これは、私が朽木家に養子に来るより前の、話。
【 君の耳はパンのミミ 】
朽木家、本家。
「明日から、六番隊の副隊長として任務についてもらう」
やってきた白哉は、を見るなりそう言った。
「・・・はあ。だれが?」
「お前がだ。」
家は、朽木家の分家に当たる。
殿はその分家に生まれた、久方ぶりの女児で。
斬拳走鬼の実力は、本家でも一目置かれるほどだった。
白哉の言葉に、はその顔をまじまじと見て。
「ちょ、だれか〜。当主様がご乱心だよ。来て〜」
鯉でも呼ぶかのようにポムポムと手を叩く。
「ふざけるな」
「ソレはこっちの台詞だ!わざわざ本家なんぞに呼び出しやがって。こっちは就活で忙しいってのに!」
「シュウカツ?」
「就職活動!」
「・・辞めたのか?開発局」
「知らずに呼んだのか!知らずにヒトを副隊長にするつもりだったのか!?」
「辞めたのなら話は早い」
「ああもう!お前のそういうとこが嫌いなんだよ!昔っから!そのマイペースなとこが!」
バンバンと座卓を叩く。
「ここに、必要な書類一式と六番隊の・・・」
「ちょとー!お宅のご当主様ヒトの話全然聞かないんですけどおおお!!」
あさっての方向に叫ぶ。
「喧しいぞ」
「なに?聞こえるんだその耳。パンのミミじゃなかったわけだ!」
「パンの耳?」
「いい。もーいい。このボケ殺しが。やってられんわ」
そっぽを向いて茶をすする。
「お前の言ってることはわけがわからん」
「あーもー!とりあえず、副隊長なんかなんないから!」
「なぜだ」
「面倒臭いから!」
「なぜ面倒臭い」
「お前が嫌いだからだよ!何度も言わすンじゃッふん!げふん!!げふっげふ!」
むせる。
「汚い」
それまで眉一つ動かさなかった白哉の表情が呆れたものになる。
「うるへー!いいから他所あたれって!副隊長なんかなりたいやつはそこら辺に転がってるじゃん!」
「そうか。ならばもう一度候補を上げ直す」
「こ、こンのお坊ちゃまはよおお〜〜」
座卓につっぷす。
しかし、すぐ顔を上げ、
「大体、私を副隊長なんぞに指名したのはどこのどいつだ!」
「私だ」
「な、なんで?」
予想外の白哉の言葉に、は気を削がれた。
「分家のほうからお前の名が挙がってな」
途端に、の顔つきが険しくなる。
「まだ、私を飾りモノにする気か、あいつらは!」
「私に言うな。お前自身の問題だ」
「お前こそ偉そうに言うな。分家に言われて私を呼んだくせに!」
「決めたのは私自身だ」
「・・・私が、適任だと思ったワケ?」
「ただの消去法だ」
「てッめ・・・。大体!そういう思わせぶりなことをするからいつまで立っても噂が消えないんだよ!!」
「噂?」
「知らないのか!?私がお前の後妻になるって噂!」
「何の冗談だ?それは」
「冗談でも言われたかないわ!ホント、噂話とか疎いのな!お前の耳はパンのミミか!」
「パン・・・?」
「いい、いいよ食いついてこなくて!」
「・・・断るつもりならなぜ来た。お前は、そんな律儀な女では無いだろう」
白哉の問いかけに、はいからせていた肩を下げ。
視線を、庭へとやる。
「・・・・・、まだ」
「まだ?」
「線香を、上げていなかったなと・・・思って」
「そうか」
「でなきゃ、わざわざ本家になんぞ来るものか!」
「・・・そうか。わかった」
「わかったのなら、ホラさっさと案内を・・・」
「パンのミミと私の耳を掛けたのだな」
「遅!今ごろ気付いたよこの天然当主!というかなんで斬魄刀もってんの・・・?」
疑問に思いつつもりゅうは腰を浮かせた。
白哉の霊圧が急激に上がったからだ。
「聞こえんな。私の耳はパンのミミだから」
「いやいや。そんな間に受けるなって。霊圧上げるなって?こんな事ぐらいで怒るなって白哉様。霊圧上がってるって!!」
じり、と一歩下がる。
「散れ、千本桜」
「こんなトコで斬魄刀の開放なんてナニ考え・・・・・・ッ!!」
兄様の攻撃から、殿は辛くも逃げ切ったらしい。
「お前なんかその長い髪、部屋から出る時に襖にはさまれろバーカ!」
もちろん、そんな捨て台詞を吐いたかどうか、私は知らない。
その後、殿は真央霊術院の教師となり。
私を、見つけた。
これは、私が朽木家に来る前の話。
私がこの話を知るのは、ずっと、ずっと後のこと。
【 終 】
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