幻惑ライブラリ
(あ、これいいかも・・・) だが、その本はぎりぎりで手が届かない高い位置にあった。 うんと背伸びをして、つま先立ちになってようやく背表紙に指先が届く。 今更踏み台を持ってくるのは面倒だし、なんだか意地が出てきた。 「むう・・・」 体制を立て直し、てや!と気合いを入れてもう一度手を伸ばす。 だが、背表紙を引っ掻いただけに終わる。 やっぱり踏み台を持ってくるかと思ったその時、横から腕が伸びてきてあっさりとその本を引き抜いた。 「!」 この暑いのにそんな服を着ているのは、1人しかいない。 (それにこの気配) 「ありがとう、緋勇君」 そう言って顔を向けると・・・隣にいたのはまったくの別人だった。 本を取ったのは、黒づくめの青年。 知らない少女から馴れ馴れしく、しかも明らかに違うであろう名前を呼ばれて、青年の方もきょとんとしている。 「・・・これでいいのかな?」 見かねて代わりに取ってくれたのだ。 「す、すいません・・・」 人違いしたことを気にした様子もなく、青年はそれじゃ、と言って去っていった。 しかしすぐ気を取り直して、はまた別の書架を眺める。 今度は、ほぼ目線の位置の高さ。 背表紙に手を掛け引き抜こうとする。が、 (ぬ、ぬけない!?) 「くうう!」 指先に力をこめて引っ張る。 だが、抜けない。 「・・・う〜」 そしてリトライ。 だが、今度はあっさり引き抜けた。 そして気づく。 「・・・あ」 どうやら向こう側から押してくれたようだ。 黒ずくめのその人影には声をかけた。 淀みなく言ってからはたと気づく。 「ごッ、ご、ごめんなさい!」 「・・・どうも君とは縁があるみたいだね」 「いやあの・・・・。ありがとうございました・・・」 「ヒユウという人に、よっぽど僕は似ているようだね」 「あ、と・・・その・・・格好だけ・・・ほ、本当にごめんなさい」 見ず知らずの人に一度ならず二度も! 深々と頭を下げる。 彼がその場を去るまで、は頭を上げることができなかった。 はため息をつく。 「ひゃあ!」 「いちいちけったいな声を出すな」 いつもいつも、龍麻は背後から気配を絶って近づいてくる。 「・・・も、もしかしていまのみてた・・・?」 「いや・・・『くうう!』あたりからだが?」 「み、見てるじゃない!」 「もうなァ・・・俺はわかってるけど、見ず知らずの一般人に迷惑かけるなよ」 緋勇君には言われたくない。 「べ、別にっ」 「言ってみろ?言ってみろほら、怒らねーから!」 「もう怒ってるじゃないの〜!」 ごす!と鈍い音がした。 「ダメだろ、さんいじめちゃ!」 「うわほんとだ!本の角つぶれちゃった!もう、ひーちゃんの石頭!」 「・・・・」 人違いされた青年は、プレイした方なら想像できるあの彼です。 (06/07/01) |