を、また、この現実へと引き戻す。 【それじゃあ、また明日・6】
白いはずの制服は泥に染まり。 雨に濡れた髪を、鬼に掴まれて。 精彩を欠いた目が、ぼんやりと龍麻を見た。 その表情は、死を受け入れたどこか穏やかなもの。 怒りが込み上げた。 文化祭の出し物がお化け屋敷になったというだけで、人生終わったように真っ白になってしまった少女なのだ。 一緒に帰るべきだった。 ゴスッ!! 雨をうち消す、鈍い音。 横へ弾け飛ぶ鬼。 「ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・無事か、ッ!」 荒い息のまま話しかけるその瞳は黄金。 きっと幻だろうとは思った。 こんなところに、彼が、いるはずはないのだから。 そんな瞳の色をして、こんな、想像もつかない《力》をもって。 まるで、の心を読んだように龍麻は応えた。 その声はザラリと錆びた、紛れもなく龍麻の声で。 「・・・・・・・・・」 安心したというよりも、その声にさえ怯えていた自分がなんだか可笑しくて。 緋勇君、と言うつもりだったが、の口から漏れるのは吐息だけだった。 龍麻は、額に張り付く濡れた髪を無造作に掻き上げた。 肩から落ちた衝撃のせいか、その先の腕がだらりとぶら下がっている。 痛みのせいか怒りのためか、歪んだ顔を龍麻にむけた。 構える龍麻。 龍麻の身体から放出される《氣》に、雨がぱッ!と散った。 拳をつくった両の手が。 いや、全身が。 淡い黄金色に光る。 それは、≪秘拳・黄龍≫と呼ばれる徒手空拳の秘奥義。 しかしそれも雨に洗われ、形を崩していく。 振り返った龍麻は、ぐらりと姿勢を崩した。 「・・・とと」 「もうすぐ美里たちが来るからな。そうしたら・・・」 「・・・・っ!」 「ああ、動くなって」 そのあまりの必死な様子に、龍麻は首を傾げた。 「うん?」 「ッ!」 龍麻が気づくより早く。 青白い炎が、五つ。 龍麻の肩に、首に、足に、喰らいついた。 「ヤロウ・・・!」 凍てつくような青白い炎をまとった五つの頭蓋骨の力は強く、振りほどこうとする龍麻の動きは鈍い。 「クソッ、こいつら・・・!?」 骸骨たちはさらに深く、龍麻に喰らいつく。 助けを求める腕は無い。 逃げる足も無く。 泣いていたモノたちだ。 逃れることの出来ない苦痛を、死んでもなお抱え続けなければいけない。 暗い腹の底で逃げることも出来ず声を上げることも出来ない。 自ら喰らっておきながら。 なんて、悲しい姿だろう。 痛みすらなく、ただどうしようもない感情が支配する。 振り払うのを諦め、龍麻は鬼火と化した頭蓋骨たちを己の身体ごとコンクリートの壁にぶつけた。 「脳みそなんか無ェくせに生意気な・・・!」 龍麻だけに。 は、気付いた。 顔を上げて、前を、向く。 一歩一歩、近づく。 「ッ!?来るな!!」 自在に動く五つの鬼火たちの動きは素早く、消耗しきった龍麻はあきらかに不利だった。 は、雨に濡れて冷えて感覚の無い手でぎゅっと龍麻の袖を掴んだ。 自分の声が、耳鳴りでかき消される。 今にも倒れてしまいそうな身体をどうにか律して。 襲いかかる鬼火たちに、言った。 奇妙なその音に、は自分が気を失っていたことを知った。 (なに?今の緋勇君が蓬莱寺君をグーで殴った時のような音は・・・) 龍麻と京一が、お互い胸倉を掴みあって喧嘩をしている。 (あ、あわわわわ!?) 「あ、起きた」 「大丈夫?さん・・・」 真上から聞こえた別の声は・・・ 「み、美里さん!?」 小蒔に顔を覗かれ、葵に膝枕をされているのだと気付いたは、慌てて飛び起きた。 「よかった気がついて。びっくりしたわ、道に倒れているさんを見つけた時は」 「・・・・え?」 「ねえ?小蒔」 「ゆ、夢・・・?」 なにもかもが鮮明に思い出されるのに。 雨の冷たさも。 濡れたコンクリートの感触も。 鋭い爪を食い込ませて掴まれた肩も。 思い出し、肩を見る。 傷は無い。血の跡すらも。 はじめからなにも無かったように。 まるで、夢のよう。 「ううん・・・でも、・・・・」 「そう?じゃあ、一緒に帰りましょう?」 「でも、あの・・・」 周りを見渡しても、ただ、濡れたアスファルトが広がっているばかりで。 あの時、確かに鬼火たちは、身に纏う炎を失い、地面に落ちたはずなのに。 「うん。それはいいんだけど・・・でも・・・」 「うふふ、夢よ、夢」 「へ?いやあの・・・」 「うふふ!」 葵の迫力に負けては口篭もった。 「なんでテメエはいきなりちゃん付けなんだよ!」 振り上げた龍麻の拳をひょいと避ける京一。 「へっ、そう何度もくらうかっての!」 「甘いわ!」 「うお!?」 足を払われ、京一はすっ転んだ。 「・・・ったく、ガキねェ、アンタたち」 もはや止める気も起こらないのか、醍醐はただ、ため息をつくだけだ。 それは、ほんの一瞬の動作で。 は黒板に書かれた自分の名前を消し、明日の日直の名前を書く。 日誌と鞄を持つの姿を目に止めた龍麻が、話しかけてきた。 「帰るのか、?」 「うん、お先に」 五人もの女の人を喰らった鬼のこと。 龍麻の持つ、あのすさまじい《力》のこと。 いつの間にか、治っていた肩の傷。 もちろん、夢だとは思ってはいない。 けれど、なにも言う必要は無いと思っている。 ミサの言うとおり、彼女は古い血筋の先祖返りなのだろう。 言葉には《力》があり、それらは≪言霊≫と呼ばれる。 あの極限の状況で彼女は間違い無く言霊を使った。 それで十分だと、龍麻は思う。 「気をつけてね?」 「日直ごくろーさん、ちゃん」 「じゃあな!」 コレにて幕。 |