この世は、恐ろしいモノで溢れかえっている。


目を瞑れば声がする。


耳を塞げば、足をすくわれる。



その子も、あの子もほら、僕を見ている。


笑っている蔑んでいる。


そうだ、きっと僕は狂っているのだろう。


だから、あんなものが見えるのだ。



きっと僕は、狂っている。


だから、許される。


僕を嘲ったあの女。


僕を見て笑ったあの女。


指差したあの女。


あの女に似ている女。


悲鳴を上げた女。


アイツらは、許されない。


だから僕は。












































《力》 が 欲し い か  ?






















































【それじゃあ、また明日・5】










































「お前が、獲物だ」

そう、鬼は言った。















「逃げろ逃げろ逃げろおおおおおおおおおお!!ハハハハハハッ!アーハハハハハ!!」

嘲笑。

やけにゆっくりと、腕が振り下ろされた気がする。

剃刀のような、鋭利な爪。

太い腕。




最初に、足が動いた。




無意識に身体を反転する。

ばしゃん。

水溜り。
跳ねる泥水。

傘が。

雨が。






振り、おろされる。




めきり、と軋む音。







ああ、傘が。





バキッ










冷たい。











雨。傘が。冷たい。わたしの傘。


















ひしゃげて。












濡れて。











雨。


























なにもかも、断片となって。

いびつなコマ送りで脳裏に焼き付く。

















怖い。






情景と感情と理性と本能。

一瞬でバラバラになったものたちが。










怖い。







鬼ごっこ。

ごっこじゃ、ない。





「ハハハハハッ!ハハ、ハハハハハ!!」








ひしゃげて破れた傘。





もう、使えない。







背中をかすめる腕。










ざわりと産毛が逆立つ。





雨。








ざあ、ざあざあ。






鬼。












わたしは、獲物?









殺される。




















・・・・・・・・・・・・・・逃げろ!!

























水溜りを蹴散らして、走る。







魂の芯から、震えるほど感じる。

これが、本当の『恐怖』









ぎちりっ!

軋む音と同時に、反転する世界。




「あうッ!?」




鬼の手が、わたしの髪をつかんでいる。

ぞっと、血の気が引いた。












死の予感。







さらにぐいと引っ張られ、濡れた地面に倒れる。

ぶちぶちと、髪がちぎれた。




ばしゃん!!

「ぐっ・・・!」

アスファルトに倒れた衝撃で一瞬息ができなくなる。











痛い。

怖い。

冷たい。














眩暈がしたが、全身を打つ冷たい雨がわたしの意識を引きとめた。










この、酷い現実に。












「狂っデな、か、ナイ・・・!」

生臭い息。こもった声。




カラカラ。カラカラ。

なに。これは、なんの音?





泥水が目に入って、痛い。

なにも、見えない。





「泣け!叫べ!!怯えロ・・・!!」




地面についた手のひらがじんわりと痛いのは、こすれて血がにじんでいるから。

そして腐臭。

吐き気がする。














わたしはまだ、倒れているの?それとも起き上がっているの?

それすら、わからない。




頭が、朦朧とする。

いっそ、このまま。

気を失ってしまいたい。





からからからから。





からから、と。

うるさい。

なにかを、訴えるように。









わたしを、引き止める。

なに?

どこから?













「ドイツも、コイツモ・・・!バ、ばかにしやがって・・・!!」




ああ。

鳴っている。




から から から から ・・・・

からから。
ここは暗いと。

からから。
寒いと。













出してくれ、と。














だれかが。























 から  か ら   か  ら か ら か ら ・  ・ ・




















泣いている

どこ?

目が、痛い。

雨が顔を打つ。

生臭い風。

いや、鬼の息。








「見るナ!そんナ眼で・・・俺を見るナ・・・・!」

雨が洗い流す。

泥を。








けれど見えたものは、開かれた鬼のあぎと。






ああ。






から から から






居た。







からからからからから・・・!

「笑ウなアアアアア!!」





ああ。

泣いている。










その鬼の、口の中咽喉の奥腹の底。













から、から。









頭蓋骨が、五つ。

ぎっちりとつめこまれて。










『これでもう5人目よ!』









そんな声を、思い出す。










そう言えば、新聞やニュースで言ってたっけ。










女の人ばかりを狙う、通り魔。




からからん。




「お前モ、笑ッタナ・・・!?」

肩口に食い込む爪。

皮膚を刺し、肉に食い込むその感触が気持ち悪かった。






笑う?





泣いているのに。



遅れて、激痛がわたしを襲う。

視界に、朱とも黄色ともとれる火花が散る。




「ッ!!」




声にならない声。






痛い。

怖い。






殺される。

喰われる。

目の前いっぱいに広がる鬼の口蓋。




泣いている骸骨。







わたしも、こうなるの?















