屋上で対峙するのは、澱んだ深紅と翳った黄金。
12
動物が年を経れば妖に。
物が年を経れば物の怪に。
水が流れを止めて澱んで時を経れば・・・化水(あだしみず)となる。
澱んだ、紅き水に。
緋水は、追いかけてきた龍麻にそう語った。
「肉も骨もすべて化水に解けて一体となった俺に、貴様の攻撃なぞ効かん」
深紅の化水を纏わせ、歪んだ笑みを浮かべる。
「仮に傷ついたとしても、それはこの身体だけ・・・」
荒い息のまま立ち上がった龍麻に向かって。
「んなもん、やってみなけりゃわかるかッ」
龍麻は荒い息で睨み返す。
その表情は疲労を色濃く示している。
ここに来るまでずっと、龍麻は見鬼の力を開放していた。
普段意識して封じているその力は他愛ない雑鬼さえ見透かし、黄龍の《力》を常に開放することになる諸刃の刃。
ここは東京・渋谷。
人の数と比例して陰気の強いこの場所でその力を解放するのがどういうことを意味するか、龍麻はわかっていた。
その疲労は以前を捜すために開放した時の比ではない。
それでも、一刻も早くを見つけなければならなかった。
脳裏によみがえるのは血華を散らしたかつてのの姿。
それをかき消すように、龍麻は首を振る。
そして、緋水に拳を向けた。
「くらえッ」
だが、精彩を欠いたその攻撃を緋水はいともあっさり避けた。
「・・・フッ」
たたらを踏む龍麻に、緋水は攻撃を返さない。
ただ、残忍な笑みを浮かべるだけ。
「・・・クッソ!」
くるりと反転し、壁に背を預ける龍麻。
なぜ如月の先祖が同族である緋水を封じたのか、その背景は龍麻にはわからない。
緋水の身から放たれる禍々しい陰気から、想像に難くはないが。
(それを手助けした言霊使い・・・・)
それがの先祖だと思ったのは龍麻の勘。
いくらが言霊を使ったのを目にしているとはいっても、それがの先祖だと結びつけるのは短絡的だろう。
しかし龍麻には確信があった。
が如月に出会ったこと、緋水が封じられていた壺を見て何かを感じたこと。
如月骨董品店での開封。
何より、その壺が如月の手に渡ったこと。
なにもかも、緋水の怨念が引き寄せたものの気がしてならない。
実際、緋水はここにやってきた。
京一と一緒に、このビルの一階にあるゲームセンターにいるを追いかけてきた。
の命を、狙って。
「・・・、させるかよ!!」
龍麻は呼吸を整え、再び緋水に立ち向かう。
「しつこい」
緋水が腕を振るう。
従うように化水がうねり、龍麻に襲い掛かった。
「がはッ!?」
あっけなく壁に叩きつけられる龍麻。
「無駄だ」
緋水は龍麻に近づき、その首に手をかけ絞め上げた。
「ぐう・・・ッ!」
ミシミシと骨が軋み、顔を歪める龍麻。
「如月の裔も、あの忌々しい言霊使いも、皆化水の中・・・・」
何もかも無駄なんだよ、と緋水は続けた。
【続】
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