昼休み中の教室には、弁当や買って来たパンなどを食べる生徒達のグループがあちこちにある。
そんななごやかな風景が、のクラスにもあった。
転入当時は雲雀に目をつけられ、クラスメートから敬遠されがちだっただが、最近は徐々に警戒を解かれ、話しかけられることも増えた。
お昼を一緒に食べるクラスメートもできた、ある日の事。
「おーい、」
男子生徒に呼ばれ、は振り向いた。
弁当はもう食べ終わっており、クラスメートの女子生徒と雑談で盛り上がっていたところだ。
ナニ?と尋ねると、指差された先には、違うクラスの男子生徒がドアの外に立っていた。
名前は知らないが、顔は見覚えがある。
確か野球部員のはずだ。
(・・・三年はもう引退してるから元、かな)
そんなことをぼんやりと考えながらはその男子生徒に近づく。
「あたしになにか用?」
「ちょっと、話があるんだけど・・・」
「なに?」
「いや、ここじゃ・・・屋上、行かね?」
ほんの少し目を泳がせる男子生徒。
「・・・、いいけど?」
先に歩き出した男子生徒の後をついていく。
教室を出る瞬間、背後の教室がざわめいたようだが気にせずにドアを閉めた。
「あそこにいるの、さんじゃないすか?」
獄寺の声に、一緒に昼ごはんを食べていたツナと山本が顔を上げた。
見れば、が男子生徒と一緒に屋上を横切っていた。
「・・・ホントだ。姉ちゃんもココで昼食べるのかな」
「あれ・・・一緒にいるのキャプテンだ」
呟く山本を見るツナと獄寺。「なんでさんがテメーの部のヤツといんだよ?」
と、獄寺。
「・・・さあ」
「でも、さ。屋上で男子と女子が二人っていったらさ、その・・・」
気まずそうに切り出すツナ。
「・・・・・・・」
無言で顔を合わせる獄寺と山本。
「確かめます」
「だな」
「ちょ、二人とも!?」
動き出す二人を、ツナは慌てて追った。
天気のいい今日は、屋上で昼食をとる生徒がちらほらいたが、貯水塔で日陰になったところには誰もいなかった。
男子生徒はそこで立ち止まり、に振り向いた。
「あのさ、急にこんなこと言われても困ると思うけど、・・・前からのこと気になってたんだ。オレと付き合ってくれないか?」
そこまで言った男子生徒は俯き、居心地悪そうに身じろぎした。
はというと、よどみなく発せられたその台詞に、ただきょとんとした表情を返した。
まったくもって予想してなかった。
想定の範囲外というヤツだ。
屋上に呼び出しといえば告白、なんて王道中の王道だとは知っていたが。
(てっきり野球部や山本くんのことかと思ったあたしは結構ボケか・・・?)
山本は幼馴染であるツナの友達だ。
そのつながりで練習や試合を見に行ったこともあるので、ここに来る途中でそんな風に思っていたのだ。
「あ・・・、返事は今じゃなくていいから」
沈黙するに、男子生徒はそう付け加えた。
そして、に背を向けて歩き出す。
「ちょ、ちょっとまって!」
は慌てて男子生徒を止めた。
足を止めて振り返った男子生徒に、は言った。
「あの、・・・ごめん。あたし・・・その、付き合えない。ゴメン」
たどたどしく断って、頭を下げる。
そして顔を上げた時。
男子生徒の背後に、こちらの様子を窺うような三人の少年の姿を見つけた。
壁から突き出したその顔は、下からツナ、獄寺、山本。
バッチリ目が合う。
ひく、と口元を歪ませるに三人は顔色を変えた。
頭を引っ込めることもできず硬直する。
何やってんのアンタたち!?
