資料室に向かう花太郎は、その途中で我も我もと用事を言いつかり、結局。
「う・・・、これは・・・ちょっ・・・」
前も見えないほどの大量の冊子を抱える羽目になった。
おぼつかない足取りで、廊下を行く。
そんな時。
「あ、さん!」
彼女を呼ぶ声を、聞いた。
■ 恋心に潜む一抹の
<護廷十三隊で、恋人にしたい隊長は?>
「・・なにこれ?」
渡された紙を見て、首を傾げる。
「アンケートなんです」
「そーです!」
答えるのは、四番隊の女性隊員二人。
一人は花太郎の同期。
背の高いもう一人は、花太郎の班に所属している新人で。
ちょくちょく救護詰所で厄介になっているとは、花太郎を通じて顔見知りなのだ。
ここは、四番隊の詰所のひとつ。
今日、花太郎がここに常駐していると聞いては来たのだ。
「・・はあ、面白いコトやってんだねェ」
「毎年やってるんですよ?」
「ぜひさんも参加して下さい!」
「ん〜、わかった」
さらに手渡された鉛筆で、さっそく書き出す。
「・・・・・・」
そんな現場を目撃した花太郎はそれ以上足を進められずにいた。
物陰から、そっと様子を見守る。
「あのさー、山田知らない?ここに居るって聞いたんだけど」
書き込みながらそう言う。
曲がり角の向こうで花太郎がドキリとしていることなど、もちろんは知らない。
「あれ?会いませんでした?」
「私達さっきすれ違いましたよ。山盛りの書類持ってふらふらと。どーせまた先輩たちから用事を押し付けられたんだわ」
肩をすくめる同期の隊員。
「そう。入れ違いかな?」
首をひねる。
(誰の名前を書いてるんだろう・・・?)
に好意を抱く花太郎にとっては、それが気になる。
「山田君に言伝があるなら聞いておきますけど?」
「んん〜・・まあ、いいよ。はい、これ」
もう一度角から覗くと、がアンケート用紙を手渡していた。
「ありがとうございます〜。あの、見てもいいですか?」
「ん?いいよ〜」
花太郎は耳をそばだてる。
書いたのは、誰?
やっぱり所属する十一番隊の更木隊長かな?
それとも、一番人気の朽木隊長?
そういえば、浮竹隊長とも仲が良かったけ。
しかし、が書いたのは。
「・・・こ、狛村隊長・・?」
あまりにも予想外の隊長の名に、その場でぐらりと傾く花太郎。
同じように傾く書類の山。
(わわ!?わわわっ!)
花太郎はあわててバランスをとる。
「マジですか?さん・・・」
信じられないものを見るような目つきの女性隊員。
「だってもふもふなんだもん」
しかしはしれっと言う。
「も、もふもふ・・・?」
「うん、そ。じゃあね」
ひらりと手をふってその場を後にする。
「さんって、よくわかんないですね・・・」
「ホント・・・」
その後姿を眺めながら、二人は呟く。
「あ、そういえば知ってます?さんって」
「あ〜、知ってる知ってる。朽木隊長と親戚なんでしょ?あんまり似てないわよね」
「それどころじゃないんですよ!さんて、朽木隊長の許婚なんです!い・い・な・ず・け!!」
「「嘘ォ!!?」」
声がハモった。
次の瞬間、微妙なバランスで保たれていた大量の冊子が床にばらまかれた。
その音に驚き振り返る女性隊員。
「山田君・・・?」
「は、花太郎先輩!?」
「許婚って・・・。く、朽木隊長の・・」
花太郎は落ちた冊子を気にも留めず、忘我の表情。
「・・・聞いてたの?山田君」
「ほ、本当なんですかさんが朽木隊長のい、いいッ、許婚って・・・!」
後輩相手にもなぜか丁寧語の花太郎。
「噂です噂!わ、私もほかの隊の子からきいただけで!」
今にも泣きそうな表情の花太郎に詰め寄られる後輩隊員。
「ちょ、落ち着きなさいよ?山田君・・・」
その二人を引き離す、同期隊員。
引き離されたと同時に、花太郎はぺたりと床にへたり込む。