ああでも。




これで全部終われるのなら。




痛いのも。

冷たいのも。

怖いのも。












こわいことばかりなのも。




















終わりにできるなら。










別にいいや、と。











思っ・・・
























からから・・・からから・・・・・・・・































何とか書き直した反省文をマリアに渡し、龍麻は職員室を出た。

廊下で待つクラスメートたちの姿を見つけ、龍麻は口を開いた。

「なんだ、先に帰っててよかったのに」

「危ないから1人で帰るなって言い出したの、ひーちゃんじゃないか」
両手を腰にあて、ぷん、と怒る小蒔。

「・・・そーだっけ?んじゃ、帰るか」

「あいかわらずアバウトだな。ほらカバン」

京一から手渡された鞄を受け取る。

「うるせえ。おおらかと言え、おおらかと」

他愛もない会話を弾ませつつ、昇降口を出る。




カツンッ

龍麻の足元でなにかがはねた。
「うん?」

手に取ってみると、それは欠けたプラスチックのようだった。

「ゴミはゴミ箱に捨てろよな・・・」
拾い上げたそれをごみ箱にしてようとした龍麻だったが、ごみ箱の中にあるものを見つけ、手を止めた

「どうしたの?龍麻」
食い入るようにジッとごみ箱の中を見る龍麻の様子に、葵が気づいた。

「これ・・・アイツのだよな?」

龍麻が指差すゴミ箱の中には、少し欠けた蝶のバレッタ。

「・・・ほんとだわ。壊れてしまったのね」

二人じっと、それを見る。

「なあ、美里」

「・・・・・・・・」

声を掛けられ、龍麻を見た葵の表情は、こわばっていた。

「同じくらい・・・よ。私と」
そう、言った。




「アイツ・・・ッ!」

雨の中、傘も差さずに龍麻は校舎を飛び出した。




「お、おい龍麻!?」
「ひーちゃんどうしたの!」

声を書けるも間に合わず、龍麻は校門の向こうに消えた。






「行きましょう」
投げ捨てられた鞄を、葵が拾い上げる。

「い、いくって・・・?」

「気のせいなら、良いのだけれど・・・いつも、バレッタをつけているから、分かりにくいけれど・・・」

「なんのことだ?美里」
怪訝な顔で問う醍醐。

さんの髪、いつもバレッタで止めているけれど、私と同じくらいの長さなの。だから、もしかしたら・・・」

「ちょ、ちょっと待ってよ、美里ちゃん!さんが、鬼に狙われてるかもしれないってこと?」
驚くアン子。

「仮にの身が危険だとして、龍麻のヤツ・・・飛び出していったのはいいが、がどこにいるかわかっているのか?」
「ま、龍麻は妙に勘がいいからな」

「でも!そのひーちゃんがどこに行ったのか、わかんないよ!?」
それでも、今にも走り出しそうに足踏みをする小蒔。

「それは、大丈夫。龍麻がどこに行ったのかなら、わかるから」

葵は見る。

既に龍麻の姿はなかったが。

黄金のような気配。

それは、龍麻から放たれた《氣》

全身から留まることなく溢れ出す、途方もない龍麻の《氣》の残留。




「龍麻を、追いましょう」































ちょっとコツを覚えれば、簡単だった。

瞳の奧にもう一つ目があって、その瞼を閉じる。
イメージはそう。
戦闘時ですら閉じているその眼を、龍麻は開く。




夕暮れの空は灰色の雲で覆われ、泣いている。
にじんだような風景が、一瞬にして変わる。

赤いセロハン越しに見たかのように、すべてが赤く染まる。

紛れもなくそれは《陰氣》

人を狂わせるもの。異形へと変生させるもの。
かつての自分なら、避けた場所。

途端、体に掛かる負担。

見鬼の能力を開放するということは、それだけ感覚が研ぎ澄まされるということ。
普段なら感じない僅かな《陰氣》や穢れが、そこかしこに漂っているのがわかる。




雑霊たちが、龍麻の《氣》に引かれ、近寄ってくる。

憑依などされてはたまらないので《氣》を全開にする。

奥義を放つ時のように。





肌が、チリチリする感覚。

近くに鬼が居る証拠だ。




迷うことなく龍麻は走り続ける。






かならず、いる。

今日に限って、妙にが気になったのは。







送ってやるべきだった。

一緒に帰るべきだったのに・・・!




ァ!どこだ!?ッ!!」




視界は陰気の濃さを示すかのように真っ赤。





「どこに居るんだ、ッ!!」




返事はない。





「・・・ウゼェ!!」

近寄る浮遊霊や雑鬼を《氣》の放出だけで蹴散らす。





ッ!!」














希うように呼び続ける。





走り続ける。









膨大な《氣》を放出しながら。



























雨が、激しくなってきた。


















【続】














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(06/06/29)