■ 断崖の花・4
「総学院を辞めたと思ったら何年も姿を消して。いったいどこに行ってたんだい?ちゃん」
「・・・・・」
差し向かいで酒を飲む女に、春水は話しかけた。
酔い覚ましの散歩。
旧市街で見つけたのは、既知の女。
あの朽木家の分家、家の息女。
行方知れずになったと、噂に聞いたのはもう何年も前だ。
一杯どうだい?と誘えば、あっさりついてきた。
「で、どうするんだい?これから」
「・・・・・」
は応えず、黙って杯を傾けた。
「じゃ、うちにくる?」
「いかない」
春水の誘いをあっさり拒否する。
「つれないねえ」
「ふん。本気じゃないくせに」
は、月を見上げる。
消えそうに細く、曲がった月を。
「イヤイヤ、本気だよ?」
「だったらこう言えばいい。お前なんか要らない。絶対に、うちの隊に来るなって」
「・・・。相変わらずだねェ」
肩をすくめる春水。
「そっちこそ、相変わらず酔狂だ」
「じゃ、十四郎のとこは?」
「体が弱いのは隊長一人で十分でしょ。キャラかぶるし」
「・・・君、昔は素直で可愛い女の子だったのになあ」
肩をすくめる春水。
「変わってないよ私は。ちっとも。だから、ここにいる」
「・・・参ったね、どうも」
それ以上なにも言えず、春水は杯を傾けた。
『まるで断崖に咲く花のようだ』
そう、言ったのは誰だったか。
誰がためでなく咲く花。
それを見て、人はなにを思うのだろう。
「それに目星はつけてある」
「・・へえ?」
ようやく、は月から目を離し。
ニヤリと笑った。
「十一番隊にする」
「・・・・本気かい?」
「冗談だとでも?」
「君にはちょっとキツいんじゃない?今の、十一番隊は」
言ってから春水はしまった、と思った。
「・・・・上等」
逆にそれが、火に油を注ぐ結果になった。
言った通り、は十一番隊に入隊した。
それから。
一目でわかる粗野な十一番隊の隊員たちと歩くの姿を、時折見かけた。
子供のようにはしゃぎ、大きな口をあけて笑う、姿を。
「・・・なにを見ているんです?京楽隊長」
声を掛けてきたのは、副隊長の伊勢七緒。
「ん〜?ちょっとね」
「・・・・・・・」
春水の視線の先を、七緒は追う。
「彼女は、確か、十一番隊に入った・・・・」
断崖の花は、野に咲く花に変わったのだ。
そう、思った。
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(06/02/28)