黒曜ヘルシーランドの三階は映画館だった。 がらんとした空間の中央に、並中の制服を着た少女が一人。 あまりにも場違いなその少女は、扉を開けたまま動かない六道を振り返る。
「・・・驚いた顔は歳相応だね」 が六道より先に笑ったのは、出会ってからこれが初めてだった。
リプレイ
45
「本当に、驚きましたよ」 「なにに驚いた?」 「色々と」 「こっちも驚いたよ、脱獄犯」 の言葉に、最初の段差を下りたところで足を止める六道。 「僕に会いに来てくれたのかと期待したのですが、残念です」 「残念がることはないよ。聞きたいことがあって来たんだから」 「僕に答えられることなら、と言いたいところですが少したて込んでいまして」 「知ってる」 がそう言うと、六道はむしろ先ほどより一層笑みを深くした。 「・・・嫉妬にかられますよ。君はボンゴレのなんなのです?」 「人の縁にジェラってどうするんだか・・・・。そういうタイプには見えないけど?」 「そんな事はありません。恋をすれば皆臆病な道化です」 「イタリアのヤツってみんなそういうキモいテンプレなんだね」 「心外です。今だって僕は君を目の前にしてこんなに胸をときめかせて、声も震えてしまうくらいなのに」 「ツナは幼馴染だよ、おさななじみ」 「それで君は、彼の代わりに僕の元へ?」 「マフィアになった覚えは無いし、姉貴風を吹かせて首を突っ込むつもりもない。最初に言ったでしょ、聞きたいことがあるって」 「そうでしたね。もうすぐ彼らはここに来るでしょうから、手短にお願いできますか」 わかってる、と言っては天井を見上げた。
天井には大きな穴が開いていて、青空が覗いている。 「・・・・空」 「青が澄んでいて、雲が澱んでなくて・・・・飛びたくなる。もう、羽は無いのに」 「君はこの世界が好きなんですか」 「まあ、嫌いではないね」 「こんな世界が、美しいと」 「気に入ってはいるよ」 「・・・・こんな醜い世界をですか」 「嫌いなんだ?」 「ええ、嫌いです」 「一体なんのためにツナを狙ってるの?」 これまでの所業を考えれば六道からは追放されたマフィアへの憎しみが見えるものの、いくらボンゴレの後継とはいえ、ツナの命そのものを狙うにはあまりにも回りくどい。 「君は本当につれない人ですね。そんなことを聞くためにここへ?」 「こんな身体じゃ、見えるものは限られてるんだ。いちいち相手を捕まえて聞かないといけない」 「君が望むなら僕はいつでもどこにでも現れますよ?・・・夢の中にだって」 「不法侵入極まりない。迷惑」 「クフフ」 「君と話していると時間を忘れそうです。どうです、掛けませんか?」 「結構」 「手強いですね、君は」 「悠長に構えてるけど、なにを根拠にしてるわけ?」 「君こそ、幼馴染を買い被っていますよ」 「買い被るほどツナの実力は知らないよ。ただ、今のツナのことをわかってるリボーンを信じてみただけ」 「リボーン・・・ああ、あのアルコバレーノですか」 「それがわかっててその自信?」 「ええ。たとえアルコバレーノが手を出そうとも、僕の計画になんら支障はありませんよ」 「計画」 「僕はボンゴレを手に入れる」 くつろぐように足を組んで身体を傾かせるその姿をつまらなそうに眺める。 「随分マフィアに執着してるんだねェ」 「執着など、」 「執着だ。嫌うのも好きになるのも同じ執着だよ」 「・・・なるほど、君の言うとおりかもしれません。ならばその執着を断ち切るために僕はここにいるのでしょう」 「執着を断ち切って、なにが残るの?」 問われた六道は姿勢を変えた。 「君は面白い人ですね。僕を止めるでもなく、ボンゴレを助けるでもなく・・・」 は動かない。 「六道、ってさ」 「名前を呼んでください。骸、と」 「呼んだわけじゃない。仏教用語で六道は地獄・修羅・餓鬼・畜生・人間・天上の六つを差すんでしょ」 「おや、博識ですね」 「六道は人の心を顕わしている。怒りに身を任せれば修羅。幸福に心を躍らせれば天上。巡る心の動きを六道輪廻と呼ぶ」 「僕の心のあり方で世界は変わるとでも諭す気ですか」 「それこそ心外。そんな事を書いてる本を読んだことがあるのを思い出しただけ」 はまた、穴の開いた天井を見上げる。 「長居したね、帰るよ」 いびつな形の青空を、何かが横切った。 「用は済みましたか?」 「まあね」 「・・・・君はいったい何者ですか」 「異邦人」 何かを待つように天の一点を見つめつつ。 「異邦・・・ハッ、六道を内なる世界という君が、異邦などという矛盾を!」 「・・・ならあたしは狂ってるんだろ。夢に見るほどの記憶はみんな、事故の後遺症が生み出した妄想で」
六道に見せつけるかのように一瞬で漆黒の塊となり、次に翼へと変わった。 羽ばたく度に大きくなる翼で風が生まれ、室内に渦巻く。 顔を上げたと目が合う。 「あたしはアンタの幼馴染じゃないから、迷子になったって探さないし手を引いてもやらないよ」
塵屑がぱらぱらと落ちる中、六道はいつの間にか立ち上がっていた。
「六道を巡る迷い子にそんなものを見せつけて。ひどい振り方をするんですね・・・・」
床に一枚の羽も残さず、デュランダとともに。
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(06/12/24)