『山田君は・・・さんを治療したことが、あるの?』







そう言って花太郎を呼び止めたのは、副隊長の虎徹勇音。






『私の気のせいかもしれないけれど』





続く言葉に、花太郎は打ちのめされる。
















『彼女、もしかしたら、身体のどこかに疾患が・・・』







































■ 風穴(カザアナ)
























四番隊隊舎、早朝のこと。





「ッ荻堂さん!」

廊下を歩く荻堂に駆け寄ってきたのは、同じ班の女性隊員、山奈だった。

「・・・そんなに息を切らせてどうしたんですか、そんなに僕に会いたかったんですか?」

「朝っぱらからたわごとはよして!山田君知らない!?」

「山田君がどうかしたんですか?」

「どこにもいないのよ!山田君の班の子に聞いたら、ここ数日見てないっていうし!山田君って、ホラなにもないようなトコでこける子じゃない?もしかしたらどっかに落っこちてんじゃないかと思って!」

山奈は、花太郎とは同期だった。
総学院ではずっと同じクラスで、共に四番隊に入った腐れ縁なのだ。

「そんなに心配ですか?まるでお母さんですね。ジェラシーを感じます」

「お願いだから、どこから突っ込んでいいかわかんない返しはやめて!」

「2、3日前に資料室に入っていくのを見かけましたけど?」

「資料室?どこの」

「地下の」

「ええ!?あんな腐海にわざわざ!?なんで!」
荻堂の言葉を最後まで聞かずとも、山奈はその場所を悟った。

「さあ・・・?少し思いつめたような表情でしたから、声も掛けづらくて」

「でもそれ、2、3日前のことでしょ?まさかそれからずっとあそこにいる、とかないわよね?」

「大昔の文献が整理もされずただ積まれただけの地下室に、ですか?」

「・・・・。まさか、積んでたモノが崩れて下敷きに・・・とか、ない、よね?」
自分で言った言葉に顔を青くする山奈。

「なくはないですね」
さらっと肯定する荻堂。

「さ、探してくる!!」

「僕も行きますよ」

慌てて走り出す山奈の後を追う荻堂。






















隊舎の敷地、その外れにある地下堂。

明かりを手に、二人は中に入っていった。




「そういえば・・・現世にある、富士の樹海って知ってます?」

「縁起の悪いこといわないで!!」
山奈の声が、わあんっと地下道に響く。

「最近、彼はさんのことで悩んでいたみたいですしね」

「そうよ、さん!夜中にね、彼女が詰所に運ばれてきたの!」

「またですか」

「それが、今まで見たこともない症状で・・・。霊圧がめちゃくちゃで、とにかく手のつけられない状態なの。彼女、もともと治療を拒んでて、ろくなカルテもないのよ。だから、対応したことのある山田君なら、彼女のことがある程度わかるんじゃないかと思って・・・」

「・・・・」

「荻堂さん?きいてる?」
返事がなく、山奈は隣の荻堂を見た。

「山奈さん、アレ」
足を止めた荻堂が指差した先、暗い地下道の奥に、ぼわっと浮かぶ白い影。













ぺた、ぺた、ぺた、ぺた・・・・




足音を響かせ、こちらにやってくる。




「・・・ひ!?」
思わず荻堂にすがりつく山奈。

二人が持つ明かりに照らされるほど近づいてきたその白い影は。








「・・・・・・・・・あ」

埃とクモの巣にまみれた花太郎だった。

 

「あ、じゃないわよ、ばかー!!」
怒鳴る山奈。

「す、すいません・・・?」
明かりに目を細めながら、わけもわからず謝る花太郎。

「ここで何を探してたんです?」
「・・・・・ええ、ちょっと。あは、まっしろだ」
荻堂の問いに言葉を濁して俯く花太郎。
緩慢な動きで、身についた埃を払う。

「もう、そんなことしてる場合じゃないわよ!さんが大変なの!早く詰所に行ってあげて!」

「・・・・ッ!」

その名に、花太郎は表情を強張らせた。

「ほら、はやく!!」

山奈は花太郎の手を取って走り出す。

「・・・あ、でも、鍵・・・」
振り向く花太郎。

「そんなのいいから!荻堂さん、あとはお願い!」

足音を響かせ、二人は地下室を後にした。





「・・・・」
一人残った荻堂は、奥へと進んだ。

鍵がついたままの、開け放たれた扉。
部屋の中はカビと埃の臭いで澱んでいた。

中に入る気など到底なく、荻堂は扉を閉めようとした。が、

バサ。

何かが、扉に挟まった。

「・・・これは」

挟まっていたのは、比較的新しい文献だった。
それでも、ここにある以上は100年近く前のものだろうが。

手に取ったそれの表紙には。







「・・・・・・・・・・・・・・風、穴・・・・?」




ただそれだけが、書かれていた。
















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(06/03/02)