幻惑ライブラリ
6
静まり返った空気が、ざわめく。
人の声が聞こえ出してようやく、は目を開いた。
「・・・うあ!?」
すぐそばに壬生の顔があって、思わず身を引く。
「あいたっ」
その反動でしりもちをつく。
壬生は、うずくまるに腕を回して覆い被さっていたのだ。
「・・・・・怪我は?」
音も無く立ち上がる壬生。
は呆然としながらもフルフルと首を振る。
足元には散らばった本。
見上げれば、書架は歯抜け状態。
壬生が落ちてくる本から庇ってくれた事に、はようやく気付く。
「あ、あの、ありがとう・・・」
「別に」
壬生はそっけなく返し、ほこりを払いながら辺りを見回す。
「・・・・どうやら、元に戻ったようだ」
「ッ!」
その言葉に、も立ち上がる。
ガラス張りの壁。閲覧用のソファー。
天井の照明。
本が散らばっているが、確かにある、影。
と同じように辺りを見回す人々の姿。
「ほ、ほんとだ・・・」
先ほどまで感じていた違和感は、もうない。
「・・・わけがわからないけど、まあいい。僕はこれで失礼するよ」
きびすを返し、に背を向ける壬生。
「あッ、あ、悪意、だけじゃないよ壬生、君!」
「・・・・・」
たどたどしい呼びかけに、壬生はゆっくり振り向く。
「悪意を覆す気持ち、とか、退ける力も、・・・あるから。この街、には・・・・・・」
きっと、さっきの異常な状態を打ち破ったのは龍麻たちだ。
その確信が、にはあった。
理不尽な暴力。
不可解な現象。
それでも、その隣には、すぐそばには。
「それに、壬生君だって、わたしを・・・」
知り合って間もない自分を、身を挺して守ってくれた。
「・・・よく分からないけれど。その、退ける力とやらは随分荒っぽいようだね?」
壬生の視線が動く。
その視線の先は、まるで爆撃を受けたかのように書架が倒れ、本が散らばっていた。
もうもうと上がる煙に、火災報知機がけたたましく反応する。
「・・・・・・・・こ、これは、ちょっ・・・」
すさまじい光景に言葉が続かず、呆然と見やる。
壬生はそんなをしばらく眺め。
「・・・・君の名前、覚えておくよ。」
「・・・・・・・・」
なんと言って返せばいいかわからず、はただもごもごと口を動かす。
「縁があればまた。・・・まあ、僕とは出会わないほうが君のためだろうけど」
「い、意味が分からないよ、壬生君・・・・」
途方に暮れたような物言いで返す。
「それでいいんだ。意味が分からなくて」
そう言って、今度こそ立ち去る壬生。
その後姿が見えなくなった後も、その場に立ち尽くす。
「ふあ、やばい!」
しかしはたと思い出し、慌ててもといた閲覧テーブルへと走る。
待っていなかったと知れたら、龍麻に何を言われるか、なにをされるか分かったものじゃないからだ。
が席につくのと、龍麻たちが戻ってきたのはほぼ同時だった。
「んもー、ひーちゃんってば乱暴なんだから!」
ぷん、と怒りながらやってくる小蒔。
「しょうがねェだろ、あの場合。一刻を争ったんだから。なあ、美里?」
ジーンズのポケットに手を突っ込んだままやって来る龍麻。
「ええ、そうね、でも・・・」
隣を行く葵はちらり、と後ろを振り返る。
事情を知らない人々が、ひどく騒いでいる。
「まあ、やむをえんな、今回は・・・」
しんがりの醍醐は苦渋の表情を浮かべている。
そんな面々に、は。
「お、おか、えり」
そう言ったを、一同はぽかんとした表情で見た。
あれ、わたしおかしなこと言ったかしら、と内心あせる。
「・・・あ、ああ、すまんな。一人にして」
最初に口を開いたのは醍醐だった。
「な、なんかすごい音した、ね!なんだろ、な、なんか、あったのかな!?」
たどたどしく尋ねる。
知らない振りをしたのは、踏み込んではいけない気がしたからだ。
「爆発があったみたい・・さんは、大丈夫?」
と、葵。
「へ、平気!」
なんだか騙しているようで、気遣ってもらうのが申し訳なくて、は俯く。
「・・・・お前、本当にちゃんとここで待ってたんだろうな?」
あまりにも挙動不審なの様子を訝り、ギロリと睨む龍麻。
「うえ!?う、うううウン待ってた、よ!」
コクコクと激しく頷く。
「そ、それより、あの・・・・」
「なんだ?」
「ほ、蓬莱寺君は?一緒じゃ、ないの・・・?」
「・・・・」
再び無言になる一同。
「ふあ〜あ、良く寝た。ん?うお、なんだコリャ!?」
大あくびでやってくる京一。
周りの様子に今頃驚いている。
「京一、お前、どこに行ってた・・・・?」
龍麻が冷ややかな声で問う。
「ん〜?イヤ、なんかよお、水着姿のオネーチャンが俺を誘うんだよ。真っ白な砂浜でさァ。おいかけっこだよ。後一歩で手が届くってトコで・・・・目が覚めた」
がっくり、と肩を落とす京一。
「てめえは一生夢見てやがれ!!」
龍麻の容赦ない足技が京一に炸裂した。
真神の聖女と呼ばれる葵ですらフォローに入れず、もまた、空を舞う京一に心の中で合掌するだけだった。
【終】
龍麻たちの戦闘シーンはあえて省きました。
仲間になる前のそっけない壬生を書くのは新鮮。
完全に三枚目と化した京一は、次で救済できればなーと思ってます。
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(06/07/05)
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