|
完全なる支配 「おい、もっと優しく……っあ!」 苦痛の声を上げる矢木の背後で、赤木が笑っているような気配がした。 あまりの痛さで、指に挟んでいた煙草を畳の上に落としそうになる。 いつも通りの夕飯後、赤木に肩を揉んでやると言われた。 普通なら気の利いた発言でも、相手が赤木だと何か裏があるのではとつい怪しんでしまう。 しかし滅多にない機会だったので、身を任せてみればこの仕打ちだ。 「あまり気持ち良くなさそうだね」 「お前が無駄に力入れすぎてるんだろ、少しは加減しろよ」 「そう言われてもねえ……」 それはどこか楽しげな口調に聞こえるのは気のせいだろうか。矢木は苦々しく唇を噛んだ。 赤木が素直に尽くしてくれるなど、最初から期待していなかった。 うっかり信じれば酷い目に遭うことは過去に学習したはずなのに、また同じことを繰り返してしまった。 「赤木……俺以外の人間の肩、揉んだことあるか?」 「ないよ、それがどうしたの」 「じゃあ何で肩揉みなんかする気になったんだ」 「ただの暇潰しだよ」 やがて赤木の手が肩から離れた。安心したのも束の間、今度は唇が耳に触れる。 「矢木さんは痛いのと気持ちいいの、どっちが好き?」 「何だその微妙な選択肢」 どちらに転んでも穏便に終われそうもないと思いながらも、矢木は痛めつけられて喜ぶ趣味はないので、選ぶとすれば当然後者だ。 精神的にも身体的にも、気持ち良いことが嫌いな人間など存在しない。 「気持ちいいほうが好きだって言ったら、どうするんだ」 「そう言うと思った」 矢木が短くなった煙草を灰皿に押し付けた途端、身体を仰向けに転がされた。 逃れる間もなく、赤木の唇が降りてきた。生温かく濡れた舌を使ったくちづけに、理性を崩されてしまう。 赤木に襲われるのは久しぶりで、すっかり油断していた。いい加減もう諦めたと勝手に思い込んでいたのだ。 唇に意識を奪われている隙に股間を撫でられて、息を詰めた。まだ脱がされてもいないのに、その先のことまで想像してしまった。 抱かれることへの抵抗は未だに消えていない。赤木は本気で最後までやるつもりなのだろうか。矢木の不安を見抜いたかのように、 赤木は服を脱ぎながら低く笑った。 「入れなくても気持ち良くなる方法、あんたに教えてやるよ」 矢木に覆い被さった体勢の赤木が動くと、互いの下着越しに重なった性器が擦れ合う。 それを続けているうちに赤木の性器が猛っていることに気付いた。 意地を張って文句を言っていた矢木のほうも、擦れ合う感触や赤木の息遣いに心を乱されて感じているのだ。 口を開けば変な声が出てしまいそうで、それを必死で堪える。 「急に大人しくなったね、大丈夫?」 とろけるような優しい口調が恐ろしい。赤木は矢木の胸に顔を埋めると乳首を吸い、小刻みに舌を動かした。 こちらの様子を窺う目は暗く静かで、何年も前に卓を囲んだ時もこんな目を向けられたことを思い出す。 その当時は完全に狙われているという恐怖しか感じなかったが、今は違う。更に快楽まで混じって、赤木を突き放すことができない。 身を起こし、最後に残った下着まで脱ぎ捨てた赤木の性器が目前に晒される。それはすでに先走りの滴を流し、完全に勃起していた。 「いかせてくれとは言わないからさ、少しだけ舐めてよ……矢木さん」 普段の状態なら強気で拒めるが、こんなに感じてしまった後では無理だ。もしかすると自分は変になったのかもしれない。 弱々しく頷くと、赤木は仰向けになっている矢木に跨ったまま唇に性器を近づける。浮かんでくる滴を舌先で受け止め、割れ目を控えめに愛撫した。 男の性器を舐めたのは初めてだったが、それほど嫌な味も匂いもしなかった。赤木が息を震わせたのを見て、奇妙な気分になる。 「あんたのいやらしい顔、初めて見た」 「……見るな、頼むから」 「こうしてると、あんたを喘がせたくなるよ」 本当に怖いのは赤木に抱かれることではなく、快楽に支配されて自分を見失うことだと気付いてしまう。どうしようもなく身体中が熱かった。 赤木の性器に手を添えて、根元から先端に向かって舐め上げる。再び浮かんだ透明な滴が零れ、矢木の頬を濡らした。 「ねえ矢木さん、本当にまだ抱かれたくないの? そんなことまでして……」 楽しげに言いながら、赤木は口の中に熱い性器を押し進めてきた。もう舐めるだけでは済まされない。 これ以上進んでしまうと後戻りができなくなる。 しかし1度歪められた意思は止まらず、このまま喉の奥へ射精されても構わないとすら思い始めた。 |