ここは、北区にある如月骨董品店。

佇まいは古いが、不思議と現代の街並みに溶け合っている。

店の入口には休業中の札が掛けられ、木戸が閉じられていた。
店の奥の座敷は住居となっていて、主である如月翡翠がやってきた客人に茶を出していた。

客人とはもちろん龍麻、亜里沙、舞子の三人だ。




「そうか、彼女は龍麻のクラスメートなのか」
龍麻からのことを聞かされた如月はそう言った。

「おどおどびくびくしてたってんなら間違いなくだろ」
龍麻はグラスを手に取り、浮かんだ氷をからんと鳴らした。

「どういう子よ、それ・・・」
呆れる亜里沙。

「そーゆーヤツだよ。おおかたその包みを見てビビったんだろ」
如月の脇においている風呂敷包みに視線をやる龍麻。

「・・・確かに、彼女はコレを見ていたが」
如月は、脇に置いていた風呂敷包みを座卓に上げた。

「おかしなモン拾ってきやがって・・・」
忌々しげに吐き捨てる龍麻。

「拾ってきたんじゃない!預かったんだよ!」
憤慨する如月。

「・・・なんか、コレやだ〜」
舞子はそう言って亜里沙にすり寄る。

「なによ、中身は何なのよ?舞子が怖がるなんて、ナニ拾ってきたのよ如月」

「拾ったんじゃないって言ってるだろう・・・。さる資産家が亡くなってね、奥方が始末に困った骨董品を業者に渡したんだが、これだけはどうしても引き取り手がなかったらしくて」

「・・・いわくつきってワケ?」
と、亜里沙。

「そういうことになるね」








「・・・本当に引き取り手がなかったのか?」

二人が会話をしている間、ずっと風呂敷包みを見ていた龍麻が、ようやく口を開く。

いつの間にかその瞳は、漆黒から黄金へ変わっていた。




「・・・・、正確に言うと、引取り手には皆不幸があってね」

「陰気がもれてるな」
重々しく告げる龍麻。
見鬼の能力に頼らずとも、完全に《力》に目醒めた今なら、その程度はわかるのだ。

「・・・・ああ。札で封じられていたようだが、効力が落ちている」
如月は手を上げ、風呂敷包みを撫でる。

「・・・だったら専門家にでも頼んで封じ直してもらえよ。お前ならその手の知り合いがいるだろ?」

「そのつもりだったんだけどね。・・・実は、これを封じたのは僕の先祖なんだ」

如月は結び目に指を絡め、包みを解いた。







「そして、封じられたモノは」






はらりと広げられた包みの中には、滲じんだような墨色の壺があった。

貼られた札も墨色になっている。











ザワッ

途端、部屋に充満する生臭い陰気。






「・・・!!」
息を飲む亜里沙と舞子。








「元は白磁の壺だった」





「・・・・」

如月の言葉に、龍麻は無言で腰を浮かせる。






「中に封じられているものの陰気が、変色させてしまったんだ・・・・」

陰気は目に見えるほど濃くなり、漆黒の霧となって如月を包む。




「翡翠!」
鋭い声を上げる龍麻。




「どうやら僕は、これに引き寄せられたらしい・・・・飛水家の、血が」

黒い霧をまとわりつかせた如月の手が、墨色の壺を撫でる。







まるで、愛しいもののように。











「翡翠、そいつから離れろ!!」




「そして、この店に満ちる水の気配が目覚めさせてしまった」

龍麻の声に耳を貸さず、ゆっくりと目を閉じる如月。

あの炎天下でさえ掻かなかった汗がつう、と一筋頬を流れ落ちた。











「翡翠!!」





次の瞬間、如月の背後から真っ赤な血のような奔流が龍麻を襲う。





「っかやろう!俺たちが来るまで待てなかったのか!?」

龍麻の放つ正拳が、血の奔流をパッ!と霧散させた。

その飛沫に、きゃあ!と悲鳴を上げる亜里沙と舞子。















ヒスイ・・・ふふ。そう、それは俺の名だ・・・






その口から発せられる声は如月のものより若干低く、開かれた目は、もはや人のそれでなかった。




ふふふ。ようやく手に入れた。自由と・・・新たな身体

涼やかで清廉な《氣》は消え、今、如月を取り巻くのは血のような奔流と、どす黒い陰気。




「・・・・テメエ、誰だ!?」
如月を見据え、構える龍麻。





ヒスイだよ。・・・俺の名は、緋水

「んだと・・?」




まずは、俺を封じたあのクソ生意気な言霊使いだ・・・!

血の奔流が如月を包み、ぐるぐると渦巻き、やがて小さくなって・・・・・消えた。






「もう!なんなの!?如月のヤツ一体どうしちゃったのよ!?」

「亜里沙ちゃん・・・・如月君、壺の中の子に身体を乗っ取られちゃった・・・」
亜里沙の腕にすがりついたまま、舞子が言った。

「ハア!?乗っ取られたって・・・、ちょっと龍麻!追いかけないとやばいんじゃないの?」
















「・・・言霊使い・・・?」

しかし龍麻はその場に立ち尽くす。






「ちょっと、龍麻・・?」
「ひーちゃん?」







「まさか・・・いや、でも・・・・・、あーくそ!!」

龍麻は携帯を取り出し、もう一度京一に掛けた。












『蓬莱寺京一はただいま取り込み中ですので改めて掛けなおしてくださいーィ』

ヒトを食ったような京一の声に、龍麻はブチ、と青筋を立てた。

「やかましいわ!!はそこにいるのか!?」

『んな!?な、なん、なにいってんだひーちゃん?』

「如月からウラは取れてんだよ馬鹿野郎!!はテメエと一緒にいるんだろうが!」

『そ、そんな怒るなよ、男のやきもちはみっともねーぞ?』

「なに気色悪いこと言ってんだ!死ね!お前はもうそこで死ね!!」

『んだよ、落ち着けよ〜。硬派気取りのひーちゃんがやったら気にする女の子のことを、親友の俺がいろいろ調べてやってるんじゃねえかよ〜」



そういうことか、と合点がいくと同時に呆れた。

「お前はッ、・・・豆腐の角に頭ぶつけて、死ね!!」

なんだよ〜、あ、ヤベ負ける負けそう!と言いながらアーケードゲームに興ずる緊張感の無い京一の声に、龍麻は電話を切ってしまいたい衝動をどうにか抑える。



「いいか?翡翠がたちの悪いのに身体を乗っ取られた。そいつの狙いはだ!!」

『は?ちょ、待てよ龍麻。話が全然見えねェよ』
ついていけず戸惑う京一。
ちらり、と見た隣の丸イスには、京一がとってやったぴよこが置かれている。





は、ジュースを買いに行って席を外しているのだ。
















だが、龍麻は構わず言った。







































「いいからお前は・・・を護れ!!」













【続】





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(06/08/27)