買い物の清算を済ませた二人は、少年と共に近くのケーキ屋に入った。
「そう、六道君は帰国子女なのね〜」
少年の名は六道骸。
イタリアから隣町の黒曜第一中学に編入してきたという。
奈々は次々に質問を投げかけるが、六道は嫌な顔もせず気さくに答えた。
「・・・・・・・・・」
は黙ってケーキを口に運ぶ。
「ちゃんも、最近並盛に戻ってきたのよねェ?」
会話に加わらないを気遣うかのように奈々は言った。
「・・・へえ、そうなんですか?」
どこか嬉しそうに視線を向ける六道。
「・・・・まあ、一応」
はそっけなく返答する。
(なんだろうこの展開・・・)
奈々の口から質問へのお返しのように身の上が暴露され、は不安を隠せない。
俯けば、紅茶に映った自分と目が合う。
「じゃ、後は若い二人に任せるわね〜、ウフフ」
突然、奈々は伝票を持って席を立った。
「え、ちょ、奈々おばさん!?待・・・!」
「ごゆっくり〜〜」
慌てて立ち上がったの静止も聞かず、奈々はそそくさと店を出て行った。
「な、奈々おばさん・・・!」
悪い予感が的中したかのように愕然とする。
そんなに六道少年は言った。
「まだ、ケーキも紅茶も残っていますよ?」
リプレイ
25
駅前の本屋で出会った少年に、は最初から警戒心を持っていた。
偶然とは思えないほど幾度もそこで出会い、最近はそこの本屋にも行かなくなっていた。
(なのに、男子中学生とはあまり縁のなさそうな夕方のスーパーで出会うなんて・・・)
さらに間の悪いことに、今まで何を聞かれても漏らさなかった自身の身の上が明らかにされて。
「いい名前ですね、」
「・・・・・・・・どうも」
の中では常にアラームが鳴っている。
けれど、平静と無関心を装う。
動揺を悟られてはいけない気がするのだ。
だから今も、ゆっくりと椅子に腰掛ける。
フォークを持ち直し、ケーキを切って口に運ぶ。
「最初は、高校生かと思いました。大人っぽいので」
「よく言われる」
当たり障りなく、返す。
そして紅茶を飲む。
食べ終われば。
飲み終われば。
ここから出られる。
「もしかして警戒していますか?僕を」
六道は、笑う。
「僕はただ、君に興味があるのです」
柔和な表情のまま。
「君はいったい何者ですか?」
「・・・・・・・・・・」
無言で返す。
本当はわかっている。
(多分、コイツは)
異質。
同じ異質だからこそわかる、違和感。
目的はわからないが、近づいて来る以上は・・・・、
(・・・・どうしたもんかな)
ここ一番の判断が、には下せない。
とりあえず避けて、何も知らないフリをしてやり過ごす。
運悪く鉢合わせれば口先で誤魔化す。
(・・・ああ、でもコレ失敗してるんだった)
脳裏に蘇る強烈な一撃。
思わず、は頬をさする。
「ところで今日は焼肉ですか?」
六道は突然話題を変えた。
(買い物したものまでチェックしてんのかよ!?)
手を止め、さらに警戒心を強める。
「でも、一人暮らしにしては量が多いですね」
六道は空いた椅子に置かれた買い物袋に目をやる。
(コイツ、あたしのことを調べてやがるな・・・)
一人暮らしなんて言ったことはない。
奈々もそこまでは口にしてはいなかった。
「財布を拾ったのは偶然?」
睨みつけ、質問で返す。
「スリですよ。スられたのを返してもらったんです。・・・まあ、僕がスーパーに入ったのは君の姿を見かけて、ですが」
「アンタがスったんじゃないの?」
スリがそんな簡単にスった物を返してくれるなんてには思えない。
騒ぎにならなかったことを考えれば、何らかのまっとうでない方法で奪い返したのかもしれない。
「違います。今まで僕が、そんな回りくどいことをしましたか?」
胸に手を当て目を閉じる六道。
「・・・してないね」
「でしょう」
「疑って、悪かった。ごめん」
「・・・・・・・・。本当に君は、なんなのでしょう?」
素直に謝るに、六道は再び笑みを向けた。
クフフと声に出して笑うと、テーブルに肘をついて手を組む。
「君のことが気になってしょうがない。きっとこういうのを恋と言うのでしょうね」
「・・・・・」
六道の言葉が理解できず、はその顔を、虹彩の違うその目を見つめる。
「きっと、恋です」
沈黙を否定と取ったのか、六道はもう一度言った。
「いや、それはまちがいなく気のせい」
はゆっくりと首を振る。
ようやく合点がいった。
「いいえ、恋です。百万回生きた猫のように、僕は君という白猫を」
「勘違いだ!」
六道の言葉を遮り、は断言した。
これは本能が告げるエマージェンシー。
人として。
龍として。
いやその両方。
雌としての。
「ああ、そうだ。一人より二人で食べた方が美味しいと思いませんか?」
「全身全霊をもって断るこのヨネスケもどきがあああああ!!」
しゃれたテーブルをちゃぶ台の如くひっくり返し、はケーキ屋から逃走した。
世間一般の常識とはかけ離れた存在は、案外、身近にいる。
それも一人や二人じゃない。
類は友を呼ぶなんて不名誉な言葉がある以上、あの風紀委員長のような態度も処世術の一つだと、は悟った。
・・・続。
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