という少女は、なんてことはない普通の女子高生だ。




よくよく見れば、つけている髪留めが毎日違うモノで、実は季節に合ったものやその日の気分で選んでいるとか、おとなしそうな雰囲気に似合わずカザツでいつも小さな怪我をしていて、絆創膏が途切れないとか。

あげる悲鳴が『きゃあ』ではなく『わあ』とか『うひゃあ』だとか。

細かいところを上げればキリが無いが、おおむね目立たない、地味な少女だ。







しかし、龍麻に言わせれば彼女の印象はただひとつ。




















おどおど、している。

































【 それじゃあ、また明日・4 】










































「小学生のガキじゃあるまいし、なんでおびえる!?同級生のお前に怖がられる俺の立場は!?」

キレ気味に叫ぶ龍麻。





しかも、は妙に気配に聡い。

後ろから様子をうかがっていると振り向く。
近づけば声を掛けるより早く気づく。

・・・小動物か?

気配を断って近づいて声を掛ければ「うおう」だか「わひゃあ」とかいったマヌケな声を上げる。

それはちょっと面白い。

いやいやそうではなくて。




とりあえず龍麻は、ついさっきゴミを捨てに行った彼女のことをクラスメート達に聞いてみた。




「ああいうのがタイプか?」

ゲシッ!

とりあえず京一の意見は一蹴した。
文字通り蹴った。
そして言った。

「違っげーよ、バカ」

「言えば済むことだろ!?なんで蹴るんだ!」
「うるせェ」
椅子ごと蹴られて床に転がった京一は恨めしそうに睨みながらも、龍麻の攻撃範囲内から逃れて座り直した。

「ひーちゃん、なんでそんなこと聞くの?」
と、小蒔。

「ん〜、ちょっとな」
ほんの少し眉をひそめただけで、龍麻の顔はひどく凶悪になる。

綺麗な逆ハの字の眉は機嫌が悪くなくてもその間にしわが寄っている。
若干目尻のあがった三白眼は、ちらりと見ただけでも睨んでいるとしか思えない。
日に焼けたような褐色の肌と、黒髪。
中肉中背だが、姿勢がよいので若干高く見える。
本人は品行方正(のつもり)だが、前の学校では上級生や他校生からよく喧嘩を売られていたので、東京に来て転校初日から不良に呼び出されても、今更特に驚くこともなかった。
どうやら喧嘩をよく売られるのは自分の顔のせいらしい、と気づいたのは真神に来てからだ。

物怖じしない仲間達は平然という。

「龍麻はカオが怖いから・・・」

はっきりいってかなりショックだった。

勿論龍麻は自分を不良だとは思ってないし、なるつもりもないのでカツアゲなんかしないし煙草も吸わない。
刃物だって、持ってるのはカッターぐらいだ。
もっと早く気づいていればあの喧嘩にあけくれた殺伐とした日々ではなく、イチ高校生として平凡な日常を過ごし、彼女なんかもできていたかもしれない。

・・・今更考えてもしょうがないことだが。

ともかく龍麻は考えた。
どうも自分は不良、もしくは武闘派だと思われている。

実際口より早く手や足が出るので、周りのイメージはあながち間違っていないのだが。

だが龍麻にしてみれば毎日遅刻も早退もせずにきちん学校に出て、授業もちゃんと受けている自分より、いい加減な京一の方が印象が良いのは解せないのだ。

大体、京一なんて木刀持っているんだぞ、木刀を。
どう見たって俺の方がまともだ。アイツの方が不良だろう。

腑に落ちない。ムカツク。

ギロリと京一を睨む。

「な、なんだよ!?」
おびえた京一はさらに一歩、距離を取った。

そして先日、龍麻は気づいたのだ。

不良に頭のいい奴はいない、という実にどうでもいい事ことを。
美里葵という学年一の秀才を家庭教師として迎えた今、龍麻に恐れるものは・・・もとい龍麻を恐れる者はない、はずだ。
クラスの不良佐久間を倒し、真神の総番である醍醐すら倒した龍麻に対し、クラスメート達は当然ながら彼を恐れたが、京一や小蒔が龍麻のことを「ひーちゃん」なんて呼ぶのにつられて、徐々に態度を軟化させている。

なのにあの少女、だけはいっこうに態度が変わらない。

このところ妙な事件続きで忘れていたが。
いい加減、あの態度は納得いかない。

「・・・それは、やっぱりひーちゃんが怖いからじゃないの?」
ズバリ、と言い放つアン子。

うんうん、と頷く一同。

「・・・ボクと京一は2年の時同じクラスだったよ?特別親しくはなかったけど・・・ねえ京一?」
「ああ、特に印象ねェな。おとなしい子だし」
顔を見合わせる小蒔と京一。

