幻惑ライブラリ






静まり返った空気が、ざわめく。

人の声が聞こえ出してようやく、は目を開いた。






「・・・うあ!?」

すぐそばに壬生の顔があって、思わず身を引く
「あいたっ」
その反動でしりもちをつく。

壬生は、うずくまるに腕を回して覆い被さっていたのだ。




「・・・・・怪我は?」
音も無く立ち上がる壬生。




は呆然としながらもフルフルと首を振る。





足元には散らばった本。

見上げれば、書架は歯抜け状態。




壬生が落ちてくる本から庇ってくれた事に、はようやく気付く。

「あ、あの、ありがとう・・・」




「別に」
壬生はそっけなく返し、ほこりを払いながら辺りを見回す。

「・・・・どうやら、元に戻ったようだ」

「ッ!」
その言葉に、も立ち上がる。





ガラス張りの壁。閲覧用のソファー。

天井の照明。

本が散らばっているが、確かにある、影。






と同じように辺りを見回す人々の姿。




「ほ、ほんとだ・・・」

先ほどまで感じていた違和感は、もうない。




「・・・わけがわからないけど、まあいい。僕はこれで失礼するよ」
きびすを返し、に背を向ける壬生。













「あッ、あ、悪意、だけじゃないよ壬生、君!」






「・・・・・」

たどたどしい呼びかけに、壬生はゆっくり振り向く。




「悪意を覆す気持ち、とか、退ける力も、・・・あるから。この街、には・・・・・・」








きっと、さっきの異常な状態を打ち破ったのは龍麻たちだ。

その確信が、にはあった。









理不尽な暴力。
不可解な現象。

それでも、その隣には、すぐそばには。





「それに、壬生君だって、わたしを・・・」

知り合って間もない自分を、身を挺して守ってくれた。





「・・・よく分からないけれど。その、退ける力とやらは随分荒っぽいようだね?」

壬生の視線が動く。




その視線の先は、まるで爆撃を受けたかのように書架が倒れ、本が散らばっていた。

もうもうと上がる煙に、火災報知機がけたたましく反応する。






「・・・・・・・・こ、これは、ちょっ・・・」

すさまじい光景に言葉が続かず、呆然と見やる




壬生はそんなをしばらく眺め。






「・・・・君の名前、覚えておくよ。





「・・・・・・・・」

なんと言って返せばいいかわからず、はただもごもごと口を動かす。












「縁があればまた。・・・まあ、僕とは出会わないほうが君のためだろうけど」

「い、意味が分からないよ、壬生君・・・・」
途方に暮れたような物言いで返す




「それでいいんだ。意味が分からなくて」

そう言って、今度こそ立ち去る壬生。







その後姿が見えなくなった後も、その場に立ち尽くす

「ふあ、やばい!」
しかしはたと思い出し、慌ててもといた閲覧テーブルへと走る。






待っていなかったと知れたら、龍麻に何を言われるか、なにをされるか分かったものじゃないからだ。







が席につくのと、龍麻たちが戻ってきたのはほぼ同時だった。




「んもー、ひーちゃんってば乱暴なんだから!」
ぷん、と怒りながらやってくる小蒔。

「しょうがねェだろ、あの場合。一刻を争ったんだから。なあ、美里?」
ジーンズのポケットに手を突っ込んだままやって来る龍麻。

「ええ、そうね、でも・・・」
隣を行く葵はちらり、と後ろを振り返る。

事情を知らない人々が、ひどく騒いでいる。

「まあ、やむをえんな、今回は・・・」
しんがりの醍醐は苦渋の表情を浮かべている。





そんな面々に、は。

「お、おか、えり」

そう言ったを、一同はぽかんとした表情で見た。

あれ、わたしおかしなこと言ったかしら、と内心あせる




「・・・あ、ああ、すまんな。一人にして」
最初に口を開いたのは醍醐だった。




「な、なんかすごい音した、ね!なんだろ、な、なんか、あったのかな!?」
たどたどしく尋ねる










知らない振りをしたのは、踏み込んではいけない気がしたからだ。





「爆発があったみたい・・さんは、大丈夫?」
と、葵。

「へ、平気!」
なんだか騙しているようで、気遣ってもらうのが申し訳なくて、は俯く。









「・・・・お前、本当にちゃんとここで待ってたんだろうな?」

あまりにも挙動不審なの様子を訝り、ギロリと睨む龍麻。

「うえ!?う、うううウン待ってた、よ!」
コクコクと激しく頷く

「そ、それより、あの・・・・」

「なんだ?」

「ほ、蓬莱寺君は?一緒じゃ、ないの・・・?」










「・・・・」

再び無言になる一同。






「ふあ〜あ、良く寝た。ん?うお、なんだコリャ!?」

大あくびでやってくる京一。
周りの様子に今頃驚いている。




「京一、お前、どこに行ってた・・・・?」

龍麻が冷ややかな声で問う。




「ん〜?イヤ、なんかよお、水着姿のオネーチャンが俺を誘うんだよ。真っ白な砂浜でさァ。おいかけっこだよ。後一歩で手が届くってトコで・・・・目が覚めた」

がっくり、と肩を落とす京一。












「てめえは一生夢見てやがれ!!」

龍麻の容赦ない足技が京一に炸裂した。













真神の聖女と呼ばれる葵ですらフォローに入れず、もまた、空を舞う京一に心の中で合掌するだけだった。










【終】
















龍麻たちの戦闘シーンはあえて省きました。
仲間になる前のそっけない壬生を書くのは新鮮。
完全に三枚目と化した京一は、次で救済できればなーと思ってます。

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(06/07/05)