快楽に沈む夜 硬く張りつめたものを根元まで深く咥え込んだ後、じらすように引き抜いていく。 常に煙草の匂いに満ちている矢木の部屋の薄明かりに照らされたそれは、赤木が口の中で絡めた唾液に濡れて脈打ち、 本人の意思とは無関係の凶暴な生き物のようにも見えた。状況によっては、どんな刃物よりも鋭く心身を抉ることができるが、 快楽に人を沈めることはあっても、自分が溺れることはない赤木には通用しない。 逆に上手く利用して、楽しんでやろうと考えた。 壁に背を預けて座る矢木は必死で何かに耐えているかのような、苦しげな表情を浮かべていた。 いっそ全てを捨てて壊れてしまえば楽になれるのに、かなり強情だと思う。 度数の高い酒を多めに飲ませているため、矢木は普段より警戒心が薄れて気が緩んでいる。 それでも片隅に残った理性のかけらがそうさせているのか、あと少しのところでなかなか崩れずにいる。 矢木は元々、男相手にどうこうする趣味はない人間なので、酔った勢いで赤木に襲いかかってくることもない。 そうなったとしても別に構わないが、これまでの言動から考えると確率は限りなく低いだろう。 これは、酒が入っているからこそ成り立っている状況なのだ。 再び攻めようとして唇を寄せると、矢木の手が髪に触れてきた。続きを促しているのか、制止のつもりなのかは分からない。 どちらにしても何故だか心地よかったので、赤木は無意識に目を伏せる。 性的な快感とは遠いところにあるはずの行為が、ほんの一時だけ調子を狂わせた。 しかしそれは、すぐに取り戻した余裕にかき消されていく。 「俺の頭掴んで、揺すったりするのかと思った」 「このエロガキ、どこでそんなこと覚えたんだ」 「クソガキの次はエロガキかよ……こんな時だし、そうしたほうが盛り上がるだろ」 「お前の変な趣味に、いちいち付き合ってられるか」 「ヤクザみてえな顔して、優しいんだかケチなんだか」 「うるせえよ」 軽口を叩きながらも、矢木は限界が近いのか次第に息が乱れてきている。 舌を使ってゆるやかに刺激を与える合間、不意打ちで先端を強く吸い上げると、矢木の腰が1度だけ跳ねた。 「出せよ矢木さん、全部受け止めてやるから」 「……これ以上お前の世話になるのは御免だ」 「ふーん、それじゃ自分で抜くところ俺に見せてくれんの?」 「馬鹿野郎」 「怒るなよ、冗談だって」 出会った頃はかなりの自信家だったが、今の矢木は鋭い牙も爪も失い必死でもがき続ける、哀れな獣のようだった。 どちらが優勢かは明らかなのに、決して屈服しようとはしない。 逃げられると追いたくなる。強気で跳ね返されるほど、捻じ伏せたくなる。 遥かに年上で、体格の良い男を思うがままに支配するのは、手応えがあって楽しい。 「なあ赤木、お前は何でこんなこと……」 「もう黙れよ」 野暮な質問には答えたくない。 絶頂へ導いていくために、根元から先端にかけて唇で扱く動きを速めた。 頃合いを感じて顔を離すと、白く濁った体液が放たれて赤木の頬や口元を生暖かく汚す。 丁寧に指先で拭い、味わうように舐め取る。濃くて苦いその味は、滅多に垣間見ることのない矢木の欲望そのものだ。 何だかんだ言って、頑なに赤木の誘いを拒み続けていた様子からは想像し難い。 「俺に舐められて、気持ち良かったんだろ……矢木さん?」 引きつった表情の矢木と目が合った瞬間、赤木は口の片端を上げて薄く笑ってみせた。 |