■ うたうたう
歌がきこえて、花太郎は足を止めた。
その部屋は、相変わらずちょくちょく調子を崩して詰所にやってくるの部屋だった。
「さん?」
ドア越しに声をかけると、歌が止まった。
「・・・入りますよ?」
そう声をかけて、花太郎はドアを開けた。
中にいたは、ベッドで横になっていた。
アレ?と首をかしげる花太郎。
確かに歌はこの部屋からきこえて。
でも、は眠っている。
微動だにせず。
寝息も、聞こえない。
その肌は青白い。
まぶたも唇も、ぴくりとも動かない。
まるで。
慌ててそばに駆け寄る花太郎。
浅い息遣いは、口元に手をやってようやくわかる程度。
その姿に、花太郎は泣きたくなるほど不安を覚えた。
その様は疲れている、というより病んでいる。
老いている、と言ったほうが。
いや。
それよりも。
朽ちている。
精も根も尽き果てて。
自分で想像して、花太郎はぞっとした。
そんな人が、あの十一番隊にいるはずがない。
席官だなんて、ありえない。
だから、こんな想像なんて馬鹿馬鹿しい。
かぶりを振る花太郎。
だが、の霊圧は常にひどくつかみにくかった。
低いというより押さえ込んでいる、と言ったほうが正しい。
普通は霊圧を読んでその人の症状を探るが、にはそれが出来ない。
何より、自身がきちんとした治療を拒んでいた。
まるで、自分の身体を、霊圧を探られるのを嫌がるかのように。
ああ、と花太郎は嘆息する。
卯ノ花隊長みたいな能力が、ぼくにもあったら・・・・。
きっとこの人を元気にしてあげられる。
霊力を使った、その場限りの治療ではなく。
「・・・・泣いてるの、山田」
の声に、花太郎は顔を上げた。
いつの間にかが目を開け、花太郎を見つめていた。
「え?あ!いえ・・・!」
ごし、と慌てて目を擦る花太郎。
「歌がきこえて・・・だから、起きてるのかと思って!すいません寝てたのに勝手に入っちゃって!」
「べつにいーよ、そんなの・・・。それより、きこえたの?」
少し掠れた声で、はたずねた。
「え?」
「歌が、きこえたの?」
「え、あ、はい・・すいません」
「あやまることないってば。・・・山田は運がいいな」
「運が、いい・・・?」
意味が分からず、問い返す花太郎。
「山田が聞いたのは、私の斬魄刀の歌だ」
「ざ、斬魄刀の歌?」
「私でも滅多にきかせてくれない。きまぐれなヤツだから・・・」
「歌うんですか?斬魄刀が?」
「・・・うん。私がアイツを知ったのは、アイツの歌がきこえたから。きいたことない歌が。・・・でも」
「・・・・・」
花太郎は、黙っての言葉に耳を傾けた。
「でもアイツは、・・・・私の歌を真似ていただけだって言うんだ」
億劫そうに、は瞳を閉じて。
「その歌はアイツに教えてもらったのに、アイツは、私の歌を真似たって言うんだ」
ゆっくりと喋るのは、眠いからなのか、それとも。
そんな声すらも、花太郎の耳を優しく撫でるようだった。
「ふしぎ、ですね・・・」
「うん」
「きれいな歌でしたね」
ほんの少し、きいただけだけど。
「・・・・・そう?じゃあ」
は、口ずさむ。
歌の続きを。
||| 前 | 戻 | 次 |||
(05/12/10)