百万回繰り返さなくても。
僕は見つけましたよ。
僕の白猫
ひとり歩く彼女を通りの向こうに見たのは、ヒラヒラと舞う蝶を目で追うようなものだったのかもしれません。
目が合ったのは偶然。
やがて目を逸らして歩き去る彼女の後を追ったのは。
多分、気まぐれ。
(並盛中の制服ですね・・・)
料理の本を開いて眺める彼女の横顔は、中学生というには少し大人びていて。
ここは駅近くの本屋。
1ページ1ページ、じっくりと眺めていく彼女。
僕はしばらくその様子を眺めて。
ぐるり、と店内を巡る。
ふいに、書架に立てかけられた絵本に描かれた猫と目が合った。
つり上がった瞳が、まるでこう言ってるよう。
『おんな ひとりに 声も かけられないのかよ ? 』
(・・・・人間は、野良猫よりもずっと不自由な生き物なんです)
君がなかなか言えなかった言葉は、僕にも難しい。
彼女の隣に立って、読むでもなく本を取り出し、捲る。
手元を覗くように見て。
「夕飯ですか」
それが、自分の発した言葉だと気付いたのは彼女がこちらを向いてから。
きょとんとした表情で、自分の言葉がいかに唐突だったか気付く。
横顔よりもさらに大人びた容貌に驚いた。
僕を映すその瞳に魅入る。
返答までの沈黙の時間が吹き飛ぶほどに。
「・・・・・・・・お弁当、だけど」
返ってきた言葉は、耳から沁みこんでくるよう。
ああ、
「素敵ですね」
君が。
「・・・・・・・・・・・・・、どうも」
彼女は本を書架に戻し、その場を去った。
僕はただ、その後姿を見送る。
どうやら彼女は、この本屋によく来るらしい。
彼女以上にここに通って、知ったこと。
「こんにちは」
「・・・どーも」
顔も見ずに返事が返ってくる。
「少し涼しくなりましたよね」
「うん」
彼女からの返事はそっけない。
「良かったら、お茶でも飲みに行きませんか」
「いかない」
彼女はあの白猫よりもつれない。
でも。
絵本の猫と、また目が合った。
見つけましたよ。
百万回を繰り返す前に。
きっと僕は、君よりラッキーです。
『 まだ、 なまえも 知らないくせに のんき な ニンゲン だ 』
おわり。
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