「俺は一年の時同じクラスだったぞ。学級委員長で、俺が転校してきたときに学校を案内してくれたが・・・」
醍醐はそこまで言って口ごもった。

「・・・半泣きか?」

「・・・・・・・」
龍麻の問いに、無言で深くうなずく醍醐。

「気を使ってくれていたが、えらく怖がられてなあ・・・今はそうでもないんだが」
「・・・・そうか」
ふむ、と腕を組む龍麻。

「何か気に掛かることでもあるの?」

そこまで言って、葵ははたと気づいた。

「もしかして、彼女も・・・?」
「あ、違う違う。そうじゃねーんだ。・・・・たぶんな」

は《力》を持つ者ではない。
その確信が龍麻にはあった。

「そういえばさんは霊研部よ。ミサちゃんに聞いてみたら?」

アン子はさらりと言ったが、周りにとってそれは爆弾発言だった。




「なにいいい!?」

「マジかよ!?」

「し、知らなかったよ、ボク・・・」

一瞬にして場がざわつく。

「あの部に裏密以外の生徒がいたとはな・・・」
あまり物事に動じない龍麻でさえ唸る事実だった。

「あら、霊研は文化部の中では部員数が多いほうよ?」
と、葵。

さすが、生徒会長は学内の部活動を把握している。




「とりあえず、さんのことは後にしてくれる?ていうか、今までの話聞いてた?」
ずい、と龍麻に詰め寄るアン子。

「お、おう・・・通り魔の話だろ?」

「そう!この三日で高校生からOLくらいの若い女性が何人も襲われてるのよ!」

「狙われるのはきまって髪の長い女な?」

「そうよ!」

「だから遠野、そういうことは警察に任せたほうがいいと何度も・・・」
と、醍醐が口を挟んだ。

「だ・か・ら・!ケーサツに任せられない事態になってるのよ!!」

「・・・犯人は《力》を持つ変態野郎ってことか?」
と、京一。

「そういうこと!」

「あ、俺職員室行かないと」
腰を上げる龍麻。

「どこに行くのひーちゃん!話はここからよ!」

「だーから、職員室。後で聞く、あとで」




美里か醍醐から、はしょって。

と、心の中で呟く龍麻。






長い話を聞くと、眠くなってしまうのだ。






































「ひ〜ちゃ〜〜ん」

職員室に向かう龍麻に、声をかける女子生徒がいた。

振り向かずともわかるその声は。

「裏密。・・・なんか用か?」

ちゃんは、駄目〜」
ビン底眼鏡に奇妙な人形を抱いた小柄な少女、裏密ミサはアン子と同じクラスで、霊研ことオカルト研究会の部長だ。

「・・・・・・あん?」

「あの娘は、違うわ〜〜」
独特の口調で告げるミサ。

「なんの事だよ?」

龍麻は怪訝な顔をしたつもりが、それはとても凶暴なものだった。
ミサはというと龍麻の表情など気にも留めずに言った。

「あの子は“見鬼”じゃないわ〜」

そこまで聞いて、ようやく龍麻は合点がいった。

「・・・・気付いてたのか」
「うふふ〜。ひーちゃんの眼を見れば、わかるわ〜〜」

それは龍麻がまだ誰にも話したことのない、力。
そして、が自分と同じ力を持っているのではないかという、疑問。




「違う、のか」
「ええ〜」
「霊研らしいな?アイツ」
「ええ〜、なかなか優秀な人材よ〜」
「そうなのか・・・?」
「古い血の先祖返りなのね〜、あの〜感覚の鋭さは〜〜・・・醍醐く〜んの、上かも〜」
「俺にはおどおどしてるようにしか見えないがな・・・・」
「ああいう性格だから〜。ひーちゃんのことも〜、気づいてるみたいだから〜」

「俺のこと?」

「小動物みたいに、優しくしてあげてね〜」

「・・・・・。随分気にしてるな?アイツのこと」

「う〜ふふ〜、だって〜、親友だもの〜〜」

「そ、そうなのか・・・?」

「そうなの〜。じゃ〜ね〜」
そう言って立ち去る裏密。

「お、おう・・・」





ますます、のことがわからなくなる龍麻だった。

















職員室。

こってりと絞られると思いきや、マリアはあっさり龍麻を解放した。
しかし、説教よりもつらい物を手渡された。

「誰にでも読める字で書いてちょうだいね?緋勇君」

「・・・・・・・ハイ」
反省文用の原稿用紙を手に、龍麻は教室に戻った。




























(・・・?)

教室の前で、ゴミ箱を持ったが立っていた。

(さっさと中に入ればいいものを、なにをしてるんだか・・・)

蝶の形をしたバレッタが、眼に飛び込んできた。
細い肩。ほんの少し猫背で。






「ッ!」
龍麻は瞬いた。

その姿が、まるで陽炎のようにゆらいでいたから。




「何やってんだ?お前」

「ふおう!?」

奇声を上げて飛び上がるに、龍麻もびっくりした。

「お、お前・・・変な声出すなよ、こっちがびっくりするだろッ」

「ご、ごめんなさい・・・・・・」
上目遣いで謝る

・・・お前ってさあ・・・・」

「な、なに?」

やはりおどおどしている。
さっきの陽炎は、目の錯覚だったのだろうか。

「ま、いいや。入らねェの?」

「あ、うん、入る」
















そして、教室を去る彼女の姿はやはり、どこか儚げで。
























胸騒ぎが、した。


















【続】





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(06/06/29)