今日は近所の神社で夏祭り。
チビたちは昼間から浮かれてる。
「ねー、ツナ!どっちがいい!?」
窓越しに突きつけられた巾着袋。
隣に住む姉ちゃんも、チビ達に負けないくらい浮かれていたりする。
姉ちゃんって言っても血は繋がってないけど。
名前は。
「ねー、どっちがいいと思う!?」
・・・・やれやれ。
08 「ふぅん、意外と可愛いとこもあるんだ」
「お前たち、ひとり300円までだからな!」
そう声を掛けたけど、ランボとイーピンは聞いているのかいないのか、お祭に興奮して駆けていった。
あーあ。
「どうせなら京子ちゃんと一緒に来たかったなあ〜、とか思ってんでしょ?ツナ」
横にいた姉ちゃんがオレの顔を覗き込んできた。
浴衣を着て髪を上げた姉ちゃんは、中三とは思えないくらい大人っぽかった。
すれ違う人たちがチラチラこっちを見る。
「な、なんだよ、姉ちゃん!」
「ふふん、ずーぼーしー」
「姉ちゃんこそ一緒に行くヤツいないのかよ!」
「う〜ん、それがねえ、獄寺くんも山本くんもつかまらなくて・・・」
「オレの友達じゃなくて!クラスメートとか、ほら!ヒバリさんとかッ痛い!?」
うちわが顔面に直撃した!しかもタテで!!
「次その名前出したら鼻にうちわ突っ込むよ・・・?」
怖っ!
ホント、姉ちゃんヒバリさんが苦手なんだなあ・・・。
「苦手じゃなくて嫌いなの」
またヒトの心を読んだ!
「それより、せっかくのお祭りなんだから楽しまなきゃ。あ、チョコバナナだ!ツナ、チョコバナナ買って!」
「オレが!?」
「お姉様の気分を害した罰です」
「なんだよそれ〜」
「次はあたしが奢ったげるから」
それなら自分で買えばいいのに・・・・・・、まあいいか。
「すいません、チョコバナナひとつ」
屋台の中からおらよ、とチョコバナナを差し出してきたのは・・・、
「獄寺君!?」
屋台の奥には山本もいる!
な、なんで二人が屋台でチョコバナナ売ってんの!?
驚くオレに、二人は答える。
「公民館の壁の修理費を稼ぐためにな」
「目標はバナナ売り上げ500本です!頑張りましょう、十代目!」
「ええ!?オレも!?」
公民館って・・・、あの七夕大会の時か・・・。
二人がやるならオレもやらなきゃダメだよな。
「なんだ、二人ともこんなとこにいたんだ〜」
下駄をカラコロ鳴らして近寄ってくるのは姉ちゃんだ。
「さん!?」
「姉さん」
姉ちゃんを見て、二人が驚く。
「おいーす」
その表情にしてやったりとへらっと笑う姉ちゃん。
屋台の様子を見てわざと遅れて来たに違いない。
「十代目とご一緒だったんスか!さん!」
「うん、まーね」
「浴衣似合ってるぜ、姉さん」
山本はそういうこと結構さらっと言えるよなあ・・・。
「へへ、ありがとー」
テメ、オレの台詞を!と獄寺君が山本を睨んだ。
「じゃあさんが売り上げに協力してあげよう。チビたちの分も含めて三本ちょーだい?」
褒められて気を良くしたのか姉ちゃんが巾着袋から財布を出す。
「ほ、ホントすか、さん!ありがとうございます!」
「サンキューな、姉さん!」
たっぷりとチョコを塗ったバナナをチビたちに渡したとこで、周囲がざわめいた。
なんだろう・・・?
オレがキョロキョロしてると、向かいの屋台のオジさんが言った。
「おい、お前らもショバ代用意しておけよ!」
「しょ、ショバ代〜〜!?」
驚くオレに獄寺君が言った。
「ここらを取り締まってる連中に金を払うのが並盛の伝統らしいっス」
だから今回は筋を通して払うつもりっス、と続ける。
「裏社会のぞいちゃったってカンジね〜」
チョコバナナをモグモグしながらのんきに言う姉ちゃん。
そして、明らかに周りの客とは雰囲気が違う人物が屋台の前にやってきた。
こ、この人がここらを取り締まってる・・・・?
「五万円」
やってきたのは・・・・ヒバリさんだった。
「ショバ代って風紀委員にいいい!?」
う、うちの風紀委員地元最凶!?
「活動費だよ。払えないなら屋台を潰すよ?」
ひいい、さらっと恐ろしいこと言ったよこのヒト!
その背後で風紀委員の人たちが近くの屋台をめちゃくちゃにしている。
こ、怖ええええ!!
早く払っちゃおうと、お金を持って屋台の表へ出ると。
「なんだ、君も来てたの」
ヒバリさんが声を掛けたのは・・・・姉ちゃんだ。
当の姉ちゃんはというと、蛇に睨まれたカエルのように微動だにしない。
ヒバリさんは固まる姉ちゃんをしばらく眺めて。
「ふぅん、意外と可愛いとこもあるんだ」
あれ、もしかしてヒバリさん姉ちゃんの私服姿はじめて見るのかな・・・?
「ああそうだよ可愛いよそれがどうした!?女はそういう生き物だから!二つの胸のふくらみはなんでもできる証拠だから!!ってなんで近づく!?くんな!来るなよおおお!」
後ずさりながらチョコバナナを差していた棒を投げる姉ちゃん。
もちろんそんなものがヒバリさんに当たるわけがない。
「そっちこそなんで逃げるの?」
「お、お前が近づいてくるからだあああ!!」
オレの後ろに隠れつつ叫ぶ姉ちゃんは、まるで毛を逆立てた猫のようだ。
ホントに苦手なんだ、ヒバリさんが・・・。
「ところで、その浴衣」
「は?なに?ゆかた?浴衣がなに!?可愛いよ、可愛いに決まってるでしょ可愛いのを選んだんだから、そしてソレを着るあたしも可愛いんだよそれがどーした!?文句あるか!?やんのか!?」
姉ちゃん・・・・そんなに引っ張るとTシャツ伸びるからやめてよ。
ていうか、どーしてオレを盾にするの!?
や、やめろよおおお!オレも怖いのに!!
「自分で着たの?」
唐突にそう尋ねるヒバリさん。
「・・・・・・・・・・・そうだけど」
「じゃあ脱いでも自分で着られるんだ」
「・・・・・・・、さいならっ」
身の危険を察したらしく、姉ちゃんはきびすを返して逃げ出し・・・たけどすぐ転んだ。
「いだッ!」
石畳で、しかも慣れない下駄で走り出すから・・・。
「これ、上納金代わりに貰って行くよ」
姉ちゃんの帯を掴んで立たせ、そのまま連れて行くヒバリさん。
オレたちはただそれを呆然と見送るしかなくて。
ちょ、おい!おおおおおい!!
なんでポカーン!?なんでポカーンなんだよお前らタッケテえええええ!
姉ちゃんの悲痛な叫び声は、人波にまぎれて姿が消えると共に小さくなっていった。
その夜、姉ちゃんは家に帰ってこなかった。
どうしたのかって・・そ、そんな事はオレの口からは言えないよっ!
【 終 】
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