「もう!しっかりしてよ山田君!」
「そ、そうですよ!ただの噂ですし!あの、私応援しますから!」
「恋愛に障害はつきものよ!?」
交互に言う二人の言葉に、花太郎は我に返る。
「・・・え?応援、て、え?」
きょとん、と瞬く花太郎。
「ヤダ、山田君ったらしらばっくれて!」
「バレバレですよお?花太郎先輩、さんのことがスキなんでしょ?」
「・・・・ッ!!」
花太郎は二人の言葉に血の気が引き、次に沸騰して真っ赤な顔になる。
花太郎の表情にやっぱり、と笑む二人。
「いやあの!その、だから・・・!」
あわてて起き上がる花太郎。
「さんならむこうへ行ったよ?」
「ここは私たちが片付けておきますから。ほらいったいった」
「でも、ぼく、そのッ!」
「誰にも言わないってば!ホラ早く!」
「先輩、ファイト!」
背中を押され、よろよろと歩き出す花太郎。
だが角を曲がったところで、花太郎は歩みを止めた。
あまりにも唐突に突きつけられた、衝撃。
「朽木隊長の親戚ってことは・・・さんは貴族なんだ」
ポツリと呟く。
身分の違いに、知った事実にただ、ただ。
「なんでそこでためいき?」
「さん!?あ、あれ?」
後ろからの声に、あわてて振り返る花太郎。
追いかけてきたはずのは、いつのまにか花太郎の背後にいた。
「その括り方はやめてよ」
肩をすくめる。
その言葉の意味がわからなくて、花太郎は戸惑うようにを見つめた。
その視線に気づいたように、は口を開く。
「護廷十三隊だけをみてもわかるだろ。流魂街出身の隊長・副隊長が何人いると思う?この現状は、貴族がその名に胡坐をかいた結果だよ」
腕を組み、窓の外を見る。
「血筋や生まれなんて関係ない、そもそも霊力というのは魂の・・・」
語るは花太郎の視線にはたと我に返り、
「ゴホン、ええと・・まあ、あれだ」
わざとらしく咳払いをする。
「さん・・・なんか先生みたいですね、今の言いか・・・痛!?」
まるで、言葉をさえぎるかのように何かで頭を叩かれる花太郎。
「ハイコレ土産!温泉まんじゅう!みんなで食べな」
「・・は、はあ」
頭の上で、それを受け取る花太郎。
「それじゃ」
そう言ってはきびすを返した。
「・・・・」
去っていくの背中を見ながら、花太郎は思う。
(もしかして、コレを渡すためにぼくを探して・・・?)
お土産なんて、誰かに預ければいいのに。
わざわざ。
そう思うと、花太郎の心はぽわん浮き上がった。
「ああ、それと!」
思い出したように振り返る。
「うひゃ、はい!?」
「・・・私がアイツの許婚だったのは大昔のことだから」
「・・・・え、そ、そうなんですか?」
「その頃は両手じゃ足りないほどいたし、花嫁候補」
「そ、そうなんですか。あ、ありがとうございますッ」
ほっとした表情を隠しもせずに花太郎は言った。
「・・・・それ、どっちの礼?」
「え?」
の言葉の意味がわからなくて、花太郎は首を傾げた。
「・・・いや、いい。じゃ」
それ以上内も言わず、はその場を去っていった。
角を曲がって消えるまで、花太郎はの後姿を見送った。
(さん・・・・)
貴方を想うとふわふわと心が浮つくんです。
その姿を見ると、駆け寄りたくなるんです。
声を掛けられれば、それだけで嬉しいんです。
けれど。
想うと同時に、魚の小骨がのどに引っかかるような。
飲み込めぬちくちくとした痛みが、違和感が、胸を刺す。
去っていくその背中が、瞬きの次に消えてしまうような、錯覚。
そんな不安を感じるのです。
それが、気のせいやただの思い込みなんかじゃないことに気づくのは、まだ先。
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(06/02/25)