誰が為でなく。
花はただ生きるために咲く。
■ 断崖の花・6
「遅いぞ、!」
叱咤する相手は、己そっくりな者。
鏡に映ったような、と言えないのは瞳の色が違うから。
髪の長さが違うからだ。
「・・・・・・・・・・・せっかくの別れのシーンも台無しだよね」
はボソリとつぶやいた。
「なにがだ?」
「なんでもない。しかしここは相変わらず殺風景だね・・・」
見渡す限り、岩、砂。
雑草ひとつ、生えてやしない。
「ふん、つまらぬものがなくて清々しいわ。行くぞ!」
「ちょ、ちょ、待ってよげっきょん。いくってどっち?」
「げっきょんゆーな!私の名前は万華鏡だと言ってるだろう!!」
「ニックネームニックネーム」
ひらひらと手を振る。
そう、ここは斬魄刀たちの世界。
死神と斬魄刀を繋ぐ精神世界のその向こう。
「まったく・・・このうつけが。鏡花水月と接触したのだろうが!さっさと波動を探れ!」
「持ち主と、だけど。できれば二度とごめんこうむりたいね」
思い出し、うんざりする。
「まー、なんか相手にされてないって感じだったけど」
「まったく情けない!それでも私の主か!」
プリプリ怒る万華鏡。
「主を酷使しないでくれる?ただでさえ病弱なヒロインなんだからさ〜」
「難儀な身体だ!」
「まったくだよ。霊力の調整と鍛錬のためにいちいちここに呼ばれてたんじゃ困るんだよねェ。起きるたびに浦島太郎状態でさ〜」
「その点は、今回は心配いらぬ」
「はイ?」
「オイ!こそこそしてないで出てこい!卑しい女だが貴様をとって食いやしない!」
ひい、という声の次に、岩陰から顔を出したのは。
「ひ、ひ、ひ、瓢丸で、す・・・あ、あの、その」
しどろもどろのその姿は、容姿はまったく違うものの。
どこか。
「・・・は、花ァ?」
素っ頓狂な声を出す。
「ひィはい!ご主人様ですう!ごめんなさいいい!」
「イや別にあやまらなくてもいいんだけど・・・え、なに。ホントに花太郎の?」
「おどおどするなッ!!」
万華鏡が一喝する。
「ひいィ、すいませんん!!」
その声に怯えて身をすくませる瓢丸。
「コイツはこちらでも珍しい治癒能力の持ち主でな」
瓢丸を足蹴にしつつ答える万華鏡。
「ま、まあまあ・・・、足退けて、げっきょん」
「げっきょんゆーな!」
「ハイハイ。とりあえず出発しようよ?アンタたちの世界って広いんだから。それに今回はあんまり長くいられないんだよ、私」
「それを私が知らぬと思うのか?大体貴様がぐずぐずぐずぐずしておるのが悪い!!アレがどれだけ危険な存在か、よくわかっただろうが!!」
「直接闘り合ってもないのにわかんないよ。まあでも・・・」
『どんな斬魄刀を持とうとも、その身体では無意味』
鏡花水月の主・藍染惣右介。
あんな冷たい目をした者を、知らない。
あの男は、危険だ。
なにより。
(・・・ムカツク)
いくら身体に限界が来ていたとはいえ、あっさりとカザアナを見抜かれた。
消す価値もないと、判断された。
「でも・・・なんだ?」
首をかしげる万華鏡。
「や、なんでもない。じゃ、いこうか」
「ほう?今回は随分やる気だな」
「ん〜、まあね」
「最初にここへ来た時は、死にたくない死にたくないとビービー泣いていた餓鬼だったくせに」
「最初だけでしょ。右も左もわかんないうちにここに連れてこられたら、誰でも泣くわい」
それに、とを続け。
「死にたくない、んじゃないて・・・死ねなくなった、からね」
は肩をすくめ、瓢丸を、見た。
「?」
その視線に意味がわからず、首を傾げる瓢丸。
「なんでもない。あ、藤孔雀の波動発見。アイサツしてくか」
「アレにか、アレは苦手だ」
渋い顔をする万華鏡。
「好き嫌い言わない。いくよ万華鏡、瓢丸」
「うむ・・・しょうがない」
「は、はひっ」
誰が為でなく。
花はただ生きるために咲く。
だが世界が。
それすらも叶わぬ世界に変わろうとしているのならば。
散る花びらも、刃に変えよう。
断崖の花はもう居ない。
それを、ただ見つめるだけの者も。
【断崖の花・終】
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(06/03/08)