幻惑ライブラリ






図書館のエントランスは、夏休みということもあってか多くの人が行き来している。

途絶えない人の流れから外れた壁際、ロッカーと傘立の間に立つのは、明らかに人待ち顔の少女。




だ。




「カーノジョ、なにしてんの?」
その声に、は顔を上げた。

自分に向けられた言葉だと思ったわけではなく、その声が知っている人間のものだったからだ。




そして、相手をまじまじと見る。




「・・・・・・・」







「・・・いや、頼むから反応してくれよ?」

がくりと肩を落とすのは制服姿の青年。
明るい髪が、差し込む夏の陽射しでさらに鮮やかに輝く。
手にはいつもの、木刀の入った袱紗。

クラスメートの蓬莱寺京一だ。

「一瞬人違いかと思ったぜ」
汗を拭う仕草をする京一。

「ご、ごめんね、蓬莱寺君」
あわてて謝る
小さくなるその姿を、京一はしげしげと見つめ、
「やっぱ私服だとカンジが違うよな〜、でも動きが小動物っぽくて、すぐちゃんだってわかったぜ!」
そう言ってグ!と親指を見せる。

「小・・・・、いやちょっと違和感というか、意外で・・・・」
だから、はすぐに反応ができなかったのだ。
「意外って何がだよ?」
「学外及び休日でも制服着用っていう校則を守ってるのは醍醐君だけかと・・・」






「コイツの場合は朝帰りだ!」

京一の後ろにサッと影が走る。

黒髪、黒シャツブラックジーンズ、はてはスニーカーまで黒といった、全身漆黒の青年。

緋勇龍麻だ。

「どわ!?」
殺気を感じた京一は思わず飛び退く。

「ちっ、相変わらず逃げ足の速い・・・・」
舌打ちする龍麻。

「お、おまっ・・!なに背後から踵落し極めようとしてんだよ!?」
「うるせえ。今何時か言ってみろ!」
「俺の腹時計によると・・・11時ぐらい?」
腹をさする京一。

「とっくに正午過ぎてんだよボケ!てめえの狂った腹時計、俺が直してやる!!」
ジーンズのポケットに手を突っ込んだまま、足技を繰り出す龍麻。

「わっ!?やめろ龍麻!勘弁!」
紙一重で避ける京一。

「このクソ暑い中散々待たせやがって!時間ぐらい守れねェのかこの赤毛ザル!!」
「クソ暑いのはてめえの格好だっつーの!」
「うるせえ!何者にも染められないという俺の意思の表れだ!」

口喧嘩しながらの攻防だというのに、二人の速さには目がついてゆかない。
止める事もできず、ただ、周りの視線にさらされる。

と、
「入口で騒ぐんじゃない!まったくお前たちはいつもいつも!」
二人を叱る声は、醍醐のものだ。
の言うとおり制服を着ている。しかもこの暑いのに冬服だ。

醍醐が割って入り、ようやく二人は動きを止める。

その後すぐ、私服の葵と小蒔もやってきた。
「あー、おいしかったァ。ボクもうおなかいっぱい。この後本なんか読んだら寝ちゃいそうだよ」
「うふふ、もう小蒔ったら・・・」

「な、なんだよもう昼飯食ったのか!?俺抜きで!?」
愕然とする京一。

「遅れるお前が悪い」
一刀両断の龍麻。
京一を置いて、さっさと中に入る。

「せっかく宿題手伝ってやろうってのに、ホンット、京一ってばサイテー!いこいこ、さん!」
の背中を押して歩く小蒔。

「ホラ葵も早く!」

「え、ええ・・・」
葵は先を行く小蒔を見て、次に京一の手元を見て。



「京一君・・・あの、勉強道具は・・・?」

「ん?」
首を傾げる京一。

どこからどう見ても、京一が持つのは木刀だけ。

「・・・せめて邪魔はするなよ、京一」
呆れたように言い残し、醍醐も中へ。


「な、なんだよそれ!?オイ!待てよ醍醐!!」



(そうか、違和感は勉強道具持ってなかったからだ・・・)

背後の会話に、は合点がいった。



いつもの面子は、夏休みの課題を片付けてしまおうということで図書館の前で待ち合わせをしたものの、約束の時間を過ぎてもやってこない京一を除いて、先に昼食を済ませたのだ。




そこになぜ、が加わっているかというと。




話は昨日に遡る。













【続】





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(06/06/30)