幻惑ライブラリ










といつもの面子は、図書館の奥に設けられた閲覧テーブルをひとつ占領し、各々必要な本を探して散った。




読書感想文用の本を探して、は書架を眺めながらゆっくりと歩く。

(あ、これいいかも・・・)
タイトルに興味をそそられて、足を止める。

だが、その本はぎりぎりで手が届かない高い位置にあった。

うんと背伸びをして、つま先立ちになってようやく背表紙に指先が届く。
(・・・もう少し。なんだけど)

今更踏み台を持ってくるのは面倒だし、なんだか意地が出てきた。

「むう・・・」

体制を立て直し、てや!と気合いを入れてもう一度手を伸ばす。

だが、背表紙を引っ掻いただけに終わる。




はあ、と嘆息する

やっぱり踏み台を持ってくるかと思ったその時、横から腕が伸びてきてあっさりとその本を引き抜いた。

「!」
目の端に映ったのは全身黒で統一した服装。

この暑いのにそんな服を着ているのは、1人しかいない。

(それにこの気配)
まぎれもなく・・・

「ありがとう、緋勇君」

そう言って顔を向けると・・・隣にいたのはまったくの別人だった。






わうっ。






間違えた恥ずかしさで一気に体温が上がると同時に変な声が出た。

本を取ったのは、黒づくめの青年。

知らない少女から馴れ馴れしく、しかも明らかに違うであろう名前を呼ばれて、青年の方もきょとんとしている。

「・・・これでいいのかな?」
やや戸惑いながらも青年は取った本を差し出す。

見かねて代わりに取ってくれたのだ。

「す、すいません・・・」
恥ずかしさに顔も上げられず、おずおずと本を受け取る

人違いしたことを気にした様子もなく、青年はそれじゃ、と言って去っていった。




「うう、やっちゃった・・・」
呟き、肩を落とす

しかしすぐ気を取り直して、はまた別の書架を眺める。




(あ、これ・・・役に立つかも)
背表紙のタイトルを目にしたは立ち止まった。

今度は、ほぼ目線の位置の高さ。
醜態を晒らさず自分で取れる。

背表紙に手を掛け引き抜こうとする。が、

(ぬ、ぬけない!?)
その棚にはぴっちりと本が詰め込まれ、引き出せないくらいお互いを圧迫している。

「くうう!」

指先に力をこめて引っ張る。
爪が白くなるほど。

だが、抜けない。

「・・・う〜」
一度手を離し、ぴくりとも動かない本を睨み付ける。

そしてリトライ。

だが、今度はあっさり引き抜けた。

そして気づく。

「・・・あ」
書架をはさんだ向こうに、人影。

どうやら向こう側から押してくれたようだ。

黒ずくめのその人影には声をかけた。




「ありがとう緋勇君」

淀みなく言ってからはたと気づく。




「・・・・・」
黒ずくめの人影は明らかに苦笑した。





どうやらまた、間違えたようだ。

「ごッ、ご、ごめんなさい!」

「・・・どうも君とは縁があるみたいだね」
書架の向こうから青年がやってきた。

「いやあの・・・・。ありがとうございました・・・」
今にも消えそうな声で礼を言う

「ヒユウという人に、よっぽど僕は似ているようだね」

「あ、と・・・その・・・格好だけ・・・ほ、本当にごめんなさい」

見ず知らずの人に一度ならず二度も!

深々と頭を下げる

彼がその場を去るまで、は頭を上げることができなかった。









ほんとうにどうしてこう自分は粗忽なのだろう。

はため息をつく。









「なにやってんだ、お前・・・」

「ひゃあ!」
背後からの声に、は飛び上がった。

「いちいちけったいな声を出すな」
そう言っての頭を小突くのは、今度こそ龍麻だった。

いつもいつも、龍麻は背後から気配を絶って近づいてくる。
やめてほしいのだが、そんなことを言ったらどうせまた小動物呼ばわりされるのが目に見えているので、はなにも言わず、うう、と唸って小突かれた後頭部を撫でた。

「・・・も、もしかしていまのみてた・・・?」
は恐る恐るたずねる。

「いや・・・『くうう!』あたりからだが?」

「み、見てるじゃない!」

「もうなァ・・・俺はわかってるけど、見ず知らずの一般人に迷惑かけるなよ」




「・・・・・・・・・」

緋勇君には言われたくない。
心の底からはそう思った。




「なんだおい、その目は?なに考えた今?」
の表情を目ざとく読み取る龍麻。

「べ、別にっ」
は龍麻に背を向け歩き出す。

「言ってみろ?言ってみろほら、怒らねーから!」
後を追って早歩きになる龍麻。

「もう怒ってるじゃないの〜!」
あわてても足を早める。




「コラ!」

ごす!と鈍い音がした。

「ダメだろ、さんいじめちゃ!」
振り向くと、それは右手に分厚い図鑑、左手に数冊の本を抱えた小蒔だった。




「桜井・・・おま・・・ッ、角はヤメロ、角は〜〜!」
後頭部を押さえてうずくまる龍麻。

「うわほんとだ!本の角つぶれちゃった!もう、ひーちゃんの石頭!」

「・・・・」
二人のやりとりに、何に重点を置いて声をかけていいやらわからなくなるだった。





















【続】













人違いされた青年は、プレイした方なら想像できるあの彼です。

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(06/07/01)