幾人もの教師に教えを受けたが。
良くも悪くも、彼女の講義が一番印象的だった。
そう思うのは、きっと僕だけじゃない。
【君は先生】
考え事をしていたイヅルは、なにやら妙に弾力のあるものを踏んでバランスを崩した。
「うわ!?」
よろめきつつもバランスを取り直し、足元に転がったソレを見る。
横たわる死覇装の人物。
それは、六番隊副隊長阿散井恋次だった。
「あああ、阿散井君!?ど、どうしたんだ!?」
駆け寄るイヅル。
「地面で寝るなんてそんな、先生じゃあるまいし!」
「寝てんじゃねェよ、倒れてんだよ!!」
ガバ!と起きあがる恋次。
「そうか、それなら良かった」
「よかねえよ!なにほっとしてんだよ!」
「え、だって・・・。疲れて道端で転がってたら、そのうち誰かが拾って詰所に運んでくれるなんて怠惰なこと考えるの、先生ぐらいしか・・・」
「馬鹿!おま・・!」
「へーえ。いっちょ前の口叩くねえ、吉良」
なぜか慌てる恋次の声を遮る女の声。
「!!」
背後から聞こえたその声に、イヅルは総毛立つ。
ゆっくりと振り返れば、そこには死覇装の女がいた。
頭をイヅルの肩に預けて。
「アタマって重いよね?」
ゾッ。
さらに血の気が引くイヅル。
「お、お、お、お久しぶりです・・・、先生・・・」
それは、覚えのありすぎる霊圧。
イヅル、恋次そして雛森がいたクラスは真央霊術院でに教えを受けていたのだ。
病弱なが療養にはいったため、わずか一ヶ月という期間ではあったが。
「可愛がっていた元生徒に怠惰なんて言われるなんてショック・・・。いっそココで派手にぶちまけるか?血反吐吐いて転げるか?・・・・私が」
「アンタがかよ!」
突っ込む恋次。
「うるさいマユゲ。背中に『僕のマユゲは面白いです』って書くぞ。副隊長に抜擢されたからってチョーシ乗りやがって」
「そもそもこんなとこに寝転がっているアンタが悪いんだろーが!!」
「踏んだ事をとやかく言ってるんじゃない!踏んで何事もなかったかのように歩き去られたら寂しいだろーが!」
「・・・・」
どうやら、恋次はを踏んでしまったらしい。
多分、関わり合いになるのが嫌でそのまま逃げようとした所を捕まってしまって。
倒された所にイヅルがやってきたのだ。
「先生・・・あの、いいかげん頭退けてもらえませんか・・・」
しかも耳元でどなられてはたまらない。
「やだなあ、先生だなんて。気を使わないで下さいよ吉良副隊長殿」
はぽんぽん、と肩を叩き。
「このままおぶってどっか適当な救護詰所にいってくれるだけでいーんだから」
「ええ!?僕がですか!?」
「嫌ならいいよ、消えないペンキで背中に『雛森命』って書いてやる」
「・・・!」
絶句するイヅル。
基本的に、言ったら必ず実行するのがだ。
くだらない事ほど真剣に。
療養と言うのは表向きのいいわけで、実はとんでもない騒ぎを起こして辞めさせられたのを知っているのは、その事件に巻き込まれたイヅルと恋次だけ。
かつて護廷十三隊最強の十一番隊に所属していた彼女が、ただの病弱だとはとても思えない。
油断をしていただろうとはいえ、恋次をあっさり地面に沈めるその実力は本物だ。
「で?どっちが連れてってくれるの?」
ニタリと笑う。
「・・・・・・!!」
二人は目を合わせる。
お前が行けよ!
嫌だよ君が連れて行きなよ!
「ナニ目と目で会話してんのアンタら・・・あ!」
は突然、イヅルを盾にして身を隠した。
「ど、どうしたんですか?先生」
「しっ!動くな吉良!ヤツが通りすぎるまでじっとしてろ!」
「や、やつって・・・?」
通りの向こうに目をやるイヅル。
こちらにむかってやってくる一団は・・・
「・・・ありゃあ、浮竹隊長じゃねえか。なんだ、なんで隠れんだよ。またナニしでかしたんだよアンタ?」
首を傾げる恋次。
「ヒトを厄災の権化みたいに言うな。ああいう毒気もクセもないのは苦手なの!それに・・・」
その言葉に恋次はニタリと笑い、が言い終わる前に、
「お疲れ様です浮竹隊長!!」
通りに響き渡る声で叫んだ。
「あ、阿散井てめえ〜〜〜!!」
恋次の行動に目をむく。
当然のように浮竹一行はこちらに気付いた。
「阿散井に・・・吉良じゃないか。それに後ろにいるのはか?」
「・・・!」
名を呼ばれ、イヅルの後ろで固まる。
「はい!具合が悪いみたいなんで、近くの救護詰所に連れて行く所っス!」
をイヅルから引っぺがし、前面に押しやってハキハキと答える恋次。
そんな恋次を殺意の篭った眼差しで見つめるの姿に、そこまで苦手なのだと悟るイヅル。
「救護詰所より、うちの詰所の方が近い。薬もあるしな」
「く、薬・・・!?」
青ざめる。
「ああ、よく効くぞ」
うってかわって朗らかな笑みの浮竹。
「俺と吉良は急ぎの用がありますんで、後をお願いしてもいいっスか?」
「あ、阿散井く・・・んぐ!?」
言いかけたイヅルの足を踏む恋次。
「ああ構わんよ」
「ありがとうございます!では!オラ行くぞ吉良!!」
「え、あ、うん・・・」
「ちょ、おまえら・・・!」
浮竹にを押しつけ、マッハでその場を去る恋次とイヅル。
「あ〜、あそこで浮竹隊長が通り掛かってくれて助かったぜ」
ほっと胸をなでおろす恋次。
「・・・後で何倍にもして返されそうだけどね」
「ハッ、心配すんなって。あの女の弱点はもうわかったから次はねーよ。じゃーな」
手を振って歩き去る恋次。
「・・・・・・・・・・・弱点を知っても無駄じゃないかな」
その背を見て、イヅルは一人ごちた。
黄色いペンキで、いつの間にか。
『面白マユゲ』
と、書かれていたから。
思わず自分の背中を確認するイヅルだった。
【終】
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