眠れない夜に よく考えてみれば、どうしてこんな馬鹿な質問をしたのだろうと思う。 部屋の電気を消して布団に入ったものの何故か眠れず、何度か寝返りを打っているうちに隣で寝ている赤木もまだ起きていることに気付いた。 「なあ、赤木」 「ん?」 声をかけてみたものの話題が見つからない。 そもそも赤木相手に大盛り上がりする話題がどんなものか、もし存在するなら是非とも教えてもらいたい。 赤木の好きそうな話題……やっぱり麻雀では点棒代わりに腕1本を賭けるのが最高だよな、とでも言えばいいのか。 そんなことを口に出したら最後、麻雀牌セットを持ち出してきたり雀荘に連れて行かれそうなので絶対に言えない。 代打ちだった昔ならともかく、賭博の世界から抜けた今では腕や指を賭けた勝負は無理だ。 特に赤木に対してのうかつな発言や小細工は身を滅ぼす。それは6年前に学習したのでもう繰り返したくなかった。 薄闇の中、沈黙が流れていく。何でもいいから早く言わなくては。 「いや、その……あれをさ、入れられる時って、やっぱり痛えのかなって」 「何を、どこに」 「し、知らねえならいい! 忘れてくれ」 赤木がいつも通り淡々とした口調で聞き返してきて、急に恥ずかしくなった。 冗談っぽく言ったとはいえやはりこのネタは悪かった。 先日、矢木を抱こうとして強引に迫ってきた赤木を拒んで気まずくなり、一晩かけた話し合いでようやく解決したばかりだというのに。 これではまるで、そういうことに興味があるから抱いてくれと言っているようなものだ。 違う……それは、まだ。 何もかも無かったことにしようとして慌てて赤木に背を向けると、後ろからかすかな笑い声が聞こえてきた。 「予想はついてるよ、あんたの考えてることなんて」 「だったら言わせるなよ!」 「あんたが曖昧な訊き方をするから、一応確認してみたのさ」 「やっぱり可愛くねえな、歳相応じゃねえっていうか」 この男に歳相応の可愛げなんて求めていない。考えてみれば赤木がこういう性格だからこそ付き合いがうまくいってる部分もある。 布団を肩までかぶったまま赤木と向き合う体勢に戻ると、赤木はまだこちらを見ていた。 他に話題のストックも存在せず、何もかも無かったことにするのは難しそうだ。 「……で、結局どうなんだよ。さっきの話」 「教えてやろうか」 もったいぶるように少し間を置いた後、赤木が再び口を開いた。 「誰にも突っ込まれたことがないから、知らない」 「おっ、お前……散々引っ張っといてそれかよ!」 「事実なんだから、仕方がないだろ」 あっさりと軽い口調で返してくる。確かに事実なら知らなくて当然だ。赤木はこんなことで嘘をついたりはしないだろう。 じゃあ誰かに突っ込んだことはあるのか、と訊ねようとしたが結局やめておいた。 「言っておくけど、今度ああいう質問したらさ。分かってるよね?」 「え……?」 「あんたを抱くよ。痛いか痛くないか、矢木さん自身で確かめてみれば」 静かな部屋の中で紡ぎ出されたその言葉を聞いて、頭が真っ白になった矢木をからかうように、赤木は低く笑った。 「冗談だよ、おやすみ」 どこまでが本気で、どこまでが冗談なのかが読めない。 うかつな発言は控えようと決めたはずなのにこの展開、見事に墓穴を掘ったとしか言いようがない。 やはり大人しく目を閉じて眠気に身を任せていれば良かったと後悔した。 |