、当然だろ」 愉快そうに言って笑う声に、思わずため息をついた。適度に構ってやらないと、今度は何をされるか分からないからだ。 気まぐれな動物のような赤木。初めて出逢った子供時代よりも成長した赤木は研ぎ澄まされた雰囲気の青年となり、再び矢木の前に現れた。 最初は指1本触れられるだけで肝が冷えるほど恐れていたのに、最近はこうして身体を寄せ合ったりすることにも抵抗を感じなくなった。 それどころかこの前、とうとう赤木に抱かれて最後までしてしまった。まさか男相手にそういう経験をすることになるとは。 本来は受け入れる場所ではない部分を容赦なく攻められ続け、性交の快感どころか違和感と痛みでどうにかなりそうだった。 柔らかい女の肌とはかけ離れた、いい歳をしたごつい男を抱いて赤木は満たされたのだろうか。精を吐き出して達したということは、 それなりに満足したと考えて間違いはなさそうだが。人生で初めての激しい経験は、多分この先ずっと忘れない。 いつの間にか腹の辺りにまで下りてきた赤木の手が、服の裾から内側へ入り込んできた。温度の低い手に触れられると、抱かれた時のことを思い出す。 「ねえ矢木さん、いつまで俺を放っておくつもり?」 「退屈なら外に行ってこいよ、ここに居るよりは楽しめるんじゃねえのか」 「あんたとのセックスのほうが楽しいよ」 鈍感だね、と続いた甘い囁きに不吉なものを感じてさりげなく赤木の魔手から逃れようとしたが、うまくいかない。 赤木と裸で抱き合うだけならともかく、もうあんな痛い目に遭うのは勘弁だ。解放されてからしばらくはまともに動けなかった気がする。 「なあ、それじゃ今度は逆にしねえか」 「逆って、どういうこと?」 「まあつまり何だ、俺がお前を抱くってことで……」 「ああ、それは却下」 あっさり否定されて呆然とした。せめて少しくらい考えてから答えを出してほしい。 お互いに同じ男なのだから役割が逆転しても大して変わらないだろうと軽く考えていたが、赤木には妙な拘りがあるようだった。 矢木にとっては、どうせなら痛みが少ない役割のほうがいいという単純な理由なのに。こんなところでも意見が食い違ってしまう。 赤木を抱く、と言っても今の時点ではとても想像すらできなかった。たとえ本当に矢木がその気になっても、先ほどの答えを聞いた限りだと赤木はそれを許さない。 実は赤木も痛い思いをして相手を受け入れるのは嫌なのだろうか。 「せめて却下の理由くらい聞かせろよ」 「あんたが俺の下で喘いで、めちゃくちゃに乱れるのが見たいから」 「悪趣味だな……」 引きつった矢木の表情は、背後の赤木には見えていないだろう。男同士の性交が喘ぐほど気持ち良い行為とは思えない。 何度も続けていれば痛みを超えた何かがあるのかもしれないが、超えるまでの道のりはとんでもなく辛そうだ。 |