昼休み中の教室には、弁当や買って来たパンなどを食べる生徒達のグループがあちこちにある。

そんななごやかな風景が、のクラスにもあった。

転入当時は雲雀に目をつけられ、クラスメートから敬遠されがちだっただが、最近は徐々に警戒を解かれ、話しかけられることも増えた。

お昼を一緒に食べるクラスメートもできた、ある日の事。




「おーい、
男子生徒に呼ばれ、は振り向いた。
弁当はもう食べ終わっており、クラスメートの女子生徒と雑談で盛り上がっていたところだ。

ナニ?と尋ねると、指差された先には、違うクラスの男子生徒がドアの外に立っていた。

名前は知らないが、顔は見覚えがある。
確か野球部員のはずだ。

(・・・三年はもう引退してるから元、かな)
そんなことをぼんやりと考えながらはその男子生徒に近づく。

「あたしになにか用?」
「ちょっと、話があるんだけど・・・」
「なに?」
「いや、ここじゃ・・・屋上、行かね?」
ほんの少し目を泳がせる男子生徒。

「・・・、いいけど?」
先に歩き出した男子生徒の後をついていく

教室を出る瞬間、背後の教室がざわめいたようだが気にせずにドアを閉めた。



























天気のいい今日は、屋上で昼食をとる生徒がちらほらいたが、貯水塔で日陰になったところには誰もいなかった。

男子生徒はそこで立ち止まり、に振り向いた。





「あのさ、急にこんなこと言われても困ると思うけど、・・・前からのこと気になってたんだ。オレと付き合ってくれないか?」

そこまで言った男子生徒は俯き、居心地悪そうに身じろぎした。

はというと、よどみなく発せられたその台詞に、ただきょとんとした表情を返した。





まったくもって予想してなかった。

想定の範囲外というヤツだ。




屋上に呼び出しといえば告白、なんて王道中の王道だとは知っていたが。

(てっきり野球部や山本くんのことかと思ったあたしは結構ボケか・・・?)

山本は幼馴染であるツナの友達だ。
そのつながりで練習や試合を見に行ったこともあるので、ここに来る途中でそんな風に思っていたのだ。

「あ・・・、返事は今じゃなくていいから」
沈黙するに、男子生徒はそう付け加えた。

そして、に背を向けて歩き出す。

「ちょ、ちょっとまって!」
は慌てて男子生徒を止めた。

足を止めて振り返った男子生徒に、は言った。

「あの、・・・ごめん。あたし・・・その、付き合えない。ゴメン」

たどたどしく断って、頭を下げる





「・・・好きなヤツがいるのか?」

「・・・、えと・・・うん」

は嘘をついた。

好きな人なんてのはいない。

ただ、目の前の男子生徒と付き合うつもりは無い。
だから返事は今でなくてもいい、というのを呼び止めて断ったのだ。




(そもそも中学生と付き合うのはマズいしなあ・・・)

汗を掻くような季節は過ぎたが、の背中にじんわりとそれが滲む。
だって同じ中学三年生なのだが、実は色々と事情があって実年齢を伏して学校に通っている。




本当は今年で二十歳。

見た目は高校生ぐらいの童顔なので、逆に大人っぽいといわれるぐらいだ。




「ウチの学校のヤツか?もしかして雲雀とか」

「あ、それはない」
速攻否定する

「じゃあ・・・?」
食い下がる男子生徒。

「いやあの・・・あたし、年上好きなんだよね!」
は嘘に嘘を重ねた。




「年上って、じゃあ、高校生とか?」

「いや・・・、ううん、そのええと〜」
否定してから、しまったそうだと言っておけばよかったと思いつつ、は脳内で年上の知り合いを次々思い浮かべていく。




そして、口をついて出た名前は。

「あ、あたし、シャマル先生が好きなの!だから、ごめんね!」

保健医であり、主治医であるシャマルの名前を出して、はその場を逃げ去った。


















そして、夜。
帰宅して一人夕飯を食べるの元に、シャマルが怒鳴り込んできた。




「お前は地獄の使者か!!」

「なによう、もう酔っ払ってんの?先生」
シャマルの剣幕などどこ吹く風で味噌汁をすする

「なんの恨みがあって俺を天国から追放しようとする!?」
食卓の向かいに立つシャマル。

「どこの天使の話?あ、夕飯無いよ先生の分は」

「すっとぼけてんじゃねーよ。いつオレがお前と付き合ったって?」

「は?なにそれ。もう酔っ払ってんの?」

「酔ってねー!」
シャマルはドン!とテーブルを叩く。

「じゃあおなか空いたの?だが諦めろお前に食わせるメシはない」
やたらキリッとした口調で告げる

「オメーがオレと付き合ってるなんてホラ吹くから職員会議に連行されちまったんだよ!」

「ああ、そのせいでナンパできなくて女の部屋に転がり込めなくてウチに?」

「まったくもってその通りだが、ソレは今関係ねェ」

「ところで誰が先生とあたしが付き合ってるなんてホラを吹いたの?教えて。今すぐ抹殺するから」

「お前だろーが!!」

「なんであたしが?趣味が悪いのを自慢するほど趣味は悪くないわよ。どんだけ可哀相な子よ、あたしは」

「・・・そこまで言うか・・・・?おじさんにだってこう、いぶし銀の魅力があるだろ?」

「ナイナイ。ったく誰だろう、そんなタチの悪い噂流すなんて」

「お前な、平和ボケした日本の中学校で敵作るなよ・・・」
言いたいことを言って少し落ち着いたのか、椅子に座るシャマル。

「平和ボケした日本の中学校って、不良のトップに立つトンファー常備した風紀委員がいるの?」

「・・・アイツか?」
目の前のおかずに手を出すシャマル。

すぐさまおかずの乗った皿を避難させるように自分の方に引く

「たぶん違う。殺る気なら正面から来るヤツだから。・・・あ」

雲雀の話題に変わったところで、は思い出した。

「断る時に先生の名前出したのがマズかったかな・・・?」

「なんだって?」
の気がそれたのを見抜き、シャマルはから揚げを口の中へ。




「・・・今日さァ、屋上で告白されちゃって。断る言い訳に先生が好きって言っちゃった」

テヘ、と誤魔化すように笑う






「お前ええええええ!?」

絶叫の後、とんでもない数のトライデントモスキートが夜空を舞った。




それは記憶を操作するものらしく、翌日は記憶を消去されたらしい男子生徒からまた、告白された。

















それをどう断ったかはまた別のお話。













【 終 】








 

ブラウザバックプリーズ
(06/11/04)