まつろわぬもの


































多くの者は夜にまつろい、眠りにつく。















この時間が、は好きだ。









静まり返る瀞霊廷。











丘の上、お辞儀するような木の幹に背もたれて。




眠ることなく、静寂を楽しむ。














「ゴキゲンだな」

ゆらりと闇が動く。





否、それは。




「・・・・・隊長」

姿を現したのは十一番隊隊長、更木剣八だった。






「月見酒、・・・・でもねェか」

剣八が見上げた空には頼りなく光る星が散りばめられているだけ。











今宵は新月。








風もなく、虫も沈黙し。

人は眠りへ。






夜は、時の流れ方が違う。









月の無いこんな夜は特に。





・・・・・・・・・・・・・・時間すらまどろむよう。













「こういう夜は、心地いいのです」












斬魄刀も静寂を守る。











だから、思わず、鼻歌なども出てしまう。






「酒を飲んでさらに、だろうが」

からかうような剣八の物言いに、は盃を見せた。

「・・・・・いかがです?」

「ああ」
音も無く、その場に座る剣八。

巨躯からは想像もできぬ静かな動作だ。




飾り気の無い透き通った盃は二つ。

ひとつはの手に。

残ったもうひとつは、同じく透明で飾り気の無い酒器の口に乗せられている。

は片手でそれをとって、剣八に差し出した。

剣八の手に乗った小さい盃はさらに小さく見えた。

注がれた酒を、剣八は一気にあおる。

そして、言った。

「・・・・辛いな」




「お好きじゃないですか」





「いや」

空の盃を差し出す剣八。
注げ、ということだろう。




「それはよかった」

酒器を傾ける




剣八は、注がれて波紋を生む盃を見つめ。

「・・・・・・・

「はい?」





























「お前、死ぬのか」

















「・・・・、そりゃいつかは」

肩をすくめ、クと咽喉を鳴らす











「フン、死人みてェな面しやがって」















「副隊長に何か聞きましたか」




あれは聡い少女だ。

の身体を蝕むモノを、感じ取っている。

















「・・・・・・・・・・のたれ死ぬくらいなら、俺が殺してやるよ」

だからいつでもかかってこい、と剣八は続けた。











「まだまだ死にたくないので、遠慮します」

は盃に口をつけた。

冷酒を、ゆっくりと咽喉の奥へ流し込む。

身体の中を染み込む酒は熱を発して体内を巡る。

ここにまだ、身体があることを教えてくれるようで。

それは闇に一瞬灯る蛍火のように儚いものだが、確かに。















だからは、酒を飲む。
















「ハッ、食えねェ女だ」

また一気にあおり、剣八は盃を・・・懐にしまった。





がそれに気づいて顔を上げると同時に。





「今度は誘え」






「・・・・、隊長」









「それまでこれは預かる」

また、音も無く立ち上がる。














「魂のなれの果てを狩る私たちに、もとより安寧な死など無いでしょう?」









立ち去るその背に、は告げる。


















「安寧なんぞ、クソくらえだ」






気負うでもなく至極自然にそう返す剣八に、は目を細め、口元を緩めて。









「今度は、もっと、良い酒を?」

おどけて、言う。













「酒じゃなくて、刀でも構わねェぞ」






「それはご勘弁を」









「・・・ハッ」

丘をくだっていく背中。











いつか、そんな笑い方じゃなく。

大爆笑をさせてみたい。












そう、思った。















「・・・・・・・・・」
















夜にまつろわず。





安寧に身を委ねず。




















蝕まれたこの身体でも。






いつか死をも笑ってやり過ごす。















この男の元ならば。










それができるかも、しれない。




























【 終 】

 

 

花に出会う前のヒロイン。
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(06/08/26)