物語はたいてい、お姫様が目覚めて終わる。
けれど。
これは彼女が目覚めてからの、物語。
そしてまだ、彼女の呪いは解けていない。
ぼくは王子様じゃないけれど。
彼女の呪いを解きたいと、思っている。
【 御伽話なんかじゃなく 】
「・・・お姫様じゃないけどね」
突然の背後からの声に、花太郎はわあ!!と声を上げて椅子から飛び上がった。
「お、お、お、起きたんですかさん!?」
振り返り見れば、寝間着姿のが花太郎の手元を覗き込んでいる。
「うん、目ェ覚めちゃった」
ここはの執務兼療養室。
竹林の中にぽつんと建てられたその庵の名は<御伽堂>
大昔は、どこかの隊の隊長の隊首室だったらしい。
ざわざわ、と竹林が鳴る。
庵の中に届くその音は、なんとなく波の音に似ている。
尸魂界を揺るがすあの事件が一旦の幕引きを見せてからもう一ヶ月近く経つ。
その間隊長の抜けた隊の後任の事、現世に送り出される先遣隊の選抜を巡るアレコレがあったが、花太郎にとっては変わらぬ日常だった。
を治療するという一点においては特に。
「なにコソコソ書いてるのかと思ったら・・・日記?」
「み、見ないで下さい!」
がば、と机に覆いかぶさる花太郎。
「なあに、なんかヤラしい事でも書いてんの〜?」
さらに顔を近づける。
「そんなの書いてませんから!薬飲んだならもう寝てください!」
片腕をバタバタさせてをけん制し、日記を読ませまいとする花太郎。
「花が添い寝してくれるんならね」
その様子を見てくすくす笑いながら言う。
そのせいか、ゆるく結んだ髪が肩から流れ落ち、日記を隠す花太郎の肘を撫でた。
「!」
くすぐったさとほのかな香りに、一瞬にして花太郎の鼓動は高まる。
「も、もう!からかわないで下さい。ぼく戻ります」
ガタ!と派手に椅子を鳴らして立ち上がる花太郎。
もちろん、日記を胸に抱いて、見られないように。
「あは、ごめんごめん」
まだ笑い続ける。
そんなを、花太郎はちらりと見て。
「・・・ぼくは王子様じゃないけど。でも狼じゃないわけじゃ、ないんですからね」
やわらかく笑むその唇を奪って、逃げるように御伽堂を出る花太郎。
きっと、今。
ざわざわ鳴るのは竹林ではなくて。
【 終 】
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