そう言わんばかりにくわっ!と目を見開く。
ご、ごめんなさい・・・と言わんばかりに半笑いを返す三人。
「・・・?」
様子のおかしいを見て怪訝な顔をする男子生徒。
「な、なに!?」
あわてて視線を戻す。
「付き合ってるヤツがいるのか?だから、・・・駄目なのか?」
「あ、いや・・・そういうわけじゃ・・・」
「じゃあ、好きなヤツがいるのか」
「・・・・・・・・」
口ごもる。
相手は山本と同じ野球部だった生徒だ。
ツナたちがいる手前、無闇に嘘もつけない。
俯くに、男子生徒は一歩近づく。
「なあ、もし、そうじゃないんだったら・・・」
固唾を呑んで見守る三人の様子は、見なくてもにはわかってしまって。
「・・・・・・・とにかく、ごめん。あたし」
もう一度頭を下げる。
顔を上げれば、目の前が真っ暗になった。
建物の影だから元々暗いのだが。
「・・・・・・・なにしてんの?」
声で気付いた。
その黒は、ガクランの色。
背を向けて目の前に立つ、雲雀恭弥が羽織っているもの。
「なっ・・・」
思わず一歩下がる。
いったいどこから降ってきたのかと頭を巡らせば。
貯水塔のてっぺんから遅れて飛んでくるフワフワした小鳥。
おそらく、そこで昼寝でもしていたのだろう。
「こんな良い天気に、なに屋上で群れてるの、君たち」
いや、天気が良いから屋上に来てるんですが・・・・。
そんなツナの呟きはの耳には届かなかったが、動く口でわかった。
男子生徒もまた、突然現れた雲雀に唖然としていた。
「な、なんだよ・・・なんか用か?雲雀」
毅然と振舞う男子生徒。
「別に、君に用は無いよ。ただ、僕の睡眠に邪魔だから。消えてくれる?」
どこからともなく銀のトンファーを取り出す雲雀。
「オレの気が済んだら、ここに用は無い。いくらでも昼寝してろよ」
「じゃあ、もう用は無いだろ。教室に戻ったら?」
「オレが用があるのはお前じゃなくてだ!」
食い下がる男子生徒と雲雀を交互に見る三人。
ツナは青い顔でオロオロしている。
獄寺と山本は、何かあればいつでも飛び出せるように構えた。
は、雲雀の背中が邪魔をして男子生徒の顔も三人の様子も見えず、口を挟むきっかけをつかめない。
「だから、用済みじゃない。君は振られたんだから」
そっけなく言い捨てる雲雀。
「お前に関係ないだろ!!」
声を荒げる男子生徒。
「ちょ、まーまー落ち着いてよ」
雲雀に喧嘩を売ってただで済むはずはない。
得も無い、損ばかりだ。
口論を止めるように声を上げる。
腕を上げ、雲雀の肩を掴む。
「それに、彼女は」
それと同時に、雲雀は振り返る。
肩に置かれた手を取って、の身体を引き寄せて。
「僕のものだから、手を出したら咬み殺すよ?」
剣呑な雲雀の視線に、男子生徒は顔色を変えた。
「・・・・ッ」
そして、逃げるようにその場を後にした。
「・・・・・・・なに言ってくれちゃってんの?」
何かを堪えるような低い声を出す。
「なにが?」
手を離す雲雀。
「ソレ思いっきり勘違いされる台詞!」
「・・・・・勘違い?君は僕の獲物だろ」
そう言って、雲雀は貯水塔へと跳躍した。
ほわほわと飛んでいたトリは、の頭の上に降りた。
「そうだろうと思ったけど、世間一般はそう思ってくれないんだよ!」
「意味がわからない。これ以上僕の睡眠の邪魔をしたら今ここで咬み殺すよ」
「・・・・・・・・」
降ってくる声に、は大きくため息をついた。
ガクリと頭を下げれば、トリは飛び立ち雲雀の元へ。
壁の方に目をやれば、そこにはもう誰もいない。
彼らの動揺を示すかのように一本のダイナマイトが落ちているだけ。
とにもかくにも誤解を解かねば。
ダイナマイトを拾って、もまた屋上を後にした。
【 終 】
|