「君は・・・四番隊か」
駆けつけた花太郎が持つ救護鞄を見て、藍染は言った。
その手からは、いつの間にか斬魄刀は消えていた。
「彼女は・・・ずいぶん、具合が悪いようだ。救護詰所に連れていってやってくれないか?」
藍染は、斬魄刀を持っていた手での身体を抱き上げ、花太郎に押し付けた。
「・・・・どう、してッ」
途切れ途切れのの言葉に背を向けて、歩き出す藍染。
どんな斬魄刀を持とうとも、その身体では無意味。
まるで野の花。
踏み散らす、価値もない。
まるで幻聴のように届いた言葉に、はただ、ほぞを噛むしかなかった。
藍染は、去っていった。
■ 約束
藍染の姿が視界から消えたと同時に、ずるずると崩れ落ちるの身体を地面にそっと寝かせる花太郎。
「しっかりしてくださいさん!・・・こんな身体で無茶をして!」
「・・・・ホントだよ・・・・まっ、たく・・・」
まるで他人事のように、吐き出す。
「喋らないで!今、治療を」
背中の救護鞄を降ろす花太郎。
「・・・・・、いい。無駄、だから・・」
「そんなこと、ない!」
花太郎は救護鞄からたすきとゴム手袋を出す。
「・・・花、太郎」
「・・・・ッ」
震える手でたすきを閉め、ゴム手袋をはめる。
「・・・私の身体は、治らないんだよ・・・・・・・」
囁くような、の声。
「そ・・・!」
反論しようと口を開く花太郎の言葉を遮って、
「あるんだよ。病気は直せ・・・・ても、失った身体を、元に戻すことは出来ない・・・だろう?」
「・・・・」
「技術開発局なら義体ぐらい作れるけれど・・・・まあ、私にとって霊力が、斬魄刀が義体代わりなんだ」
この斬魄刀がまた、厄介なヤツでね、とは言葉を続けた。
花太郎は、何か言い返そうと口を開いたが、また、閉じ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ぼく・・・、文献を、読みました」
ギュ、と袴を握る。
「・・・そう、か」
「万に一人、あるかないかの奇病。いいえ、先天性の疾患」
「・・・・・・・・・風穴、と言う」
その名を、は自ら口にした。
それは、その名の通り、身体にぽっかりと空いた穴。
「風穴の箇所は、主に胸部で・・・その姿はまるで。・・・・・・・まるで虚の、ようで。その姿ゆえ、疎まれ、蔑まれ、災いを呼ぶ者として処刑された」
文献に記されたとおりを、口にする花太郎。
「でも、そのほとんどの人は処刑を受ける前に・・・」
そこまで言って、花太郎はうなだれる。
「ああ、みな死んだ。カザアナに侵されて。・・・・・・ただ、一人を除いて」
「・・・・・さん。貴方の事ですね」
「ああ、唯一、今だ生き長らえている事例が、・・・私」
胸部の欠落は、つまり霊力を司る鎖結と魄睡の欠落、または奇形。
なのに、の身体は鎖結も魄睡も存在していた。正常に。
血筋ゆえか、秀でた霊力も。
その霊力が幻と謳われる幻惑系斬魄刀【万華鏡】を目覚めさせた。
そして万華鏡が、彼女の霊力を高める。
だがカザアナが、彼女の体内の霊圧の流れを乱す。
内から破壊するがごとく。
それはまるで、諸刃。
その痛みは、想像を絶する。
「・・・まあ、つまり、私の身体は・・・ボロボロなんだ」
「・・・・・・」
「イロイロ、試したんだけどねェ・・・・」
治る術があるのなら。
どこへだって。
どんなことだって。
「知らぬ振りをして。心をどこかにやって。そうやってやりすごさなければ、・・・負けてしまう」
「・・・ぼくに、ぼくにできることはッ」
たまらず、顔を上げる花太郎。
見つめたの瞳は、空のかなた、どこかを見つめていて。
ゾッとした。
ぼくには、この人を、引き止められない?
「・・・・・・・・・・・・・・・・ぼく、さんが、好きです。・・・・・すきです」
いやだ。
いかないで。
子供の、駄々の様な言葉のかわりに。
「最初に会った時から、ずっと、ずっと・・・気になって、心配で。僕の手で、元気にしてあげたら、って。それはぼくが、四番隊だからとか、そういうんじゃなくて!ぼくが、」
紡ぐのは、言葉。
吐き出すのは言葉。
なのに。
まるで硝子の破片を吐き出すような痛みに、苛まれる。
「さんが、好きだから・・・・!」
こんな言葉じゃ、引き止められはしない。
わかっていても、溢れ出した想いは、とめどもなく。
「ぼく、何も知らなくてッ、でも!でも・・・!」
そこまで言って、はあ、と息継ぐ花太郎。
泣きたくなどないのに。
貴方を想えば、その身の痛みすら感じて。
何もできない自分が悔しくて。
どうしようもなくて。
「ワガママ言っていいなら・・・」
「な、なんですか!?」
身を乗り出す花太郎。
「次に目が覚めるとき、花太郎が傍にいてくれると、嬉しい」
「・・・・・」
予想だにしてなかったの言葉に、花太郎はただ、を見つめる。
ああ、この人は。
何も、諦めては、いない。
「これで、返事になる・・・・・?」
「さん・・・」
「あと、名前で読んでくれると嬉しい」
「・・・、さん。さん!」
花太郎の呼びかけに、はほんの少し頬を緩め。
「・・・・・ごめん、花・・・話したいことまだ、あるのに・・・もう・・・」
落ちそうな瞼を必死で堪える。
「い、いいんです!・・・眠ってください?」
「・・・・花、もう、すぐ・・・」
「眠るまで、傍にいます。目が覚めたとき、必ず傍にいますから・・!」
指先すら動かせないの、その手を握る花太郎。
「気を・・・つ、け・・・・て。もう・・・す・・」
かすれる声。
「え?」
「ここに・・・・おおき、な・・・」
「さん・・・・?」
「・・・・・・・・・」
さんは、眠った。
夜が明けても。
次の日になっても。
目を開けることなく、眠り続けた。
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(06/03/05)