「さっさと娶れ。お前の許婚扱いは、もううんざりだ」
その言葉に後押しされたわけではない。
私は私の意志で、緋真を妻にしたのだ。
式を挙げたのは、桜の季節。
風に舞う花びらとともに届いた歌があった。
美しい、歌だった。
『様・・・』
姿はなくとも。
その言葉で、知った。
『なぜ泣く、緋真』
『・・・嬉しいのです。貴方に愛され、あの方に祝福され』
私は、幸せ者です。
そう言って、緋真は涙した。
『お前なんか、嫌いだ!』
朽ちた少女の、その言葉を思い出す。
「・・・・それは、私の台詞だ」
お前を見れば。
否が応でも、思い出してしまうから。
■春待ち
心臓がうるさいのは、走ったからだけではない。
「さん・・・・・・」
運び込まれたはずの部屋に、はいなかった。
ベッドは、もぬけの殻。
体中の、血が冷えた。
「どうして・・・どこに!?あんな、身体で!」
花太郎は、声を震わせる。
「気付かせたくないなら、どうして!知られたくないならどうして!逃げるくらいなら、どうしてぼくに・・・!」
本当は気付いていた。
でも、知らぬ振りをした。
頭の片隅ではわかっていたのに。
なのに、見ない振りをして。
「でも、だって、そうしなきゃ・・・!」
ほら、こんなふうに、いなくなってしまう。
「アレは天邪鬼だ」
その声に、花太郎は顔を上げ振り向いた。
「く、朽木隊長・・・・」
壁に背を預けて、白哉がいた。
花太郎は慌てて、頬をぬぐう。
いつの間にか溢れていた涙を。
「難儀なものだな」
それは、哀れみというよりもあきれにも似た。
「あれはきっとこれからも、逃げる」
「・・・」
「追えば逃げる。引けば・・・軋む」
どうする?と視線が告げているようで。
花太郎は、ぐと拳を作り。
「・・・・、引けません」
知ってしまったから。
自分の心に嘘はつけないから。
「失礼します」
花太郎は頭を下げ、その場を去る。
駆け出すその後姿を見て、白哉は。
「・・・・・あれが、お前の執着か?」
枯れた花は、朽ちて散って地に還るだけ。
けれど根は生きていて。
春を待って。
また、花開くのだろうか。
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(06/03/03)