セーラー服を脱がせない





目の前でひらひらとした紺色のプリーツが揺れるのを、矢木は呆然と眺めていた。
セーラー服に身を包んだ赤木がからかうような笑みを浮かべて、スカートの裾をつまみ上げて見せる。膝丈のスカートの下から太腿が露わになった。

「どう?」

そう問われても返す言葉が見つからない。それをどうやって手に入れたのかということよりも、何故それを着る気分になったのかと いうことを真っ先に訊きたかった。以前着ていた学校指定の体操服ならまだしも、これほどコメントに困る服装は初めてだ。
女装していてもその中身は普段と変わらない、肉付きの薄い痩せた少年のものだ。幼さを残しつつも整った顔立ちのおかげで気持ち悪くはないが、やはり どこか奇妙な雰囲気だった。
おかしな格好をして、矢木を困らせようとしているに違いない。まあとにかく赤木の悪巧みにあっさり引っかかってしまうのは面白くないので、 ここは冷静な振りをしてみることにした。

「とりあえず、着るならちゃんとしろよ」

立っていた赤木を手招きすると、微妙に曲がって結ばれていた赤いスカーフを解いて結び直してやった。 こういう経験は初めてだったが、昔からの手先の器用さが役に立ったようだ。
赤木は矢木の手の動きを黙って見ていたが、それについての感想は口にしないまま畳に腰を下ろした。遠慮なく足を開いて座っているので、 太腿の奥から男物の下着が見えている。

「ああ、やっぱりスカートって落ち着かないね。布が足にまとわりつく感じで」
「その格好で毎日外歩いてれば、いつかは慣れるだろ」
「あんたに見せるために着たんだから、この格好で外は出ないよ」
「……別に俺、頼んでねえけどな」

素っ気ない調子でそう言って、赤木から目を逸らした。あんたに見せるため、という言葉が頭にしつこく残って消えない。
体操服姿に興奮して性交にまで及んだ前科があるからか、もはや何でもありだと思われているのだろう。この辺りで区切りをつけておかないと、 調子に乗った赤木が今度はどんな怪しい格好をしてくるか分からない。

「もう俺に見せたんだから充分だろ、早く脱げよ」
「こういうのだと、その気にならない?」
「そんな格好で俺が喜ぶと思ってるのか」
「あらら……喜ばないんだ」

赤木が嘲笑しているように見えて、矢木は拳を強く握り締めた。自分はそれほど優しい人間ではないので、怒りが限界に達した時には人を殴ったこともある。 しかし今そうしないのは、赤木は13歳の子供で、しかも殴ったところで泣いたり怯えたりするような相手ではないからだ。 それに何よりも、ずっとそばに居てほしいと願った相手を殴れるわけがない。
しばらく無言で赤木を睨んだ後、自分を落ち着かせるために深く息をついた。赤木は静かな表情でこちらを見ている。

「矢木さん、怒ってる?」
「まあな」
「じゃあ俺、どうすればいいのかな」

矢木の頬に、赤木の手が誘うように伸ばされる。その指に触れられると身を任せたくなるが、今日は違う。触れる直前で赤木の手首を掴むと、口の片端を少し上げた。

「それ着たまま、夕飯の材料買いに行ったら許してやるよ……」

別に本気でそれを望んだわけではない。軽い冗談なので拒否されてもいいと思っているが、赤木は立ち上がってこちらに背を向ける。 そしてドアのほうへ歩いていくのを見て、さすがに慌てた。矢木はその後を追って赤木の肩を掴んだ。

「おい、どこ行くんだ」
「言われた通り、夕飯の買い物に。そういえば何買ってくればいいの?」
「あんなの本気にするんじゃねえよ!」

矛盾しているかもしれないが、できれば拒んでほしかった。 すっかり読み違えて、矢木に見せるためだけにセーラー服を着たという赤木は絶対にそうすると信じていたのだ。
この格好で外に出て、知り合いに見つかった場合のことは全然考えていないのだろうか。

「とにかくもういいから……やめてくれよ」
「変な人だね、自分から言い出したくせに」

低く笑いながら赤木は矢木が結んだスカーフを解いた。鮮やかな赤い布が足元に落ちる。
そうやって少しずつセーラー服を脱いでいき、最後は全裸になった。

「着慣れない服よりも、こっちのほうがいいかな。俺も、あんたも」
「赤木……」
「どう?」

数分前と同じ言葉で問われたが、含まれている意味は全く違う。 露わになっている肌や股間を隠そうともしない赤木の身体を、矢木は強く抱き締めた。




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2007/8/2