目を覚まして。
『ああ、今日も生きていた』
そう、ほっと息をつく。
ままならない自分の身体を持て余す事はあっても。
なにもかもが閉ざされていたあの頃に比べたら。
多分、今は。
■ 幸福なる日々?【前編】
「ねー!起きて、起きてよちん!」
パチパチと頬を叩かれ、その痛みに、は無理やり目を覚まされた。
その耳に、届くのは。
「ねえ!はーやーく!」
きこえるのは、高い少女の声でなく。
ごうごうと唸るような、嵐の日ような音。
その中から聞こえる、囁き。
それはひどくかすかで、歯がゆい気分にさせられる。
それらにかき消され、には少女の声は届かない。
だが、
ちりん。
「・・・・・・」
鮮明な鈴の音が一瞬、轟音を払った。
目を開けてみれば目の前に白い大きなものがあった。
それが何か解らず、だから、目を開けたもののは動けなかった。
「あ、起きたー!ちん、オハヨー!」
視界いっぱいに、やちるの顔が飛び込んで来て。
やっとは、やちるに起こされたことを知った。
「剣ちゃん!ちん起きたよ!」
そう言って、やちるはその白い大きなものにしがみついた。
やちるの声は、再びきこえ出したごうごうと唸る風のような音に耳を支配され、うまくきこえない。
でも、これは、知っている。
知っている音だ。気配だ。
これは・・・
「・・・・・うげッ」
「うげ、ってのはなんだ?」
振り返る、剣八。
白いモノは、羽織を着た剣八の背中だった。
嵐のようなうなる声は、剣八のめちゃくちゃな霊圧だ。
かき消されるようなささやきは。
は、剣八の足元に無造作に置かれたぼろぼろの斬魄刀を見て。
「おはようございます本日もまた一段と素敵な髪型で・・・」
もそもそと起き上がって抑揚鳴く声を出す。
「馬鹿にしてんのか?」
「ところでなんで私の部屋で髪をセットしてんすか・・・?」
「俺の部屋だ、ここは」
ちりん、と音を立て髪に鈴を編み込む剣八。
一瞬、すべての音を払ったのは、これだ。
「ちんってばちっとも起きないんだもん!剣ちゃんも起こさなきゃいけないし!だからふとんごとひっぱってきたの!」
ぷ、とほほをふくらますやちる。
「・・・・・・」
しかしはやちるが喋っている内にまた布団で横になった。
「寝ないの!」
パチーン!
「痛い!」
横っ面をはたかれてようやく、は完全に覚醒した。
「もお!今日は一緒に遊ぶって約束したでしょ!ホラはやく着替えて!」
そう言ってやちるはの寝間着を脱がそうとした。
「ちょちょちょ、ふくたいちょー!?着替えって、ここに着替え無いから脱いでも・・!」
あわてる。
その時。
「おはようございまーす!隊長、用意できました?あ、なんなら僕が髪セットしましょーか?」
部屋にやってきたのは弓親だった。
「・・・・・・・・」
剣八の部屋にやちるがいるのはよくあることで。
でも、そこにがいて。
は寝間着姿で。
しかもなんか脱ぎかけで。
その光景に、弓親は言葉を失った。
「ぎゃははは!なにやってんだよ、オメーらは!!」
事の顛末を聞いた一角は一人大笑いをする。
そして。
「つーかおせーんだよ!!場所はココ!時間厳守っつったろーが!!あんまり遅ェからアレ?俺日にち間違えた?とか思ったじゃねえかよ!!」
「笑うか怒るか一つにしてくれない?」
と、弓親。
「ハゲるか剃るか一つにしてくれない?ぷ」
その後に続く。
「朝っぱらから喧嘩売ってんのか、テメエは!?」
「ていうか、重いから!もたれてこないでよ!」
一角、弓親から言い返される。
「だって眠いんだよまだ朝じゃん」
は全身の体重を弓親にかける。
「朝なんだから起きなよ!」
「ムリムリ。眩しくて目が開けられない。斑目太陽拳いつ覚えたの?」
「一生眠らせてやろうか!?」
斬魄刀の柄に手をやる一角。
「もたれるなら、僕じゃなくて一角にね!」
そう言って弓親はの身体を一角に押しつけた。
「バ・・・!断る!」
一角はさっと避けた。
そのせいで、は地面にばたりと倒れた。
「・・・・・・・・・」
そのまま動かなくなる。
「なにやってんだよ、テメエらは」
呆れた声を上げるのは、三人のやり取りを見ていた剣八。
「あはは、おもしろーい!」
その剣八の背に乗る定位置で笑うやちる。
「おい、起きろ」
剣八はの襟首を掴んで持ち上げ、無理やり立たせた。
しかしは目を瞑っている。
「すーすー」
しかも寝ている。
「オイ!!!」
声を荒げ、揺さぶる。
「すーすー・・・」
しかしまだは起きない。
「起きろ!」
霊圧を上げる剣八。
するとはパチっと目を開いて。
「おはよーございます今日もまたいちだんと素敵な髪型で」
「それはさっき聞いた」
「それではおやすみなさい、またあした」
「寝るな!!」
一喝する剣八。
ううう、と声を上げるがしかし眠たげに目をしょぼしょぼさせる。
「ちっ、たくしょうがねえな!」
舌打ちし、剣八はを肩にかつぎあげた。
「ここでグダグダやっててもしょうがねえ。いくぞ!」
そしてずんずん歩き出す剣八。
顔を見合わせ、しかしすぐ後をついていく一角と弓親。
「ねー剣ちゃん?」
「なんだよ」
「行き先知ってるの?」
やちるのその言葉に、剣八は足を止めた。
「おい。行き先はどっちだ?お前が知ってる他の誰も知らない秘湯ってのは?」
振り向き、背中のに話しかける剣八。
「すーすー」
「おきろ!!」
また霊圧を上げる剣八。
「ううう〜」
しかしどうにも目が開けられない低血圧の。
「しゃべれねェんなら指を差せ!」
と、一角。
「・・・むう」
は片手を上げ、前方を指差す。
そして。
「・・・我が行き先を導け、万華鏡」
次の瞬間、剣八たちの目の前にちいさな銀色のカケラが出現した。
まるで方位磁石の針のようなソレは、空中で留まり、ユラユラと前方を指している。
「おやすみなさあい」
そう言っては、完全に睡眠モードに入った。
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(05/12/29)