切ないほどの罪と罰 中年男が少女を強姦して逮捕、という記事を新聞で読んで動揺してしまった。 記事とは違い無理矢理ではないにしろ、自分が赤木にしていることと似ているような気がしたからだ。 一緒に寝ればいつもの通り、いやらしいことをせずにはいられなくなる。あれほど避けていた赤木を、いつの間にか欲しがるように なってしまった。しかもそうなるように誘ってきたのは赤木だ。賭博以外に関してはただの子供だと思っていたのが間違いだった。 記事を読んでから数日、赤木が寝静まるのを見計らって布団に入るようにしている。 それまでは適当に理由をつけてはアパートの外に出て、煙草を吸いながら時間を潰していた。 赤木を避けて解決する問題ではないと分かっている。しかし赤木に触れたり服を脱がしていると、自分がしていることは常識から外れて いるのだという考えが浮かんでしまい、途中で萎えてしまうのだ。その度に気まずい雰囲気になるのが耐えられなかった。 今まで散々やりたいようにやってきたのに何を今更、とも思った。赤木への気持ちも、あの肌のなめらかさも忘れられないくせに。 そろそろ寝た頃か、と予想して玄関のドアを開けた。外に出てから1時間近くも経っているのでもう大丈夫だろう。 真っ暗な部屋の中で、音を立てないように歩いて服を脱いだ。そしてこっそり布団をめくって入った途端、寝ていると思っていた赤木が 寝返りを打って身体を寄せてきた。 「最近、俺のこと避けてない?」 「き……気のせいだろ」 「煙草を吸うために外に行くなんておかしいよ、今までは家の中でも吸ってたのに」 外に出るために使った言い訳まで持ってきて、矢木を責めてきた。確かに最近までは何も考えずに室内で吸い続けて、急に外に 出て吸うと言い出せば不審に思われて当然だ。 「そういえばこの前、どこかの大人が子供を強姦して捕まったんだってね」 矢木の胸元に顔を埋めながら、赤木が呟く。新聞でも大きく取り上げられたので、赤木が知っていてもおかしくない。 「俺とあんたは、お互いに同意の上でやってるんだから問題ないんじゃない」 そう言う赤木は、まるでこちらの不安を見抜いているかのようだった。抱いている時の赤木は嫌がるどころか、乗り気で応えてくる。 むしろ子供の口から出たとは思えない誘い文句や、まだ男として成長しきっていない身体に快感を教え込むことに、どうしようもなく 興奮していた。酷い目に遭わされた過去を一時でも忘れてしまうくらいに。 「でも周りから見たら異常だろ、お前みたいな子供とあんな……」 「他の人間が何て言おうがどうでもいいよ、くだらない」 例の強姦事件のことも赤木は全く気にしていないようで、あっさりと片付けてしまった。 しかし快感よりも罪悪感が上回っている今は、赤木のように軽く割り切ることができない。 ここで開き直って赤木を抱き締めれば楽になれるだろう。そしてまた淫らで甘い夜を過ごせる。何もかも元通りだ。 「あんたは捕まるのが怖いから、俺に手を出さなくなったの?」 「別に、そんなんじゃねえよ」 「今更善人ぶっても俺とセックスしたのは事実だし、あんたは後戻りできないんだよ」 胸に突き刺さるほどの正論だった。矢木が何も言えずに黙っていると、赤木は呆れたようにため息をついた。 「相手が男だからとか、子供だからとか、もう手遅れなんだからいちいち悩むなよ」 「お前な、さっきから好き放題言いやがっ……」 「俺とあんた、そろそろ潮時かな。くだらないことで悩まない別の相手でも探すよ」 淡々と言った赤木が背を向けると、ひとり取り残されたような気分になった。赤木は本当に別の相手を探すつもりなのだろうか。 今までのように性の対象にするのはためらうが、赤木を手放したくない。そんな考えは都合が良すぎるということだ。 このまま赤木と終わってしまうのは辛い。本当は今すぐにでも触れて抱き締めて、元の関係に戻りたい。未練は山ほどある。 「なあ赤木……不愉快にさせて、悪かった」 「うるさいな、早く寝れば」 「俺、お前じゃなきゃだめだ。他の奴のところなんかに行くなよ」 こんな展開になってしまったことを悔やみながら、静かな口調でそう伝える。それでも赤木は背を向けたままだ。 もう修復は不可能なのだと思い目を閉じると、布団の中でこちらを向いた赤木が矢木の腕に触れてきた。 「その言葉、信じてもいいの?」 「ああ、本気で言ったんだよ……」 「いつもひねくれた矢木さんが、そこまで言うなんてね」 「誰がひねくれてるって?」 赤木の肩を抱き寄せ、久しぶりに唇を重ねる。次第に深くなるくちづけに夢中になり、息を荒げて赤木に覆い被さった。 数日ずっと我慢していたせいか、高まる欲を抑えられない。自慰すらまともにしていなかったので、かなり溜まっているのだ。 周りから悪く言われようが常識から外れていようが、赤木を手放す寂しさに比べれば小さなことだ。 それを知った今ではもう、何も怖くなかった。 |