真神学園3年C組、教室。 そっか。 今日はわたし、日直だ。 【それじゃあ、また明日・1】
休み時間に入った教室は、教師がいなくなると一気に賑やかになる。 わたしは頃合いを見計らって席を立った。 机と机の間の狭い通路、すれ違いざまクラスメートと肩がぶつかる。 「あ、ごめんなさい」 そう言って微笑むのは、学級委員の美里さん。 真神の聖女という彼女の渾名は伊達じゃない。 完璧な人間というのは案外近くにいるものだ。 ・・・綺麗な髪。シャンプー何使ってるんだろ? バレッタでまとめたわたしの髪は彼女と同じくらいの長さだけれど、あんな風にふんわりとゆれたりはしない。 いっそ、切ってしまおうか。さっぱりするだろう。 ああ、黒板を消さないと。 うちのクラスは美里さんを筆頭に何かと目立つ生徒が多い。 さっき美里さんを呼んでいたのは親友の桜井小蒔さん。こちらも大会常勝である弓道部の部長だ。 その隣にいるのは高校生とは思えない巨躯の醍醐雄矢君。レスリング部の部長。 この四人だけでも十分すぎるほど目立つのに、ここに更に目立つ人物が加わった。 「あー!ちょいまち!俺まだノート取ってねェ!」 え?あ。 「あー!」 け、消しちゃった・・・。 「・・・」 ・・・目が、怖い。 中肉中背、黒髪黒目の緋勇君は、目つきが悪いこと以外はごく普通の青年だけれど、あの佐久間君や醍醐君を倒したという武勇伝を持つ。 「ご、ごめんなさい・・・」 。 これが、わたしの名前。 「あの、緋勇君・・・」 「あん?」 う、やっぱり目つきがこわい。 「あの、ノート・・・」 「ノート?」 何を言ってるんだ、お前は?とでも言いたげに睨みつけられる。 うううう、苦手なんだよね、緋勇君て。 強面だけど話せばきさくなので、クラスでの評判はいいんだけれど。 ・・・でも。 ああ、やっぱり聖女様だ。 「そうか。でも美里の借りたからもういいぞ」 「・・・あう、うん。ごめんなさい。それじゃ」 怒ってはなさそう。よかった。 「待て」 ひ!? 緋勇君は声が低い。 ザラリと錆びた声。 わたしのような、気の弱い人間はそれだけで怖い。 「え?」 「お前、俺に謝るようなコトしたっけ?」 「え、え、あの・・・?」 「ごにょごにょ言ってちゃわからん!」 「はう!?」 ど、怒鳴られた!なんで!? 訳が分からずに視線を泳がせると、緋勇君のノートが見えた。 ・・・・・。 でもコレ何語?絶対日本語じゃない。 こ、こんな文字を書く国があったような気がするけれど・・・。 「なにやってんだ、お前ら?」 その声に振り向くと、蓬莱寺君だった。 「近寄るな、京一。バカがうつる」 「な、なんだよ龍麻。急に勉強に目覚めやがって・・・ん?、なんか用か?」 いつもの五人組の所に、普段いないわたしがいれば当然不思議に思うだろう。 「んんんっ」 おいまて!という緋勇君の声を無視して、わたしは教室から逃げ出した。 「失敬な!俺はただ普通に疑問に思ったことをだな!」 「龍麻は普通にしていても顔が怖いから、さんがおびえるのも無理はないかもしれないわね」 「・・だ、だからだな、こうして勉強をして俺は不良ではない事を主張して・・・」 「いまさらなあ・・・そのツラじゃ整形でもしない限り無駄じゃねェの?」 「コ・ロースッ!」 「こら、お前たち、教室で暴れるんじゃない!よさんかッ!!」 逃げ出したものの予鈴が鳴ってきびすを返したらこの状態。 教室の中がどうなっているのかなんて、あまりにも想像がたやすくて、わたしはドアを開けるのをためらった。 あ、なにかが割れる音。 ・・・・・窓ガラス?それとも花瓶? 「うやあッ!?」 それは見なくても分かる、声、気配。 「お、お、オハようございます、犬神先生っ」 ネジの外れた生徒に見えたに違いない。 犬神先生の、突き刺さるような視線を感じる。 ・・・実は、担任のマリア先生も。 ただわたしがあまりにもびくびくしているせいか、マリア先生はわたしに話しかけるとき、迷子を慰めるときのように優しい。 ありがたいのだけど、ひどく情けない気持ちになる。 「ひーちゃんいうな!」 ごす! ・・・ああ、あれは多分拳で殴った音だ。 「痛ェな!!何だよ、いいじゃねえかよ、小蒔も言ってんじゃんか!!」 ・・・窓ガラスの方だったんだ。 「おい次犬神の授業だぞ!?」 「・・・・・」 どうにもいたたまれない。 しかし二人の声は、昼休みの突入したことでクラスの喧噪にかき消された。 いろいろ。 食パン(生)をかじっている人がいたら、黙って見ないふりをしてあげるのも人の優しさってものだと思う。 「あははははは!なんだよ龍麻、それ!・・・メシ?昼メシ!?・・・あイテ!」 「これしかなかったんだよ!いいんだよ!俺食パン大好き!!」 「龍麻・・・」 気付けば美里さん、桜井さんを含めたクラスのお弁当組から施しを受け、即席サンドイッチを食べている緋勇君だった。 旧サイトより引っ張り出しました。 |